【第三話】
『坂本』
その頃コテージの入り口では、相変わらず報道陣の声が飛び交っていた。
【第三話】
『坂本』
その頃コテージの入り口では、相変わらず報道陣の声が飛び交っていた。
中は一体どんな状況なんでしょうか!?
最近の事件との関連性は?
愉快犯との噂もありますが―――
様々な人間が同時に言葉を発する為、ほとんど聞き取れない。カメラマンは少しでも中を撮影しようと、何度もシャッターをきる。
おい!テープの中に入るな
一人の警察官の怒声が響く。
視線の先には一見、英国紳士の様な雰囲気が漂う、細長いステッキを持ち黒のスーツを着てシルクハットを被った男性があった。
アンタ。…どこの記者だい?勝手に入られると―――
これは失礼した。私、坂本と名乗らせて頂いております
警察官の言葉を待たずして、男は直ぐに深々と頭を下げた。場にそぐわない程の奇妙で丁寧な行動に一瞬、警察官は戸惑った。そもそも、記者と聞いたが、どう考えても記者には見えない。こんな場所に入ってくるのだから、何となく記者だと聞いてしまった。警察官はそんな自分のちょっとしたミスを反省しつつ、とりあえず、この謎の紳士の格好をした男をこの場から追い出したかった。
・・・まったく、いつの間に、どこから入って来たんだか
そこから失礼しました
坂本は警察官の真後ろを指さす。
思わず警察官が後ろを振り向くと―――あるのは森だけで特に目立つ物も何もなく―――
アンタ、からかう暇があっ―――たら…
振り返ると坂本の姿はなく、最初から誰もいなかった様な、そこにいたのかすら疑わしくなる程、存在の形跡すらなかった。
あれ?あの・・・坂本さん?
何度見回しても姿は無い。唯一その場に残ったのは、狐にでも化かされた感覚だけだった。
坑道を抜けると、車道に繋がっていた。船橋と左右田が出て来た出口を見ると、無理矢理破壊した状態になっていて、出口があったというよりも、出口にしたと考えるのが自然であった。
船橋さん。これじゃ、スパイ映画みたいになっちゃいましたね
『なっちゃいました』じゃないだろ
あっ。すみません
船橋は懐にしまってある、地下室で拾った資料を取り出す。
だが、脱出ルートを確保しなきゃならん程の『危険な事』をしてたって事の裏付けにはなるわなぁ
そうですね。って、それ何ですか?
地下室にあった資料の一つだ・・・嫌な名前が載ってたんでな
嫌な名前?
船橋は資料を叩き言う。
MUTUO-NANAHOSI
誰です?
後でゆっくり教えてやる
はぁ・・・でも、俺はコッチが気になりますね
左右田は船橋の資料にある一文を指さし言った。
【PROJECT-SEVEN-ARM】
この時二人の脳裏には、机に置いてあった『腕』と、先程取り逃がした者の姿が浮かんでいた。