寝坊しかけたが、夕食にはなんとか間に合った。

まだ殺人は起こっていないようで、志島さんを除く全員が無事に箸を手に取っていた。志島さんは厨房からテーブルに料理を運んでいる。

大抵の人は普段着だが、ユナちゃんの他に、片倉さんと結木君、武井さんが浴衣を着ていた。

あのクールな結木君が浴衣を着ているのが、若干意外だった。

赤城ハルカ

…………

ハルカちゃんは食事中も端末をいじっている。
マナーが悪いと言えば悪いが、現在進行形でゲームが進んでいることを考えると、緊張感を持って臨んでいると言えるのだろうか。

夕食も絶品だった。近海で獲れたのであろう、新鮮な海の幸がふんだんに用いられたコース料理の数々。

この仮想空間では、志島さんのような平凡な中年男性でも、PROFILE次第でどんな絶品料理も作ることができる。

PM08:00

誰も席を離れない内に、厨房から志島さんが出てきて言った。

志島ソウイチ

みなさん、朝食は7:00~8:00です
お忘れなく

志島ソウイチ

あと、念のために言っておきますが、
マスターキーは21:00~7:00は使えません
皆さんの寝込みを襲うことはできませんので、ご安心ください

志島ソウイチ

ただ、客室以外の鍵は開放させて頂きます
皆さん、寝るときは必ず、
自分の部屋でお願いしますね

皆それぞれのペースで食事を終えると、自室へと戻っていった。
結木さんと片倉さんは一緒だ。
たぶん部屋も一緒なのだろう。

残ったのは僕とユナちゃんだけ。
僕は食が細いわけではないが、食べるのは遅い。

藤堂ユナ

明日で終わりかあ

豊根カイ

そうだね

藤堂ユナ

こんな素敵な場所なんだから、
もっと楽しみたかったな

他愛のない会話の中で聞いたが、ユナちゃんのPROFILEは『失恋した女子大生』だそうだ。
傷心を癒すためにこの島に来たらしい。

二人同時に食事を食べ終え、一緒に客室へと向かっていると、また階段に座り込むハルカちゃんに出会った。

藤堂ユナ

こんばんは

微笑みながら挨拶をしたのは、僕ではなくユナちゃんだった。
どうせ返してくれないのだから、言うだけ無駄だろう。

僕はそう思って彼女の横を……

赤城ハルカ

……こんばんは

豊根カイ

…………

女子には返すのか。

挨拶しなかった僕が性格悪そうに描写されるじゃないか。

こんばんはー、と、返されることも期待せずに棒読みで声をかけながら、僕は彼女の横を通り過ぎる。


するとハルカちゃんは立ち上がり、僕を追い越し、僕らの目に映る形で自室、202号室へと入っていった。

AM07:00

起床した僕は食堂に向かった。
すでにまばらに人が集まっており、各々朝食を食べ始めている。

僕も席につき、用意された納豆の蓋を開けた。

しばらくすると、ぞくぞくと人が集まってきた。
皆、昨日と同じ格好をしている。

当たり前か。
着替えなど持ち込めない。

AM08:00

僕が朝食を食べ終える頃には、すでに席を離れている人もいた。
やはり朝も、僕とユナちゃんは最後まで残っていた。

赤城ハルカ

……不自然

向かいに座るハルカちゃんが言った。
この子から自発的に言葉が発せられるのは珍しい。

豊根カイ

不自然って、何が?

赤城ハルカ

…………

豊根カイ

…………

藤堂ユナ

ハルカちゃん、どうしたの?

赤城ハルカ

……私、7:00に来て、
今までずっと観察してたんだけど

赤城ハルカ

一人だけ、ご飯食べに来てない

ゲームは今日の13:00に終わる。
そのことを考えると、その『来ていない一人』が単なる寝坊であるとは考えにくい。

藤堂ユナ

……その一人って、もしかして

赤城ハルカ

うん……

赤城ハルカ

……武井カナコ、だよ

確かに、朝僕が着席してから今に至るまで、唯一彼女だけが、食堂に来ていない。

僕ら三人はほぼ同時に立ち上がった。




始まった。

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