八月十四日
八月十四日
さあ……やってきました。夏休み恒例、満月の夜の肝だめし!
いよいよねー
きらりん、肝だめしってしたことないから、楽しみー
あのさ、どうでもいいけど、いま夜の0時よ……
それがどうしたの、ともちん
肝だめしなんだから夜中にやるのは当然じゃん
いや、それならもう少し早い時間でも……ふあ……すごく眠いんだけど
ともちん、肝だめしをなめちゃダメだよ
私としては本当は丑三つ時といわれる午前二時ごろがよかったんだけど、さすがにそれだと次の日に差し支えるから妥協してこの時間なの
この時間でも十分次の日に差し支えるんだけど……
きらりんだって眠いんじゃないの?
ううんー
演劇の脚本を書いてたらいつもこのくらいの時間になるしー。全然平気よー
きらりんのそういうとこ、ほんと尊敬するわ……
あ、そういえばあと一人は? 四人必要なんでしょ
うん。もうそろそろ来るはずなんだけど――
あ、きた
瓜生せんぱ~い!
よかったぁ。廊下が暗くてすごく怖かったんですよぉ
ごめんごめん。廊下の電気のスイッチが分からなくてさ
紹介するよ。我がバドミントン部の未来を担う将来有望な一年生、神萌香だよ
神で~す。よろしくお願いしま~す。萌香って呼んでいただいて――
キャーーーーーーーーーーー!!
なになに!? どうしたの?
あ……あの
どうして、ILLY(アイリイ)さんが?
それはもちろん、私の親友だからだよ。ね、ともちん?
……いやな予感しかしない
ほんとに……あの「I Can」で大人気だったのにとつぜん消えちゃった伝説的読者モデルのILLYさんですよね?
キャー! こんなところで会えるだなんて思ってませんでした!
あの、あの、握手してもらっていいですかぁ?
……私でよければ
わ、もうこの両手ぜったい洗わない。末代に渡るまで永久に保存します!
私、中学生のときILLYさんの雑誌は毎号チェックしてて、コーデがいつも可愛くてカッコよくて、ずっと憧れてたんです。髪型をショートにしたのも、ILLYさんがきっかけなんですよぉ
でもILLYさん、どうして高校生になってから「I Can」の読者モデル辞めちゃったんですかぁ? あんなに人気あったのに
まあ、ちょっといろいろあってね……
それより――
さやりん。この子、私にラブレター送ってきた子でしょ。差出人の名前と同じだし
正解! よく覚えてたね。さすがともちん
でも手紙、既読無視したのはいただけないよねぇ
そうですよぉ。ILLYさんに対する私のほとばしる愛の情熱を、便せん十一枚に渡って書きつづった渾身の力作を一ヶ月ほど前、クツ箱に置いておいたのに、返事がぜんぜんなかったから
私、フラれちゃったんだと思いました……
フルもなにも、女の子どうしでしょ私たち……
人を好きになることに性別も次元も関係ありません!
たしかに手紙を書いたきっかけは先輩だったかもしれませんけど、ILLYさんへの私の想いは本当なんです! 真剣なんです! 信じてください!!
まってまって。いまなんて言ったの?
手紙を書いたきっかけは先輩? ということは――
そう、萌香に手紙を書くよう指示したのは、なにをかくそう私なのだ。はっはっはっ
首謀者さやりんかーーー!
ねーねー、なんでそんなことしたのー?
だって萌香がさあ、ともちんとお近づきになりたいけど話す勇気がないっていうからさあ、私がきっかけをつくってあげたわけですよ
話す勇気が出ないなら、手紙で自分の想いを伝えたらって。ね、ちょっとすてきじゃん?
そんなの、さやりんがいまみたいに直接私との間をとりもってくれればすむ話でしょ……。
ダメ
好きな人と仲良くなる、こういうことは他人の力を借りずに自分の力で成し遂げないといけない。そのことを誇りあるバドミントン部の部員として萌香に学んでほしかったの
さやりん、カッコいいー
せんぱい……私、ちょっとうるうるきちゃいましたぁ……。「せんぼうのまなざし」ですぅ……
ついてけないわ……
そんなことより、さっさとその七不思議のひとつっていうのをやっちゃおうよ。私、眠くてしかたないんだから
はいはい
じゃあ壁際を歩けるように、机をちょっと移動させよう
いったいどうするのー?
あ、そうか。説明がまだだったね
ククク……。この世にも恐ろしい七不思議のひとつは、いまだにだれにも検証されていない、つまり、何が起こるかわからないということ。だからみんな覚悟してね……
そういう演出いいから。さっさと説明してよ
もう、ともちん。もうちょっと緊張感もとうよー。
えーっと――
これはね。この学校に古くから伝わっている、
死者をよみがえらせる儀式らしいの。
どうしてこの儀式ができたのかは、
いまとなってはだれにも分からないんだけど、
交通事故で死んだ生徒を生き返らせるためとか、
学校で自殺した先生と話をするためとか、
いろんな説があるの。
その方法はね。
まず、真夜中の教室の四つの角に、
それぞれひとりずつ立つの。
そして明かりをつけずに真っ暗闇の状態で、
ひとりが壁伝いに歩き出す。
まっすぐ進んで次の角まできたら、
そこにいる人の体にタッチする。
タッチした人はその角に残って、
タッチされた人はそのまま
同じように壁伝いに歩いていって、
次の角にいる人にタッチする。
その人はその角に残って、
タッチされた人はまた壁伝いに進んで――。
これをぐるぐるぐるぐる何周も続けるの。
大きな声を出さずに。
うー、じゃあきらりんはどうしたらいいのー?
みんなやることは同じよ
要するに、タッチされたら壁伝いに進んで前の人にタッチして止まる。これを繰り返すのね?
そうそう。そういうこと。さすがILLY。元人気読者モデル!
ILLYさま、すばらしいですぅ! 理解力ハンパないですぅ!
ILLY都合よく使わないでって……
で、これをやったらなにが起きるの?
なにかが起きる
さやりん
わー! 怒らないでともちん! ほんとだよ?
ほんとに「この儀式をおこなうと、怪奇現象が起きる。もしかしたら、死者がよみがえっちゃうかも☆」っていうことだけしか伝わってないの!
なんでそんな軽いノリなのよ……
でも物音がしたりとか、幽霊が出てきたりとか、そんな感じのことが起きるのかもね。知らない生徒が見えたりとか……
う、ちょっと鳥肌が立ってきた
あの、あの
とつぜん現れた宇宙人にみんなさらわれてUFOの中で今日の記憶を消されちゃうとか、そういうことじゃないですか?
それ、霊関係ないでしょ
まあ、怪奇現象っていうのを広い意味でとらえるなら、そういうこともあるかもしれないけど。どうかな
えー。そんなのイヤー。きらりん、みんなとの楽しい記憶、無くしたくないー
だから宇宙人はこないでしょ……。萌香がよけいなこと言うから――
キャーーーーーーーーーーーー!!
な、なに?
なになに、どうしたの!?
幽霊ー? 宇宙人ー?
ILLYさんが……
ILLYさんが、私のこと「萌香」って呼んでくれた……!
……おどろかさないでよ
だってうれしかったんですもん! 思わずさけんじゃいましたぁ
はぁぁ。寿命が千年縮んだよ……
千年縮んだらもう死んでるでしょ……
じゃあもう、さっそくやっちゃお。私、あっちの角にいくから
あっ、私もあっちにします!
じゃあきらりんはこっちー
オッケー? 萌香、ともちん、私、きらりんの順ね。
じゃあカーテンを閉めて……あれ、ここだけカーテンないよ
そこは小さな窓だからつけてないのー
ま、いいか。十分暗くなるだろうし
みんな、準備はいい? じゃあ電気消すよー
……ほんとに真っ暗だね。なんにも見えないんだけど
さやりん、しゃべったらダメなんじゃないの
そうですよお。しゃべったらダメなんですよお
萌香もしゃべってるでしょ
キャー!! ILLYさんが私のことを
わかったから、いちいち反応しなくていいの!
えへへ、ILLYさんに怒られたぁ……
萌香、幸せそうだね。連れてきた甲斐があったってものだよ
だからしゃべっちゃダメなんだって
ほら、きらりんなんかちゃんとひとこともしゃべらずに――
――きらりん?
……きらりん?
きらりん……さん?
おーい、きらりーん
ちょっと……きらりん!
電気つけるね!
――きらりん!?