こほん、とサンザシが咳をする。

 目を伏せてサンザシをちらと見ると、サンザシが微笑みを浮かべた。

しばらくは黙って相手の話を聞いたほうがよいと思います。

相手が、崇様の設定を勝手に話してくれますから

 ほう、俺の設定。

 俺の設定を話してくれるであろう女性は、眼鏡を中指でくいと持ち上げる。

私はシグレ。もちろん偽名だけど、気軽に呼んでもらえると嬉しいわ。

あなた、名前は?

 名前は? サンザシさん。

決めちゃっていいんじゃないですかね

 適当かよ!

……偽名で、いいんですか

 頭のなかで必死に名前を考えながら言うと、シグレはもちろんとウインクした。

 嘘臭いウインク。自分を抑制しているような、そんな笑顔。


 警戒心を抱きまくりながら、サンザシさんに視線を送る。

 君が決めてくれという視線に気がついてくれたようで、サンザシはそうですねえと腕を組んだ。

雨の種類で揃えましょうか、んー、サミダレ!

 かっこいい名前だな!

じゃあ、サミダレで

雨で揃えてきたね、はは

 シグレは乾いた笑いで、乾いた笑顔を浮かべる。

座って

 部屋のすみにあるパイプ椅子をひかれ、俺は静かにそこに座る。

 ひやりと、ズボンを通じても伝わってくる、冷たい温度。


 シグレは俺の前の席に座ると、二人を挟む銀色の机に両手を置いた。

 白衣の男が、遠くからじっとこちらを見ている。

さあ、まずは君の情報を開示させていただくよ、サミー

 サミー!?

いや、サミーって!

 俺の気持ちを代弁してくれたのは、白衣の男だ。

 ぎゃははと大口を開けて笑っている。

うるさいよ、キツネ!

キツネもひどいけど、サミーもなかなかだぞ。

坊主、俺はな、彼女に名前を聞かれて、キツネの嫁入りって答えたんだ、偽名は雨で揃えようって俺も思った。でもそれしか知らなかったんだな。

そしたらよ、じゃあキツネだなって、おいおいひでえなって思ったんだけど、でも、サミーもひでえよな、ぎゃははは!

 俺の脳内で、キツネを今回の話のテンション高い枠に認定する。

 しかし、見た目はおとなしそうな人だったが、口を開くとまあ、しゃべるしゃべる。

 それでよ、それでよと先を続けようとしたキツネを手で制し、シグレは本題だ、と中指で眼鏡をあげる。

随分優秀な成績の学生さんのようじゃない。

そんな人が、青い宝石殲滅メンバーに加わってくれるなんて嬉しいわ。

期待してる

 俺は眉をひそめた。


 どうやら、なかなかにハードな世界観だということだけは、間違いなさそうだ。

4 忌むべき魔法は隠れた青色(2)

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