シグレはその後、誰かから連絡が入ったようで、小さな機械をいじくったあとに、またあとでお話ししましょうと言って奥に引っ込んでしまった。
残されたキツネは、彼女と同じように肩をすくめると、苦笑した。
シグレはその後、誰かから連絡が入ったようで、小さな機械をいじくったあとに、またあとでお話ししましょうと言って奥に引っ込んでしまった。
残されたキツネは、彼女と同じように肩をすくめると、苦笑した。
俺の家族は、みーんな青い宝石信者なんだ
突如自分の過去を話し始めたキツネだったが、俺は黙ってうなずいておく。
キツネは、まるで昨日の夕飯の話しでもするように、明るく、楽しげな声で続ける。
魔力なんて反対派が多いこのご時世、珍しいぐらいの肯定派でね。
理由は俺の姉の病気を、魔力で治してほしいって、そういう願いがあったんだよ。
難病だったんだ。
いつか、青い宝石が私たちの前に現れてくれたらって。
他の魔法使いは、結構過激なやつらがいるけど、青い宝石はなんつーか、無害だろ?
俺の家族はずっと、祈ってた。
俺も、祈ってた。
だって魔法は、なんでもできるって、そういうだろ?
よくしらねえけどさ……祈り続けた。
はあ、とキツネは天を仰ぐ。
神にすがるってかんじだな、魔女にすがる。
でも、青い宝石はもちろん俺の家には現れない
あっけなく、姉は死んだ。家族は絶望した。
そのときに、ああ、あんな微妙な希望なんて、なくなってしまったほうがいいって、思ったんだよ
はは、とキツネは悲しそうに笑う。
ばかだろ。かってにてめえで信じて、裏切られた気持ちになって、逆恨みして。
でも、こうしてないと、俺、生きられないんだ
ちゃんちゃん、と手をひらひらさせる。
どうして、急にそんなことを
聞きたくなかったか? だとしたらごめんな。
でも、同士なのにこいつがなんで青い宝石を抹消したがってるのかがわかんなかったらさ、行動しづらくね?
だから、俺なりの自己紹介。
青い宝石を抹消し終わったら、ひとつのフィクションをきいたなあ、ぐらいの認識で頼むわ
……わかりました
まじめくんだな、お前。
ちなみに、俺はお前がなんで加わったのか、かるーく聞いてるよ。
俺の家と逆だろ、強い魔法排除思考の家だってな。
そりゃ、医者だからだろうな。魔法なんて、商売敵だろ?
そんで、その家の長男が志願してきた。
屈強で賢く、考えも定まっている若者
にやり、とキツネが不適に笑う。
あまりにできすぎていて、そういう情報を適当にでっちあげたんじゃないかって、俺は思ってるが
ぎくり。俺の心臓が跳ねる。
本当のところ、わからないのがこまる。
最初のパターンのように俺が憑依しているのか、はたまた二回目や三回目のときのように、その世界に突如イレギュラーのように現れた人物なのか。
ま、正直どうだっていいんだわ。
青い宝石さえ殲滅してくれればね
キツネはにやにやとした笑いを浮かべながら、はいよと紙の束を手渡してきた。
青い宝石の基本情報だ。
噂にはいろいろ聞いているだろうが、これがしっかりとした青い宝石の歴史と、資料。
ま、殲滅すべき魔女がわんさかいる中でも、比較的楽な殲滅であるとは思うぜ
キツネは、俺に渡した資料を取り上げると、ぱらぱらとページをめくり、ほら、とあるページを見せてきた。
そこに、青い宝石と呼ばれる魔女の姿が写っていた。
何でとらえたのかはわからないが、かなり鮮明な写真だ。
なんてったって、信者ができちまうほどの長生き魔女さんだ。
弱そうだろ
キツネは笑う。本当に、その通りだ。
青い宝石と呼ばれる彼女の見た目は、年端もいかない、少女だった。