八月十四日




























瓜生 沙弥香(さやりん)

さあ……やってきました。夏休み恒例、満月の夜の肝だめし!

小野原 雲母(きらりん)

いよいよねー

小野原 雲母(きらりん)

きらりん、肝だめしってしたことないから、楽しみー

射原 小知火(ともちん)

あのさ、どうでもいいけど、いま夜の0時よ……

瓜生 沙弥香(さやりん)

それがどうしたの、ともちん

瓜生 沙弥香(さやりん)

肝だめしなんだから夜中にやるのは当然じゃん

射原 小知火(ともちん)

いや、それならもう少し早い時間でも……ふあ……すごく眠いんだけど

瓜生 沙弥香(さやりん)

ともちん、肝だめしをなめちゃダメだよ

瓜生 沙弥香(さやりん)

私としては本当は丑三つ時といわれる午前二時ごろがよかったんだけど、さすがにそれだと次の日に差し支えるから妥協してこの時間なの

射原 小知火(ともちん)

この時間でも十分次の日に差し支えるんだけど……

射原 小知火(ともちん)

きらりんだって眠いんじゃないの?

小野原 雲母(きらりん)

ううんー

小野原 雲母(きらりん)

演劇の脚本を書いてたらいつもこのくらいの時間になるしー。全然平気よー

射原 小知火(ともちん)

きらりんのそういうとこ、ほんと尊敬するわ……

射原 小知火(ともちん)

あ、そういえばあと一人は? 四人必要なんでしょ

瓜生 沙弥香(さやりん)

うん。もうそろそろ来るはずなんだけど――

瓜生 沙弥香(さやりん)

あ、きた





















神 萌香

瓜生せんぱ~い!

神 萌香

よかったぁ。廊下が暗くてすごく怖かったんですよぉ

瓜生 沙弥香(さやりん)

ごめんごめん。廊下の電気のスイッチが分からなくてさ

瓜生 沙弥香(さやりん)

紹介するよ。我がバドミントン部の未来を担う将来有望な一年生、神萌香だよ

神 萌香

神で~す。よろしくお願いしま~す。萌香って呼んでいただいて――

神 萌香

キャーーーーーーーーーーー!!

瓜生 沙弥香(さやりん)

なになに!? どうしたの?

神 萌香

あ……あの

神 萌香

どうして、ILLY(アイリイ)さんが?

瓜生 沙弥香(さやりん)

それはもちろん、私の親友だからだよ。ね、ともちん?

射原 小知火(ともちん)

……いやな予感しかしない

神 萌香

ほんとに……あの「I Can」で大人気だったのにとつぜん消えちゃった伝説的読者モデルのILLYさんですよね?

神 萌香

キャー! こんなところで会えるだなんて思ってませんでした!

神 萌香

あの、あの、握手してもらっていいですかぁ?

射原 小知火(ともちん)

……私でよければ

神 萌香

わ、もうこの両手ぜったい洗わない。末代に渡るまで永久に保存します!

神 萌香

私、中学生のときILLYさんの雑誌は毎号チェックしてて、コーデがいつも可愛くてカッコよくて、ずっと憧れてたんです。髪型をショートにしたのも、ILLYさんがきっかけなんですよぉ

神 萌香

でもILLYさん、どうして高校生になってから「I Can」の読者モデル辞めちゃったんですかぁ? あんなに人気あったのに

射原 小知火(ともちん)

まあ、ちょっといろいろあってね……

射原 小知火(ともちん)

それより――

射原 小知火(ともちん)

さやりん。この子、私にラブレター送ってきた子でしょ。差出人の名前と同じだし

瓜生 沙弥香(さやりん)

正解! よく覚えてたね。さすがともちん

瓜生 沙弥香(さやりん)

でも手紙、既読無視したのはいただけないよねぇ

神 萌香

そうですよぉ。ILLYさんに対する私のほとばしる愛の情熱を、便せん十一枚に渡って書きつづった渾身の力作を一ヶ月ほど前、クツ箱に置いておいたのに、返事がぜんぜんなかったから

神 萌香

私、フラれちゃったんだと思いました……

射原 小知火(ともちん)

フルもなにも、女の子どうしでしょ私たち……

神 萌香

人を好きになることに性別も次元も関係ありません!

神 萌香

たしかに手紙を書いたきっかけは先輩だったかもしれませんけど、ILLYさんへの私の想いは本当なんです! 真剣なんです! 信じてください!!

射原 小知火(ともちん)

まってまって。いまなんて言ったの?

射原 小知火(ともちん)

手紙を書いたきっかけは先輩? ということは――

瓜生 沙弥香(さやりん)

そう、萌香に手紙を書くよう指示したのは、なにをかくそう私なのだ。はっはっはっ

射原 小知火(ともちん)

首謀者さやりんかーーー!

小野原 雲母(きらりん)

ねーねー、なんでそんなことしたのー?

瓜生 沙弥香(さやりん)

だって萌香がさあ、ともちんとお近づきになりたいけど話す勇気がないっていうからさあ、私がきっかけをつくってあげたわけですよ

瓜生 沙弥香(さやりん)

話す勇気が出ないなら、手紙で自分の想いを伝えたらって。ね、ちょっとすてきじゃん?

射原 小知火(ともちん)

そんなの、さやりんがいまみたいに直接私との間をとりもってくれればすむ話でしょ……。

瓜生 沙弥香(さやりん)

ダメ

瓜生 沙弥香(さやりん)

好きな人と仲良くなる、こういうことは他人の力を借りずに自分の力で成し遂げないといけない。そのことを誇りあるバドミントン部の部員として萌香に学んでほしかったの

小野原 雲母(きらりん)

さやりん、カッコいいー

神 萌香

せんぱい……私、ちょっとうるうるきちゃいましたぁ……。「せんぼうのまなざし」ですぅ……

射原 小知火(ともちん)

ついてけないわ……

射原 小知火(ともちん)

そんなことより、さっさとその七不思議のひとつっていうのをやっちゃおうよ。私、眠くてしかたないんだから

瓜生 沙弥香(さやりん)

はいはい

瓜生 沙弥香(さやりん)

じゃあ壁際を歩けるように、机をちょっと移動させよう

小野原 雲母(きらりん)

いったいどうするのー?

瓜生 沙弥香(さやりん)

あ、そうか。説明がまだだったね

瓜生 沙弥香(さやりん)

ククク……。この世にも恐ろしい七不思議のひとつは、いまだにだれにも検証されていない、つまり、何が起こるかわからないということ。だからみんな覚悟してね……

射原 小知火(ともちん)

そういう演出いいから。さっさと説明してよ

瓜生 沙弥香(さやりん)

もう、ともちん。もうちょっと緊張感もとうよー。

瓜生 沙弥香(さやりん)

えーっと――















これはね。この学校に古くから伝わっている、
死者をよみがえらせる儀式らしいの。

どうしてこの儀式ができたのかは、
いまとなってはだれにも分からないんだけど、
交通事故で死んだ生徒を生き返らせるためとか、
学校で自殺した先生と話をするためとか、
いろんな説があるの。

その方法はね。
まず、真夜中の教室の四つの角に、
それぞれひとりずつ立つの。

そして明かりをつけずに真っ暗闇の状態で、
ひとりが壁伝いに歩き出す。
まっすぐ進んで次の角まできたら、
そこにいる人の体にタッチする。
タッチした人はその角に残って、
タッチされた人はそのまま
同じように壁伝いに歩いていって、
次の角にいる人にタッチする。
その人はその角に残って、
タッチされた人はまた壁伝いに進んで――。

これをぐるぐるぐるぐる何周も続けるの。
大きな声を出さずに。













小野原 雲母(きらりん)

うー、じゃあきらりんはどうしたらいいのー?

射原 小知火(ともちん)

みんなやることは同じよ

射原 小知火(ともちん)

要するに、タッチされたら壁伝いに進んで前の人にタッチして止まる。これを繰り返すのね?

瓜生 沙弥香(さやりん)

そうそう。そういうこと。さすがILLY。元人気読者モデル!

神 萌香

ILLYさま、すばらしいですぅ! 理解力ハンパないですぅ!

射原 小知火(ともちん)

ILLY都合よく使わないでって……

射原 小知火(ともちん)

で、これをやったらなにが起きるの?

瓜生 沙弥香(さやりん)

なにかが起きる

射原 小知火(ともちん)

さやりん

瓜生 沙弥香(さやりん)

わー! 怒らないでともちん! ほんとだよ?

瓜生 沙弥香(さやりん)

ほんとに「この儀式をおこなうと、怪奇現象が起きる。もしかしたら、死者がよみがえっちゃうかも☆」っていうことだけしか伝わってないの!

射原 小知火(ともちん)

なんでそんな軽いノリなのよ……

射原 小知火(ともちん)

でも物音がしたりとか、幽霊が出てきたりとか、そんな感じのことが起きるのかもね。知らない生徒が見えたりとか……

射原 小知火(ともちん)

う、ちょっと鳥肌が立ってきた

神 萌香

あの、あの

神 萌香

とつぜん現れた宇宙人にみんなさらわれてUFOの中で今日の記憶を消されちゃうとか、そういうことじゃないですか?

射原 小知火(ともちん)

それ、霊関係ないでしょ

射原 小知火(ともちん)

まあ、怪奇現象っていうのを広い意味でとらえるなら、そういうこともあるかもしれないけど。どうかな

小野原 雲母(きらりん)

えー。そんなのイヤー。きらりん、みんなとの楽しい記憶、無くしたくないー

射原 小知火(ともちん)

だから宇宙人はこないでしょ……。萌香がよけいなこと言うから――

神 萌香

キャーーーーーーーーーーーー!!

瓜生 沙弥香(さやりん)

な、なに?

射原 小知火(ともちん)

なになに、どうしたの!?

小野原 雲母(きらりん)

幽霊ー? 宇宙人ー?

神 萌香

ILLYさんが……

神 萌香

ILLYさんが、私のこと「萌香」って呼んでくれた……!

射原 小知火(ともちん)

……おどろかさないでよ

神 萌香

だってうれしかったんですもん! 思わずさけんじゃいましたぁ

瓜生 沙弥香(さやりん)

はぁぁ。寿命が千年縮んだよ……

射原 小知火(ともちん)

千年縮んだらもう死んでるでしょ……

射原 小知火(ともちん)

じゃあもう、さっそくやっちゃお。私、あっちの角にいくから

神 萌香

あっ、私もあっちにします!

小野原 雲母(きらりん)

じゃあきらりんはこっちー

瓜生 沙弥香(さやりん)

オッケー? 萌香、ともちん、私、きらりんの順ね。

瓜生 沙弥香(さやりん)

じゃあカーテンを閉めて……あれ、ここだけカーテンないよ

小野原 雲母(きらりん)

そこは小さな窓だからつけてないのー

瓜生 沙弥香(さやりん)

ま、いいか。十分暗くなるだろうし

瓜生 沙弥香(さやりん)

みんな、準備はいい? じゃあ電気消すよー























































瓜生 沙弥香(さやりん)

……ほんとに真っ暗だね。なんにも見えないんだけど

射原 小知火(ともちん)

さやりん、しゃべったらダメなんじゃないの

神 萌香

そうですよお。しゃべったらダメなんですよお

射原 小知火(ともちん)

萌香もしゃべってるでしょ

神 萌香

キャー!! ILLYさんが私のことを

射原 小知火(ともちん)

わかったから、いちいち反応しなくていいの!

神 萌香

えへへ、ILLYさんに怒られたぁ……

瓜生 沙弥香(さやりん)

萌香、幸せそうだね。連れてきた甲斐があったってものだよ

射原 小知火(ともちん)

だからしゃべっちゃダメなんだって

射原 小知火(ともちん)

ほら、きらりんなんかちゃんとひとこともしゃべらずに――

瓜生 沙弥香(さやりん)

――きらりん?

射原 小知火(ともちん)

……きらりん?

神 萌香

きらりん……さん?

瓜生 沙弥香(さやりん)

おーい、きらりーん

射原 小知火(ともちん)

ちょっと……きらりん!

瓜生 沙弥香(さやりん)

電気つけるね!








































瓜生 沙弥香(さやりん)

――きらりん!?











#2 演劇部の部室にて

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