包丁による殺害が不可能……?
包丁による殺害が不可能……?
刃物を正面から向けていたら、悲鳴が上がったはず
でも、私たちはそんな声を聞いていない
無理だよ、刺殺は
客室の壁はそれなりに薄い。
まして僕は隣室にいたのだ。気付かない訳がない。
数秒の沈黙の後、ユナちゃんがハッとしたように口を開いた。
……犯人は
被害者が眠っている隙に、胸を刺したのかもしれない
有り得ないな
武井は犯人を招き入れたんだぞ?
その時点で起きていなければおかしい
二人でいる間に武井が寝たとでも言うのか?
その通りだよ
ユナちゃんは揺るぎない口調で返答した。
医務室に、睡眠薬があったはず
それを使えば、同じ部屋にいながら、被害者を眠らせることができる
……医務室って、鍵を持っていない僕達には入ることができないよね
うん、そこに入ることができたのはたった一人
皆の視線が一点に集中した。
……志島さん、あなたしかいませんよね
志島さんは虚を突かれたように呆然とし、やがてアワアワと反論を始めた。
ちょっと待ってくださいよ
確かに医務室に入れるのは、マスターキーを持つ私だけです
医務室手前にある管理人室は、マスターキーがなければ入れませんからね
でも、私は彼女の部屋に入れない
彼女は『親戚と旅行』のためにこの島に来たんでしょう?
私は『コテージの管理人』だ
『管理人』が『旅行』で島を訪れるなんて、おかしいですよ
志島さんが管理人であることが真実なのは、ゲーム開始時の彼の言動から判断できる。
管理人でなければ、各人のルームキーの在り処を知るはずがない。
念のために言っておくと、ルール上、『GAME START』の合図があるまでにステージの下見やトリックの準備を行うことは許されない。
……確かに、『管理人』であるあなたは『旅行』でここを訪れたんじゃない
でも、もしもあなたの発言の一つが嘘だったなら……?
『21:00~7:00はマスターキーは使えない』
この発言が嘘なら、あなたは武井さんを殺害できますよね
なっ……
志島の発言に偽りはない
鶴の一声により、志島さんに集中した視線はユウキ君の元へ向かった。
なぜなら、就寝前に志島を呼び、客室にマスターキーが使えないことを、俺がこの目で確認したからだ
朝も同様に6:30に起床し、マスターキーが使えないことを確認している
そんなことをしていたのか……
それに、藤堂の推理では返り血の謎が解明されていない
う……確かに
なんだ、考え違いだったかぁ
いい線行ってると思ったんだけどな
志島さんはほっと胸を撫で下ろし、安堵の溜息を吐いた。
……先ほどの志島の反論のように、PROFILEを用いて容疑者を絞るのであれば
俺と片倉を除外してくれ
言っておくが、武井のPROFILEは片倉と二人で確認した
嘘などはついていない
武井さんは『親戚と二人で旅行』。
結木君と片倉さんは『カップルで旅行』。
彼ら二人のPROFILEが武井さんのそれと重なることは考えられない。
結局、包丁での殺害は不可能っていう話に戻ってくるのか……
それって、裏を返せば包丁以外で殺害したってことですよね
でも遺体には包丁での切り痕以外に外傷はなかったし……
包丁以外で殺したなら、何のために包丁突き刺したって話ですよね、ハハ……
あっ
その時、片倉さんが閃いたように声を上げた。
……返り血の謎が、解けたかもしれないよ