それは、誰もが知っている、極めてポピュラーな殺害方法だった。
それは、誰もが知っている、極めてポピュラーな殺害方法だった。
……『絞殺』だよ
その場の誰もが僕に視線を向けた。
犯人は、ロープ状の物で被害者の首を絞め、その絞殺痕に沿って首を切断したんだ
……確かにそれならば外傷は残らない
仮に、切断だけで隠し切れないほどの太めの痣が残ってしまった場合でも、包丁でグチャグチャにしてしまえばそれも分からない
絞殺か……盲点だった
でも問題は、そのための凶器だよ
このコテージや島に、絞殺ができるようなロープがあった?
ベッドシーツでしたら、ロープ状にできなくもないですかね
あのシーツをロープ状にしたら、皺くちゃになるよ
志島と一緒に、マスターキーで全員の客室を確認したけど、そんな皺はついていなかった
やっぱり、凶器になるものは存在しないんじゃ……
一つだけあります
そして、それを使って犯行ができた人も一人しかいない
凶器の特定は、必然的に犯人に結び付く
……?
誰でしょう?
客室にも
食堂にも
厨房にも
温泉にも
医務室にも
トイレにも
コテージの外にも
ロープ状のものは存在しない。
これは揺るぎない事実だ。
でも僕は知っている。
唯一、凶器を持ち、かつ犯行が可能だった人物を。
凶器を持ち、武井さんの殺害が可能だった、たった一人の人物
それは……
……ユナちゃん、君だよね
ユナちゃんはまっすぐに僕を見つめる。
…………
違うよ
いいや、違わないよ
犯行は君以外に不可能だった
そしてユナちゃん
君は、僕らとこうして話している今もなお、武井さんを殺害した凶器を持っている
浴衣には物を隠すことができないって言ったよね
なんなら、ハルカちゃん、私をボディーチェック……
隠しているんじゃない
僕らの目にも映る形で、君は今もそれを『身に着けている』んだよ
ユナちゃんの声が止まった。
場は、水を打ったようにしんとなる。
その凶器は、元々は管理人室の押入れの中にでもあったんだろうね
浴衣の帯だよ
…………
浴衣を借りて、着ずに隠し持っていた人がいるかもしれない
浴衣は貸し出し記録をつけています
藤堂さん、結木さん、片倉さん、武井さんの四人にしか、浴衣は貸していません
先程も言ったが、PROFILE上、俺と片倉が武井の部屋に入ることは不可能だ
ユナちゃんは何も言えずにいる。
そもそも、藤堂が犯人であることは、前半の証言から察しがついていた
……え?
藤堂、片倉、赤城
トイレについての証言に訂正はないな?
今さら言い逃れようとしたところで遅いがな
三人の証言からトイレに立った順番を整理すると、次のようになる
トイレに立った順番
1. 片倉(1回目)
2. ユナ
3. ハルカ
4. 片倉(2回目)
順番に矛盾はないように感じるね
ああ、順番はな
三人とも、トイレに立った時間を覚えているか
少し考えた後、三人は首を横に振った。
そうか、では片倉に聞く
お前は頻尿か?
ええっ?!
ち、違うよ、いたって健康だよ
だろうな
つまりお前の一回目と二回目のトイレには時間差があったと考えていいな?
え……うん
一回トイレに行った後、一眠りしてからもう一回行ったよ
数時間の差はあったと思う
つまり片倉の一回目のトイレと、赤城のトイレには大きな時間差があったということになる
その数時間の時間差があったにも関わらず、藤堂、お前はなぜ二人とすれ違っている?
ずっとトイレに籠っていたのか?
言われてみれば確かに……
順番にばかり着目して、時間について考えていなかった。
…………
……事件を一から整理してみよう