昼間の話し合いは終わった。速水が手早く纏め上げた。
投票は全て分散させて、追放者は出さなかった。
私は早々、部屋から立ち去る。
目立つ行為はしないが、あの殺気立つ室内には何時までもいたくない。

海音

……

小田が私を見送っている。
あの目は……狙いを絞る目付きだ。
とても嫌な目。血に飢えたケダモノそのもののような。
私はその目を見てみぬふりをして、部屋を出る。

部屋に戻った私は、薬を飲んでから、適当にテレビをつけてベッドに横たわり、それを眺める。
特にすることもない。私はゲームをクリアするのに必死になどなる必要もないし。
そんな頃。

私の部屋をノックする音が聞こえる。

真澄

ん……?

私はベッドから身を起こすと、そのまま玄関に向かい、覗き穴で覗くとそこには速水が昨日のように立っていた。
また、私に相談しにきたのか。

私は素早くドアを開いて何も言わず顎で室内を示す。
彼女は黙って部屋の中に入りこんだ。

真澄

どうかしたん、速水?

ちょっとした相談よ
今後の進め方について……ね

真澄

へぇ……また、悪巧みの相談か

……あなた、軽くない?
自分の選択で……本当に人が死んだのよ?
私達が……殺したっていうのに……

私が軽口でそう言うと、彼女は戸惑ったように、私を見る。
信じられない神経の持ち主――その目線は私をそう見ている。

真澄

私は覚悟決めてたんだよ
……後悔をしない選択肢はないから、せめて後悔できる選択肢にしようって
生きてなきゃ、それもできないよ?
だからかな
人殺したはずなのに、あんま殺った気しないんだよね
まだ、死体見てないから実感がわかないだけかもしんないけど

……そう
実感がない……か
確かに、現場にあなた居なかったものね
現物、みてくる?
惨劇だったわよ

真澄

遠慮しとくよ
罪悪感とか迷いの種植え付けて死ぬの嫌だし

とんでもないメンタルね、あなた……
そこまで行くと私でも空恐ろしいわ……

真澄

割り切りの問題よ、速水
私は死に近い環境で生きてきたの
だから死人が出たって話程度じゃ、動じない
それに……

……ここから先は、言うべきことじゃない。
速水は陣営が同じだけだ。立場は……正反対なのだ。
一定の信頼以上のことを考えてはいけない。
これは、言う必要性はない。

それに?
それに、なに?

真澄

いーや、何でもないよ
さっ、次の相談を始めようか
……死なないようにしないとね

……随分と乗り気ね
私とは結託しないんじゃなかったの?
私、改めて協力して欲しいと思って訪ねてきたんだけど?

真澄

あー、うん
それね、いいよ
私も速水に手ぇ貸すから
一緒にクリア目指していこう

そういえばそんなこと昨日言っていたっけ。
私はケラケラ笑いながら、ベッドに腰掛けた。
ころっと意見を変えたり笑う私に、彼女は怪訝そうな顔をする。

こんなこと言いたくないけど……
あなた、どうかしてるんじゃない?
まさか、精神的に狂い始めた?
普通、こんな状況で笑わないわよ?

真澄

人殺し覚悟してる時点で狂ってない方がむしろ可笑しいじゃん
十分私は最初から狂ってるよ、初日で生命狙われて、頭は冷やした
でもやり方は変えないわ
必要なら、誰だってぶっ殺す
どうせ速水以外は知らないし、いいじゃん
殺すときは殺すし、後悔するときは後悔するだけで
……シンプルに考えようよ、速水

私の言葉に、速水は嫌そうに目を細めた。
人殺しを覚悟していると伝えた時点で、私は血塗られている。
そう、結局は気持ちの問題。
私は、彼女には歪んでいるようにでも見えているのだろう。
私には失うために人を殺す意思がある。
それが、彼女にどう映るのかは、分からない。

結局……私も人殺しだから……
狂っているのは変わらない、か……

あっさりと速水も殺しを認めて、動じていたであろう感情を鎮めていく。

理性を、常識を、良心を
それら全てを捨てないと勝てないのよね……
このゲームは、そういうゲームなのだから

真澄

この陣営になった時点で、綺麗事はもう言えないんだ
腹くくろうよ、速水
私も一緒に、殺すときは殺すからさ

でも……やっぱりイヤ……
私も、覚悟を決めていたつもりなのに……
怖いのよ、これ以上先に進むのが……

真澄

……

彼女はそう言って、俯いた。
後悔している。迷っている。
一人殺したことに、心を痛めている。
自分の殺意で、殺したことに。
私は速水に言った。

真澄

そりゃ、覚悟じゃないよ速水
覚悟っていうのは私みたいな奴のことを言う
罪悪感を感じるのを後回しにして、わざと人として壊れて突っ走る、そんな異常者のこと

……えっ?

真澄

壊れるのが嫌なら、とっとと死ぬだけよ
そうすれば、全部から解放される
それとも死ぬのが怖い?
なら私が手を下してあげてもいいよ

…………

真澄

私は真っ白なままクリアはできないと思う
だから、真っ黒でいい
どす黒く変色してでも、真っ赤になってでも進む
それで、クリアする
殺す事に、一々悔やんでいられないから
悔やみも贖罪も、後でできる

住吉……

真澄

私は、絶対に、逃げない
このゲームからも、狼からも、運命からも
全部ぶっ殺して、乗り越える

……そう、分かったわ
私も、人として最低のクズにならないといけないわね

私なりの覚悟のつもりだった。
それは一部除いて本心であり、人殺しでいいから死にたい私の心。
嘘も混じった本音は、速水には効いてようだった。
顔を上げた彼女が――顔に陰りの落ちた、悪魔のような表情をしていた。

上等じゃない
いいわ、住吉のいう覚悟ってやつ……
それ、私もするから

真澄

ふぅん?

罪を被らないといけないというのなら
私もその罪、頭から被ってみせるわ

もう一人の、場を支配している女の、真っ黒に生まれ変わった瞬間だった。

真澄

じゃあ……決めようか?

そうね、次殺す相手……決めましょう

私達は、人を殺す。
そうして、優位に立つ。
速水は勝つこと、私は死ぬことを望んで殺しあう。
壮絶な表情をした速水と、怖いものなしの私。
最凶最悪のタッグだ、負ける気がしない。
これは、幸先良さそうだ。

私だって……死にたくないわ……
なら、みんな殺してやる……

真澄

私は含まないでよ、狼じゃないんだから

私と速水は場を掌握している。
このまま有利に進めれば、きっとすぐに終わるだろう。
……有利に進めれば、の話だけれどね……。

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