包丁による殺害が不可能……?

赤城ハルカ

刃物を正面から向けていたら、悲鳴が上がったはず
でも、私たちはそんな声を聞いていない

赤城ハルカ

無理だよ、刺殺は

客室の壁はそれなりに薄い。
まして僕は隣室にいたのだ。気付かない訳がない。

数秒の沈黙の後、ユナちゃんがハッとしたように口を開いた。

藤堂ユナ

……犯人は

藤堂ユナ

被害者が眠っている隙に、胸を刺したのかもしれない

結木ソラ

有り得ないな
武井は犯人を招き入れたんだぞ?
その時点で起きていなければおかしい

結木ソラ

二人でいる間に武井が寝たとでも言うのか?

藤堂ユナ

その通りだよ

ユナちゃんは揺るぎない口調で返答した。

藤堂ユナ

医務室に、睡眠薬があったはず

藤堂ユナ

それを使えば、同じ部屋にいながら、被害者を眠らせることができる

片倉トオル

……医務室って、鍵を持っていない僕達には入ることができないよね

藤堂ユナ

うん、そこに入ることができたのはたった一人

皆の視線が一点に集中した。

藤堂ユナ

……志島さん、あなたしかいませんよね

志島さんは虚を突かれたように呆然とし、やがてアワアワと反論を始めた。

志島ソウイチ

ちょっと待ってくださいよ

志島ソウイチ

確かに医務室に入れるのは、マスターキーを持つ私だけです
医務室手前にある管理人室は、マスターキーがなければ入れませんからね

志島ソウイチ

でも、私は彼女の部屋に入れない
彼女は『親戚と旅行』のためにこの島に来たんでしょう?

志島ソウイチ

私は『コテージの管理人』だ
『管理人』が『旅行』で島を訪れるなんて、おかしいですよ

志島さんが管理人であることが真実なのは、ゲーム開始時の彼の言動から判断できる。
管理人でなければ、各人のルームキーの在り処を知るはずがない。


念のために言っておくと、ルール上、『GAME START』の合図があるまでにステージの下見やトリックの準備を行うことは許されない。

藤堂ユナ

……確かに、『管理人』であるあなたは『旅行』でここを訪れたんじゃない

藤堂ユナ

でも、もしもあなたの発言の一つが嘘だったなら……?

藤堂ユナ

『21:00~7:00はマスターキーは使えない』

藤堂ユナ

この発言が嘘なら、あなたは武井さんを殺害できますよね

志島ソウイチ

なっ……

結木ソラ

志島の発言に偽りはない

鶴の一声により、志島さんに集中した視線はユウキ君の元へ向かった。

結木ソラ

なぜなら、就寝前に志島を呼び、客室にマスターキーが使えないことを、俺がこの目で確認したからだ

結木ソラ

朝も同様に6:30に起床し、マスターキーが使えないことを確認している

そんなことをしていたのか……

結木ソラ

それに、藤堂の推理では返り血の謎が解明されていない

藤堂ユナ

う……確かに

藤堂ユナ

なんだ、考え違いだったかぁ
いい線行ってると思ったんだけどな

志島さんはほっと胸を撫で下ろし、安堵の溜息を吐いた。

結木ソラ

……先ほどの志島の反論のように、PROFILEを用いて容疑者を絞るのであれば

結木ソラ

俺と片倉を除外してくれ

結木ソラ

言っておくが、武井のPROFILEは片倉と二人で確認した
嘘などはついていない

武井さんは『親戚と二人で旅行』。
結木君と片倉さんは『カップルで旅行』。

彼ら二人のPROFILEが武井さんのそれと重なることは考えられない。

豊根カイ

結局、包丁での殺害は不可能っていう話に戻ってくるのか……

志島ソウイチ

それって、裏を返せば包丁以外で殺害したってことですよね
でも遺体には包丁での切り痕以外に外傷はなかったし……

志島ソウイチ

包丁以外で殺したなら、何のために包丁突き刺したって話ですよね、ハハ……

片倉トオル

あっ

その時、片倉さんが閃いたように声を上げた。

片倉トオル

……返り血の謎が、解けたかもしれないよ

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