【 四人 】









この話は、ある怪談を
物語形式にデフォルメしたものです。
舞台や登場人物などはフィクションですが、
怪談の部分は実際に私(作者)が
知り合いから聞いた話をもとにしています。






































一学期の終業式を終えた、とある高校の教室にて。









瓜生 沙弥香(さやりん)

いや~、いよいよ待ちに待ってた夏休みだね~

射原 小知火(ともちん)

そうね

射原 小知火(ともちん)

さやりんはどうするの。夏休み、どこか行くの?

瓜生 沙弥香(さやりん)

私は基本、バド部の練習三昧かな

瓜生 沙弥香(さやりん)

あ、でもお盆は空いてるけど

射原 小知火(ともちん)

じゃあ、彼氏と?

瓜生 沙弥香(さやりん)

ぶー。彼氏はサッカー部の練習三昧。お盆も静岡まで遠征だって

瓜生 沙弥香(さやりん)

うちのサッカー部、中途半端に強豪だからね

射原 小知火(ともちん)

なんだ。じゃあどこも行かず? もったいない

瓜生 沙弥香(さやりん)

私的には、ともちんに彼氏のいないことのほうがずっともったいないんだけどね

射原 小知火(ともちん)

はいはい。その件は聞き飽きたから

瓜生 沙弥香(さやりん)

ともちん、スタイル抜群だしきれいだし、元読者モデルだったんだから、モテモテでしょ。男女からともに

射原 小知火(ともちん)

そう言われてもね……。いまはつくる気ないから

瓜生 沙弥香(さやりん)

彼女を?

射原 小知火(ともちん)

彼氏を!

瓜生 沙弥香(さやりん)

えー、でもともちん、このあいだ下級生の女の子からラブレターもらってたじゃん

瓜生 沙弥香(さやりん)

いまどきクツ箱に直筆の手紙を入れるっていう古典的な方法でさ

射原 小知火(ともちん)

言い方に悪意があるわね……

射原 小知火(ともちん)

っていうか私、そっちの気はないんだから

瓜生 沙弥香(さやりん)

うーん、もったいないよ~。うそでもいいから彼氏つくるっていってよ~

射原 小知火(ともちん)

なんでそんな無駄なウソつかなきゃいけないのよ……

瓜生 沙弥香(さやりん)

だってさ~、私が独自に築いた学内情報友達ネットワークを駆使して調べたところによると、ともちんのこと気に入ってる男子、いっぱいいるんだよ

瓜生 沙弥香(さやりん)

筆頭は2-Aの渡辺君と、2-Cの江内君。二人とも紹介してくれって何回も言われててさあ

瓜生 沙弥香(さやりん)

あと同じクラスの刈谷君もともちんがタイプだって言ってたし

瓜生 沙弥香(さやりん)

それに2-Aの中村君と2-Dの佐藤君、それから一年だと1-Cの宮本君だね

瓜生 沙弥香(さやりん)

あ、三年で放送部の田宮君も――

射原 小知火(ともちん)

さやりん、そのへんでストップ!

瓜生 沙弥香(さやりん)

じゃあともちんは、だれとも会わずに家の中で独り寂しく夏休みを過ごすの?

射原 小知火(ともちん)

そこまでは言ってないよ……

射原 小知火(ともちん)

あ、そうそう、その話をしようと思ってたの。夏休み、せっかくだから、きらりんと三人でなにかしない?

瓜生 沙弥香(さやりん)

あ、いいね! 夏休みらしいことしようよ

瓜生 沙弥香(さやりん)

きらりーん!

小野原 雲母(きらりん)

なーにー? 面白いことでもあったのー?

瓜生 沙弥香(さやりん)

夏休みに三人で何かしようって、ともちんが

小野原 雲母(きらりん)

うんー。面白そうー

小野原 雲母(きらりん)

演劇部の練習があるけど、お盆あたりは大丈夫だからー

射原 小知火(ともちん)

じゃあ、海とか、花火とか――

瓜生 沙弥香(さやりん)

それはもう、肝だめしで決定でしょ!

射原 小知火(ともちん)

え?

小野原 雲母(きらりん)

うん、肝だめし、おもしろそー

射原 小知火(ともちん)

ちょ、ちょっとまって……。いや、もう少し他に選択肢ないの?

瓜生 沙弥香(さやりん)

なんで? 肝だめし、超おもしろそうじゃん

瓜生 沙弥香(さやりん)

私ちょうど、最近聞いた七不思議のうちのひとつをやってみたいと思ってたんだ

小野原 雲母(きらりん)

ななふしぎー?

瓜生 沙弥香(さやりん)

そう。この高校に代々伝わる七不思議

瓜生 沙弥香(さやりん)

聞いたことない? 順番に言っていくと――































「音楽室の人食いピアノ」

「B棟三階の十三階段」

「理科室の動くホルマリン漬け」

「女子トイレの鏡に映る花子さん」

「体育館でバスケする首なし男子」

「旧校舎の開かずの扉」

「死者がよみがえる教室の儀式」





























瓜生 沙弥香(さやりん)

そのうち六つは、やってみたり調べたりしても何もなかったらしいんだけど

瓜生 沙弥香(さやりん)

最後の一つ「死者がよみがえる教室の儀式」だけ、ちょっと手間がかかるからまだだれも試したことがないみたいなの

小野原 雲母(きらりん)

すごーい。それをやるのー?

瓜生 沙弥香(さやりん)

その通り!

瓜生 沙弥香(さやりん)

学園怪談ハンターの私としては、ぜひ明らかにしなきゃいけない謎なわけよ。フフン

射原 小知火(ともちん)

いつからそんな怪しげなものになったのよ……

瓜生 沙弥香(さやりん)

ほんとほんと。大マジメなんだから

瓜生 沙弥香(さやりん)

あ、でもこれをやろうとすると、夜中に使える教室が必要なんだよね

小野原 雲母(きらりん)

じゃあ、演劇部の部室使うー? 顧問の先生に、昼からの続きで劇の練習するって言ったら夜でも使えるしー

小野原 雲母(きらりん)

八月の、うーん……十四日とかなら大丈夫だからー

瓜生 沙弥香(さやりん)

ほんとに? じゃあ予約お願い!

瓜生 沙弥香(さやりん)

あとは、これを実行するのに四人必要だから、もう一人連れてこないといけないけど――

瓜生 沙弥香(さやりん)

それは同級生全員友達この沙弥香様にお任せあれ!

射原 小知火(ともちん)

ま、まって。ほんとにやるの?

瓜生 沙弥香(さやりん)

もちろんじゃん。あれ、ともちんは反対?

射原 小知火(ともちん)

いや、どうせならもうちょっと楽しいことしない?

射原 小知火(ともちん)

ほ、ほら、来週、近くの川で花火大会があるでしょ。それなんかみんなでいったら楽しいと思うし……

瓜生 沙弥香(さやりん)

じゃあそれはそれで行こう! で、肝だめしは肝だめしでやる、と

射原 小知火(ともちん)

結局やるのね……

瓜生 沙弥香(さやりん)

あれ、ともちん、顔が強ばってるよ。あんまり気乗りしない?

射原 小知火(ともちん)

いや、気乗りしないっていうか……私、幽霊苦手なんだけど……。

小野原 雲母(きらりん)

ともちんー、ぶつぶつ言ってても聞こえないよー?

射原 小知火(ともちん)

は、はいはい、分かりました! 行けばいいんでしょ。行けば。はぁ……

瓜生 沙弥香(さやりん)

じゃああと一人、どうしようかな

瓜生 沙弥香(さやりん)

あっ、とりあえずあそこにいる容姿端麗冷静沈着絶対的学級委員長・藤巻塔子様に声かけてみよ。とうこー

藤巻 塔子

――なに。夏休みの宿題なら自分でやってね

瓜生 沙弥香(さやりん)

ちがうちがう。いくら私でもいきなり塔子に宿題の答えを教えてなんて言わないから

藤巻 塔子

その言葉、そっくり昨年のあなたに返すわ

瓜生 沙弥香(さやりん)

大丈夫。あのときといまの私はちがうのよ

瓜生 沙弥香(さやりん)

進化した私はひとりで宿題を片付けてみせるから!

藤巻 塔子

そんなの当たり前なんだけど。――で、なに

瓜生 沙弥香(さやりん)

そうそう。私たち、夏休みに肝だめしすることになってさー。この高校の七不思議のひとつにチャレンジするの

瓜生 沙弥香(さやりん)

でもこれって四人必要なんだよねー。だからもう一人来てくれる人を探してるのよ

瓜生 沙弥香(さやりん)

塔子、お盆のころとか、ヒマ?

藤巻 塔子

ヒマじゃないし、そもそもそんなことやるだけ時間の無駄

藤巻 塔子

七不思議なんて、どうせ根も葉もないうわさなんだから。あいにく私、霊とか呪いとか、超常現象とか、そういうオカルト的なもの全く信じてないのよ

藤巻 塔子

悪いわね。また八月十八日の登校日にでも結果を聞かせて

瓜生 沙弥香(さやりん)

あ、待ってよ塔子!




















瓜生 沙弥香(さやりん)

うーん、やっぱり塔子様じゃ来てくれないか

射原 小知火(ともちん)

塔子様じゃなくても、わざわざ夏休みに怖い思いをしにくる人なんていないよ

射原 小知火(ともちん)

だからやっぱりやめた方が――

瓜生 沙弥香(さやりん)

ふふふ。あてはあるのだよともちん

瓜生 沙弥香(さやりん)

ともちんがいてくれれば、その子も喜ぶと思うし

射原 小知火(ともちん)

私?

瓜生 沙弥香(さやりん)

そう。じゃあ、八月十四日の夜、予定空けといてね

瓜生 沙弥香(さやりん)

きらりん。部室の手配、よろしくね!

小野原 雲母(きらりん)

うんー! 面白そうー!

射原 小知火(ともちん)

にげられなかった……

#1 七不思議のひとつ

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