フフフフフフフフフフフっ……


私の耳元で女の笑い声が聞こえた。

ふ、ふすまが開いてく……

……誰か、いるの……?

いるはずは、無い。


頭ではそれを理解しているものの、私の思考は正常に動かない。

………………

…………あっ……あぁっ……

皆、開いていくふすまから目が離せないまま
身動き一つ取れなかった。



少しずつ少しずつ、ふすまは開き






そして開いたその中には……

髪の異様に長い女がいた──

や、やだ!!
人!?

黒いワンピースを着た女がうずくまり、膝を抱えた体勢で押し入れの中にいる。

女は全く動かないので、生きているのか人形なのかすらわからない。

髪は押し入れいっぱいになるほど、まるでその空間が女の髪で構成されているかのようだ。





顔は長い髪で隠されてよくわからない。






私は思った……


 多分……コレは人間じゃない……

女を取り巻くその空気は

人間のものでない禍々しさをはらんでいる。




その時、またスマホが振動した。

暗闇の中、画面を確認する。

女の 
髪にからむ 櫛を 抜け

見れば女の髪には、赤い柘植櫛(つげぐし)
が絡んでいた。

あの……櫛(くし)を抜けって……

えっ?あの髪にからんでる?

それが次の指令なの?

そ、そんな事して
大丈夫なのかな……?

でも、やらなきゃ次に進めない……

弟を早く助けないと……

怖くないワケではない。

ただ、このまま弟を失う事だけはしたくない!

そんな強い思いだけが私を突き動かした。

ユカ……
気をつけて

うん……

私は、足音をならべく出さない様にゆっくりと押し入れに進んだ。


よく見れば辺り一面、女の黒髪で覆われている事に気づく。


恐怖に怯えながらも女の側にしゃがみこみ、櫛に手を伸ばす。

女の様子は変わらない。




震える指で女の絡まる髪を少しずつ外していく……

大丈夫……大丈夫……

ゆっくり…ゆっくりと……

女の髪からそっと櫛を外していき、なんとか櫛を外す事は出来た。


長い黒髪が数本、櫛には絡んでいる。






櫛を抜いても
女はそのまま微動だにしない……

また、スマホが振動した。

 一階の居間に行け

私は押し入れの女に再び視線を向けた、やはり女に反応は無い……。

ユカ、大丈夫だった?

うん……なんとか

次は、1階の居間へ行けって……

それ……

マリエが私の手に握られた髪の絡んだ櫛を見つめていた。

……?
この櫛がどうかした?

なんとなくだけど……
持っていた方がいいわ……

マリエにそう言われて、私は櫛をポケットに入れた。

1階に戻ろう

子供部屋を出ると、私は先頭を切って階段を降りた。

私がちょうど踊り場の前に来たところで……

……………………っ

みんなが後に続く中、


ふいに……何かの声?のようなものが聞こえた。

ねっ、ねぇ、今なにか声みたいなものが……

ダメよ、振り向いたら……

マリエが間髪入れずにそう言うと、ヒロが小さな声で言った。

ヤバイ……オレ
……振り向いちゃった……

私たちは、ヒロの言葉に一斉に後ろを向いた。

えっ……? なに?

すると……

ヒロはまるで今までの会話等知らないといった表情で、自分に集中して向けられた視線に不思議そうな顔をしている。

いっ、今ヒロ
振り返ったって……

はっ?
何?

……うそ

まさか……

今のは、ヒロが言ったんじゃない……!?




その時……



私は降りている階段の上に人影らしきものを見た。

誰か……いる……

私のその言葉に、全員が階段の上を見上げる。
 

薄暗闇の中、黒い服を着た俯いたままの女がいた。





あいつだ! さっきの押し入れの女だ!!

女が顔を上げる。


満面の笑みで、赤い口紅を乱雑に塗った口元が、裂けるるかと思うくらい横に開いた。

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