シグレは、左手に持っていた書類に目をとおしながらへえと感嘆の声をあげる。
シグレは、左手に持っていた書類に目をとおしながらへえと感嘆の声をあげる。
小中高と成績優秀、しかもずっとボクシングをしていたのね、体力もある。
すごいわね、何度か表彰されてもいる……大会で優勝したり、勉学で認められたり。
文武両道って言うのかしらね。
ご家族はお医者さん家族、でも、弟さんが家を継ぐ予定で、あなたは自由の身……素敵なご家族ね、個人を尊重している。
あなた、人望も厚いんでしょうね。
何人もの友人がとめた、わざわざ死ににいく可能性のあるここにこなくても、他の誰かがやってくれるのにって。ちがう?
そこまで知っているのなら、俺の名前も筒抜けでしょう?
なぜ、わざわざ偽名なんて
そっちの方が雰囲気でるからに決まってんだろ! ぎゃははは
口を挟んできたキツネを一瞥するだけで黙らせると、シグレはそうねえ、と肩をすくめた。
まあ、キツネの言うことも間違っていないわ。
それに、あなたの本当の名前を知っているのは、私だけ。
キルズは、あくまでターゲットを抹消することのみが目的よ。
それが終わったら、全く関係のない人に戻るのが理想……青い宝石を殲滅したなんて生々しくて毒々しい関係を、いつまでも続けるだなんて、あなた望む?
……なるほど
この物語では、青い宝石とやらを抹消することがひとつの目的であるらしい。
おお、こわ。
キルズのメンバー全員の人数は、教えることができないの。
でも、大量の人物が関係していることは間違いない。
あなたの味方は、たくさんいるわ。
実際に行動するのは、主にこの三人になりそうだけどね
キルズ、というのは、組織のひとつのようだ。
そして、彼らは俺と同じターゲットを狙っている。
ちなみに、知っているかどうかわからないから念のために情報共有よ。
青い宝石を殲滅したあと、あなたがここにのこるかどうかは、あなたが決めていい。
でも、ぬけられるのはそのときだけ。
青い宝石殲滅以降もキルズと関係を持っていたかったら、私はあなたに本当の名前を教えることになるわ
わかりました……まずは、青い、宝石、ですね
青い宝石。って、なんだ。
シグレはこくり、とひとつ頷く。
そう、彼女。青い宝石、なんて腹立たしい二つ名よね。
そんなに綺麗なものでもないのに。
まあ、でも、そのままか
シグレは、そう言うと、何もない虚空をきっと睨み付けた。
アクアマリン。
宝石にも失礼よ、機械好きの魔女に、似合わないわ
魔女、というのは例えだろうか、それとも本当に魔法を使うのだろうか。
魔女
俺は、繰り返す。
そうよ。憎き魔法使いの末裔
吐き捨てるように、シグレは言う。
魔力なんて、消えてしまえばいいのよ
俺は、静かに深呼吸をした。
驚きで、言葉もでない。なるほど、こういう世界もあるのかと、冷静に分析する自分がいる。こういう場合は大抵、混乱しているのだ。そのために、自分が分離してしまっているような。
ともかく。
今回の世界は、魔法が忌み嫌われている世界のようだった。