しかし、あれだな。
多少の違和感に目を瞑れば、見れば見るほど地球とそう変わらない町並みだな。

そうなんですか?

ああ、建物の種類はこう多く無いが、特に俺の居た日本に良く似ているよ。

まぁ、都市部の市街地からちょっと先に、西洋風の城が見えるのはかなりのミスマッチだけどな……。

きっと地球と私達の星が近しいものだったからこそ、輝明がバディに選ばれたのかも知れませんね。

とはいえ、あんなもの見せられちゃうと、地球との技術力の差はだいぶあるんだなって、嫌でも思い知らされるけどな。

そう言いながら輝明の見つめる先には、これから向かわなければならない【セントラルタワー】のある都心部の壮大な景色が空へと広がり、現代の日本では考えられない程の高層タワーがひしめき合っている。
六本木ヒルズや、スカイツリー等とは比べ物にならない程の高さだ。

一番上なんて、窓開けたら外に放り出されるんじゃないか?
気圧の関係とか、ジェット気流とかで……。(汗)

多種多様な構造の建築物がひしめき合っているのは確か、この国が統一国家である事と、元にあった細かい地域文化の融合が収束した結果によるものだとか。

昔はこの狭い星にも多くの種族や文化があったようですが、自然と一箇所にそれが集まって来て、今のこの都市が出来たそうです。

個人や国家間での争いが起きないなら、それをわざわざ分けておく必要も無い故の自然統合か、何か想像し難いけど、それは確かに合理的な判断だな。

ええ、私達は何事も合理的に、話し合いの中で平和的に栄えてきました。

ですが結局最後の最後まで争いは起きなかったものの、人々は意見を対立させ、それぞれがどうしようもなく取り返しのつかない結果になってしまいましたが……。

そうだな……、何というかその。
かける言葉も見つからないが……、残念だったな。

はい、ですが結局私達は最後の最後まで争う事も無く、結果的に世界が先に壊れてしまいましたが、それだけは誇りに思っています。

案外、文明が滅ぶ時というのは、こうあっさりとしているものなのかも知れませんね。

その……、恨んではいないのか?
化け物になった奴らの事は。

そうですね。父を失った時は流石に、心の底から悲しかったです……。

ですが、彼らも生きる為に必至になって邁進した結果の失敗であれば、それは同じ星の民として賞賛こそすれ、恨むような事ではありませんから。

……。

悪い、変な事聞いちまったな。
忘れてくれ。

いえ、構いませんよ。

しかし、あれだな。
深夜には化け物が沈静化するって話は、本当だったみたいだな。

信じてなかったんですか?

いや、そういうわけじゃないんだけどさ……。

あんな目に遭った直後に、実際にあんなのが沢山うろうろしてる所なんて、見たくもなかったからな……。

それは確かに。

彼らは既に本能だけで動いている野生動物みたいなものですからね。ですが、人であった頃の名残として、その生活リズムは元のままみたいなんです。

夜になればそう、人であった頃のように皆それぞれの寝床に帰って次の朝日が登るまで、夜明けを待つように……。

悲しい夜明けだな……。
だがこの状況に限って言うならば、この星の人達が規則正しかった事には感謝だな。

そうですね、もっとも今の私達はバディ・プログラムの起動ホストとしての影響で、暫くは睡眠を取らなくてもそのシステムによって健康状態を数日は保てるように管理されちゃっていますけど。

そうか、だからさっき数時間寝ただけで体の調子が頗る良いわけだ。
半不死身の肉体だけじゃなく、そんな便利な機能付きとは、全く凄いもんだな。

ですがその代償としてエネルギーの消費も格段に増えているので、普段よりもその都度栄養を摂取しないといけない訳ですけど。

この星の食糧事情を考えると、本当に最終手段だったんだな。
まぁ、文字通り背に腹は代えられなかったって事か。

地球の人達は、背と腹を代えられるんですか?

いや、そういう意味じゃないんだけどな。

はぁ……。
あ、最初の目的地に付きましたよ。

思ったよりデカいな……、ホームセンターみたいな所か。
これなら使えそうなものも沢山見つけられそうだな。

よし、早速入ろうじゃないか。

はい、気をつけて下さいね。

ああ、なるべく音も立てないように慎重に行こう。

分かりました。

建物の中に入ると、外観の通り倉庫然とした広いスペースにずらりと棚が並べられ、その棚には所狭しと多くの工具や部品といったものが天井に匹敵する勢いで陳列されている。

デザインは少し近未来感はあるが、大体見た目通りの道具って事でいいのか?

リア、すまないがこの箱には何て書いてある?

あ、ちょっと待って下さいね。
いま翻訳機能を設定しますから。

リアが真剣な趣で輝明を見つめるかのように集中すると、リアの目が先刻化け物に襲われた際と同じように目の色が変わり、瞳には細かい文字の羅列のような、紋章のようなものが映し出されていた。

はい、これで大丈夫なはずです。
もう一度文字を読んでみて頂けますか?

お、おお?

はは、こりゃ便利だ。
さっきまで読めなかった文字がちゃんと読めるようになったぞ。

サンキューな。

はい、お役に立てて嬉しいです。

何々……、ふむふむ。
よし、これで間違い無さそうだ。

すまないが、ちょっと待っててくれよ。

はい?ええ。

輝明が箱の中身から取り出したのは、バッテリー式のハンドドリルのようなもので、恐らく穴を開けたりネジを回したりといった事の為に使う工具のようだ。

ええと、説明書をみる限りここがセーフティーロックか。

輝明はドリルの一部にマイナスドライバーのようなものを差し込み、工具の分解を始めた。

ようし、これでセーフティーロックは解除出来たはずだ。
リア、これを持っててくれ。

輝明は先程まで分解して弄っていたドリルを組み直し、リアへと手渡した。

これは…?

それは穴を開ける工具のドリルだ。
だが、それが今のキミが戦う為の武器さ。

これが…私の武器。

もし君に向かってくる敵が居た場合、迷わずそれを敵に突き立てるんだ。

レバーを引けばいつでも動かせるようにしたから、回しながら相手に突き立てれば非力な奴でも、十分に相手の弱点部分を破壊出来るはずだ。

私……が。

いいか、もし複数の敵に囲まれたり、君の方が真っ先に狙われた場合にはそれで時間を稼ぐんだ。倒せなくてもいい。

倒……す?

怖いか?狙うのは人間部分でも、奴らはもう人間じゃない。
やらなきゃやられるのはこっちなんだ。

勿論、出来る限り俺が何とかするつもりだ。
だが最悪の事態に備えて、予め覚悟しておくってのは、いざという時に一番大事なんだ。

はい、その通りだと思います。
でも、正直に言うと自信はありませんが……、努力はします。

ああ、悪いが最低限で構わないから、背中は預けるぞ。

はい。

さてと、それ以外にも武器になりそうな物を幾つか拝借させて貰うか。
投擲用にハンマーや錐何かも欲しい所だな。

流石に鉈やナイフとかは無いか……ん?

……。

何であんなものが!?
展示用のレプリカか何かか?

武器としては立派だが、あんなもの見つけたからといって、持ち歩ける訳がないんだけどな……。

何だか楽しそうですね、輝明。

ん、そうか?こんな状況で不謹慎かも知れんが、ゲームなんかでも新しい街で装備とかを新調する場面で、どうしても必要以上にワクワクしちまう達でな。

それに、子供の頃からこの手のSFやらファンタジーが大好きでな。
いざという時に対処出来る様、本気でサバイバル教本とかを読み漁ったものさ。

もっとも、いい歳した大人になってから本当に経験するとは夢にも思って無かったけどな。

ですが、それがきちんと役に立っているじゃないですか。
頼もしい限りです。

……。

なぁ、リア。
1つ聞いてもいいか?

はい?なんでしょう。

何でそんなに初対面の俺の事をその……、ちっとも疑わずに信用してくれてるんだ?

……。

何ででしょうね。
ただ、何となく輝明は私を見捨てたり、危害を加えたりするような人ではないと、そう感じたから……。

これじゃ答えになっていませんよね?
すみません……。

いや、こっちこそ変な事聴いてすまなかった。

逆に、リアから俺に何か聞きたい事は無いのか?

そうですね。

では何故、何故あなたはこんな理不尽で無茶苦茶なお願いをした私に嫌な顔一つせず付き合ってくれているんですか?

……。

……そうだな。今はしがないサラリーマンをやってはいるが、昔は学校の教師なんかをやっていたんだ。

へぇ、何だかとても似合いそうですね。

将来を目指した時のもう一つの夢が教師でな、国語や道徳何かを、丁度リアぐらいの学生達に対して教鞭を揮っていたんだ。

夢を叶えたんですね。素敵です。

……。

だが現実はそうでもないさ。
俺は彼らに物語から他人の想いを汲み取る事の重要さや、相手を尊ぶ事の大切さを教えているつもりだった。

それは俺がそう思い込んでいただけで、俺の受け持っていたクラスでは、担任の俺が気づかない所でいじめが横行していたんだ。

いじめ?

ああ、それは地球の人間社会に深く根付いている本能的習慣とも言えるかも知れない。

【集団から意図的に弱者作り出し、それを排他する事で集団の和と統率を生み出すという、最も残酷で醜悪な、最低な文化】さ。

……。

皮肉なもんだろ?人の想いの大切さや、尊さを教えているつもりだった俺自身が、一番あいつらの想いや辛さに気がついてやれてなかったんだからな。

そんな……。

その責任を取らされる形で、俺は学校側と生徒達の親から辞職を迫られ、教職の世界から身を引いたのさ。

……。

だから、きっと俺はその生徒達とお前を重ねて、その罪滅ぼしをしたいだけなんだよな、多分。

とどのつまり、お前を助けようとしてるのは、俺のただの自己満足さ。

悪ぃな、こんな不純な動機の騎士で。

そんな事!!
そんな事……、ありません。

何時だって貴方は自身までかなぐり捨てて、本気で私の事を守ってくれたじゃないですか……。

……。

!?

!!

シッ、……静かに。

コクン……。

この壊れた世界を壊すのはアナタ ~2話~

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