その後戻ってきたシグレに、とりあえず今日は休めと、その建物内の部屋に通された。

明日から、いろいろな業務に携わってもらうわ。

もう青い宝石の居場所はつかんでいるの

 別れ際に、シグレはそう言った。

そこからいなくなる可能性はないんですか?

おそらくだけど、ないわね。

資料は見た? 写真からもわかるでしょ、もうそんなに小さくなってるの。

魔力より、自分の寿命をとるだろうからね……さっさと人間になってくれれば、殺さずにすむんだけど

そうですか……では、また明日

はい、また明日

 にこりと微笑んで、シグレは静かに扉を閉じた。


 部屋を見渡す。灰色の壁、ベッドしかおいていない、寂しい空間だ。

崇様、アイテムゲットしましたね

 サンザシが、ベッドに腰かけてふふ、と笑う。

アイテム……ああ、青い宝石の資料ね

どんな内容でしたか?

まだよく読んでない。写真を見ただけだよ

 サンザシの隣に腰かけて、俺は写真のあるページを探しだす。

 正面からの顔写真。

探してるのに何でこんなに綺麗な写真があるんだ?

 俺が首をかしげると、サンザシがすぐに、写真の下を指差した。

これでは?

……巨大焼却炉の中に隠れていた、アクアマリンのダミー……? 

どういうことだ?

資料を詳しく読みましょう!

 その通りだ。

 俺は最初のページに戻り、最初からじっくりと目を通す。

なんですって?

まあまあ、急かすな……一ページ目は、アクアマリンの歴史だ。

すごい、推定年齢百七十才って……! 

今までにしたとされている悪行……悪い魔女なのか?

あくまで推定みたいですけど、大雨降らせたり大飢饉を呼び起こしたり、いろいろやらかしてますねえ

だな……それで、推定寿命が百八十才、現在十歳の少女の姿であると推測される、だと。

サンザシ、つまりこの世界の魔女は、どんな成長をするんだ?

 サンザシはベッドの上で足をぶらぶらとさせながら、いい質問ですねと微笑んだ。

ご説明しましょう。

この世界の魔女は、赤ん坊の姿で生まれ、年を取り、ある地点で折り返し、若者になっていき、赤ん坊の姿にもどって消えるそうです。

折り返し地点で魔力は最高値、以降は下降していくのだとか

はあー……なるほど。

じゃあ、さっきシグレさんが言ってた、人間になってくれればってのは?

はい。

この世界の魔女は、魔力を放棄、というより自信の魔力すべてを使用して、人間になることができるのです。

といっても、魔女も厳密に言えば、魔法の使える人間なのですが、年の取り方が逆行しているときに魔力のない人間になると――

 なるほど。

折り返しがもう一度始まって、年老いていくってわけだ

そうです!

 ぱちぱちとサンザシが楽しそうに手を叩いている。

この世界の人たちは、魔力がなくなればいいと思っている。

だから、魔女のアクアマリンがただの人間に戻れば、殲滅する必要がなくなる

そうです。

この世界の人たちの口にする殲滅は、あくまで魔力の殲滅です

でも、彼女がもし人間になることをいやがったら?

 サンザシは、ふいと俺から目をそらした。

そのときは、おそらく、文字通りの殲滅でしょう

……どうして、そんなに魔法が嫌いになったんだろうね

長い歴史があると考えられます。

すべてを知りたい場合は、セイさんにお願いしますけれど

いや、いいです、大丈夫。

脳みその中にデータをぶちこまれるのは、なんか、変な感じがするから

 わかります、とサンザシは笑って、揺らしていた足の先に目をやった。

いろんな世界がありますね

……本当にね

4 忌むべき魔法は隠れた青色(5)

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