PM03:00

館内は一通り見終わったので、僕らは館外、つまりこの紫陽花島を回ってみることにした。

玄関に向かうと、武井さんがソファーに腰掛けて休んでいた。

豊根カイ

こんにちは

武井カナコ

あら、こんにちは

武井カナコ

今ね、この外ぐるーっと回って来てね
帰ってきたとこなのよ

武井カナコ

もうほんと広くて広くて!
おばちゃんもう疲れちゃった

武井カナコ

でも健康には良さそうよね
最近運動不足だから丁度いいわあ

ゲーム内での運動は運動の内に入るのだろうか。少し疑問だが、この島が疲れるほど広いというのは確かなようだ。
13時にゲームが始まり、間取り図をメモした後に外を回り始めたと考えても、1周に大体2時間はかかることになる。

若い僕らならもう少しハイペースで回れるかもしれないが、ちゃんと調べながら進むと結構時間を食うかもしれない。

武井カナコ

それにしても汗かいちゃったわ

武井カナコ

あら、ユナちゃん浴衣いいわね
私もお風呂に入ってこようかしら

武井カナコ

志島さぁん、浴衣一つ貸してくださるぅ?

彼女はそう言ってスタスタと温泉の方に歩いて行った。疲れたと言っていた割にはやたらスタスタ歩く。
元気なおばちゃんだ。

豊根カイ

…………

うわあ、と僕は思わず阿呆みたいな声を出した。

目の前に、見たこともないくらいに、鮮やかで澄んだエメラルドグリーンが広がっていた。


僕らは約1時間歩き続け、コテージの真逆に位置するこの浜辺へとやってきた。コテージは島の南、ここは北に位置する。

藤堂ユナ

海、だね

豊根カイ

……だね

僕と同様に、ユナちゃんの声も弾んでいた。
彼女は浴衣を着ているので入ることはできないが、見ているだけでも心が洗われる、清々しさを極めた絶景だ。

ただ、探索も忘れてはならない。


砂浜に落ちているのは貝殻と流木くらいか。

流木は撲殺に使えるかもしれないが、この重さをコテージまで運ぶのはあまり現実的ではない。

貝殻は、視察に使うには鋭さが足りず、撲殺に使うには脆い。もしかすると粉末状にすることで毒薬にできるのかもしれないが、そんな黒魔術を僕は知らない。


このビーチに来る途中には、ある程度整備された道と、生い茂る木々くらいしか見当たらなかった。
恐らく、もう半周も同じことだろう。


僕らはもう少しだけ水面を眺めた後、残りの半周を歩き始めた。

PM05:30

コテージに帰り着いた僕らはヘトヘトだった。
一回寝たい。

藤堂ユナ

とりあえず、もう調べるところはないかな
私、もう一回お風呂に入ってくるね

豊根カイ

そうだね
この辺りで別行動に戻ろうか

藤堂ユナ

うん、カイ君、
一緒に回ってくれてありがとうね
楽しかったよ

こちらこそ。
僕はそう返し、一人で自室へと向かった。

階段の途中に、端末をいじるハルカちゃんが座り込んでいた。

豊根カイ

こんにちは

赤城ハルカ

…………

豊根カイ

……シカトか

中学生くらいだろうか。
この年頃の子にはありがちなことなのかな。

あまり話しかけても鬱陶しいだけだろう。
僕は気にせずに横を通り過ぎ、向かって右端から二番目にある、205号室へと向かった。

特にやることもなし。
夕食まで、少し仮眠を取ろう。

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