【第一話】
『二人の刑事』

山奥に小さなコテージが一つだけあった。
誰も近付かない様なこの場所であっても、コテージに続く道は舗装され、コテージの外観も美しく塗装されており、妙に生活感があった。

だが、今コテージの周は多くの人で埋め尽くされていた。
周囲に張り巡らされた黄色いテープ。
何度も光るストロボ。
飛び交う声。
数十台のパトカーと報道の車。
人だかりをかき分けて、二人の刑事がキープアウトのテープを潜る。
一人は40代前後のトレンチコートを着た、いかにもドラマに登場する刑事風の男。
船橋太郎。

相変わらず報道陣ってのはすごいねぇ

お祭り騒ぎって感じっすね



船橋の言葉に答えたのは、キッチリとしたスーツに身を包んだ20代の身長190センチはある大柄の男。
左右田光成。

左右田。殺人現場にお祭り騒ぎの例えは不謹慎だぞ

あっ。すみません



二人は、所謂コンビを組んでいた。だがコンビと言っても師弟関係に近く、船橋が左右田を一人前にする為にトレーニングを兼ねて、現場に引っ張り出している状態であり、今日も現場検証を経験させようとしていた。
この二人の仕事は特殊であり、起きた事件が人為的であるか、それとも別の原因があるのかを調べるのが主である。

二人がコテージに入ると中は外観とは裏腹に惨劇と化していた。
家具という家具は全て倒れ破壊され、床や天井にも所々、穴が空いている。だが、問題はそんな事ではない。辺り一面の床や壁には血痕が付着しており、この場所で起きた惨劇を物語っていた。

船橋さん・・・もう・・・腕とか脚とか落ちてたりしませんよね?

そうだな。俺達が入って良い状況ってんだから、掃除は終わってるだろ。でも、パーツ系とかはまだ落ちてるかもしれんから、踏み潰しには注意しろ

パーツ?

眼球とかな

・・・見つけるのも嫌ですけど、踏むのも嫌ですね・・・立ち止まって上見てますよ

ったく、何しに来たんだか・・

うわぁ!

どうした!?

指、指、指、指



左右田は天井を指差しながら叫んでいた。
そこには一本の指が天井に突き刺さっていた。

・・・デカイのはガタイだけか?気持ちも大きく持って欲しいんだがな

いや、無理です無理です。こんなの初ですもん

俺だってこんなに酷いのは久しぶりだよ。こんなの人間の仕業じゃないよな。しかも今月になって、奇妙な事件は何件目だ?・・・こりゃアンノウンケース確定かねぇ・・・



船橋は辺りを見回しながら呟いた。

未確認生命体による猟奇殺人…



左右田は船橋の方に視線は送らず、軽く辺りを見回し血飛沫が少ない箇所を探して移動した。

毎回こんなにバラバラにする程じゃない、どうも理解できない殺し方だってある。それに―――どう考えても人間の仕業じゃ無理だろ。…少なくとも、そう思いたいねぇ

UC-SFが来なくて良かったんですか?

彼奴らはアンノウン実戦部隊だ。調査や捜査が俺達の仕事なんだから頼るな

なんか不安で―――



左右田は言葉を止めて、ある一カ所を見ている。

どうした?



船橋の問いかけにも左右田は返事をせず、床をジッと見つめている。
視線の先には擦った様な血痕がある―――が、壁の近くで不自然な程、血痕が途中で途切れていた。

船橋さん。コレって妙ですよね?

突然の左右田の言葉だったが、船橋は動じたりせず、ゆっくりと左右田に近付き、床を一瞥し頷く。
船橋は直ぐに左右田の『妙ですよね』の意味を理解し、声を押し殺した。左右田に視線だけで合図し、二人は床と壁の辺りを調べた。
すると床に面した壁に指一本分の穴が空いている事に気が付く。
船橋は左右田と視線を合わせて、船橋は穴に指を入る。
―――指先にボタンの様なものが当たり、それを強く押した。
ガタンっ!と何かが外れる音がしたと思うと、左右田の足元が突然開いた。

わぁぁぁ



船橋が左右田が落ちた箇所を見ると、そこは不自然に血痕が途切れた位置だった。

普通、その上には立たないだろうに・・・

【第一話】『二人の刑事』

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