僕はユナちゃん、ハルカちゃんと並走し、武井さんがいるはずの206号室に急いだ。
よりによって僕の部屋の隣だ。
マスターキーを持つ志島さんにも付いてきてもらう。
ドンドン、とドアを叩く。
僕はユナちゃん、ハルカちゃんと並走し、武井さんがいるはずの206号室に急いだ。
よりによって僕の部屋の隣だ。
マスターキーを持つ志島さんにも付いてきてもらう。
ドンドン、とドアを叩く。
武井さん、豊根です
いますか、返事してください
半ば無意味だとは思うが、まあ、お約束だ。
ドアノブを回してみた。
あれっ?
普通に開いた。マスターキーは不要だった。
その瞬間。
すぐにそれは目に飛び込んできた。
ベッドに横たわる、浴衣姿の武井さん
……の胴体。
床に転がる、二本ずつの腕と脚。
何かのシンボルのように、
胸元に突き刺さり聳える包丁。
そして、
その包丁によりかかるように置かれた、
武井さんの頭部。
その黒く沈んだ瞳と目が合った時、
僕はゲームの本当の始まりを理解した。
……趣味が悪いな
思わず、そう口にした。
僕とユナちゃんとハルカちゃん、あと、いつの間にいたのか結木君と片倉さんも206号室に足を踏み入れる。
定員オーバーにより部屋に入れない志島さんは、自分の役割を理解しているかのように、全員を呼び集めに向かった。
……いくらゲーム内の殺人であるとは言え……いくらゲーム内で殺害対象となるのが、プレイヤーに紛れたノンプレイヤーキャラクターであるとは言え、この様相はむごい。
……妙だ
結木君は遺体に近寄り、注意深く観察し始めた。
出血が異様に少ない
言われてみれば確かに、包丁の刺さる胸部からも、切断されている首元、腕、脚からも、あまり血が流れているようには見えない。
僕は辺りを見回してみた。
部屋の鍵はテーブルの上に置いてある。
これは部屋に突入した時点でも目に入ってきたので、遺体発見後に置かれた訳ではない。
少なくとも、『密室殺人』の線は消えた。
一通り遺体と現場を調べ、次のことが分かった。
遺体について
・遺体はベッドに横たわっている
・遺体は胴体と首、手足が切断されている
・遺体の胸部には包丁が突き刺さっている
・傷口からの出血が異様に少ない(皆無ではない)
・胸部の刺し痕、首と手足の切断痕以外に、遺体に外傷は見当たらない
現場について
・現場に争った形跡はない
・ドアには鍵がかかっていない
・ドアの鍵を無理矢理こじ開けた形跡はない
・窓から室内に誰かが侵入した形跡はない
夜は恐らく、武井さんも部屋に鍵をかけて寝ていたはずだ。
犯人はどうやって室内に侵入したのだろう。
豊根、お前のPROFILEを教えてほしい
PROFILE……?
事件に何か関係しているのだろうか。
僕はフリーライターで、記事のネタを探しに……
俺と片倉のような
ペア設定は持っていないな?
え?うん
前にも言った通り、PROFILEにはペア設定というものがある。
自分の職業や身分に関するPROFILEとは別に、特定の誰かとの関係を指定されるものである。
どのように指定されるかは、どんなペア設定かによる。
例えば『誰かの恋人』であれば、その相手とでき得る限り行動を共にしなければならない。
『誰かと犬猿の仲』であれば、その相手とでき得る限り別行動を取らなければならない。
結木君は何かに納得したような面持ちで、部屋を後にした。片倉さんも付いていく。
各人のPROFILEが事件に関係するのであれば、僕も聞き込みを行う他あるまい。
好都合にも、丁度志島さんが全員を呼び集めてきてくれた。
昨日の会話と聞き込みの結果から、各人のPROFILEは次のようになる。
PROFILE
カイ:フリーライター
片倉:サラリーマン、結木の恋人
志島:コテージの管理人
結木:サラリーマン、片倉の恋人
ハルカ:コテージのアルバイト
ユナ:失恋した女子大生
武井さんのPROFILEだけは分からず終いだ。
誰か事前に確認している人はいないのだろうか。