温泉の探索に向かった僕ら。

藤堂ユナ

調べるついでに少し入ってくるよ
男湯の方はお願いね

ユナちゃんはそう言って暖簾の向こうへ消えて行った。

脱衣所。特に何もなし。
一般的な脱衣所、
そう言われて思い浮かぶのと同じ。
これ以上の説明はなし。

服を脱いで浴室に足を踏み入れると、先客が湯船に浸かっていた。

豊根カイ

こんにちは、片倉さん
片倉さんも温泉を調べに?

片倉トオル

やあ、こんにちは

片倉トオル

一応ね
特に不審なものはなかったよ

露天風呂の方は、結木君が見てる

露天風呂の方も覘いてみたいが、その前に僕も少し湯に浸かっておこう。

豊根カイ

片倉さんはどうしてこの島に?

僕はそう言いながら体を軽く流し、湯船に足を沈めた。
片倉さんのPROFILEについて聞いているのだ。

片倉トオル

いやあ、その……

何やら恥ずかしそうに言い淀んでいる。

片倉トオル

カップルで旅行……みたいな……

与えられるPROFILEの中には、カップルや誰かの配偶者など、特定の人とペアで行動することを指定される場合がある。

ユナちゃんは僕と行動しているし、ハルカちゃんか武井さんだろうか。
なんだか、どちらにせよ不釣り合いな気がする。

あ、悪口とかではない。

豊根カイ

へえ~、お相手が気になるなあ

結木ソラ

俺だ

答えたのはカタクラさんではなく、露天風呂から帰ってきた結木君だった。

端正な顔の割にガタイがいい。

片倉さんは気まずそうな顔をしている。
僕だって気まずい。

そういう設定もあるのか、という感想しか出てこない。

結木ソラ

別に、行動を共にすればいいだけだ
これはアリバイの証明にもなるし、
それ以外に特別な指定もない
恥ずかしいことなど何もないだろう

片倉トオル

そうだけど……

豊根カイ

そうだけど……

結木ソラ

露天風呂にも特に不審なものはない
ただ、湯が白濁していて、
場合によっては何かを隠すことができる
注意することだ

それだけ報告して、結木君は浴室を後にした。

片倉トオル

じゃあ、ペアだし僕も行くよ

そう言って片倉さんも結木君に続く。

単なる設定とわかっていても、僕は何か複雑な気分だった。

豊根カイ

露天風呂には何かを隠せるかもしれないね

結木君の言葉をほとんど引用して、浴衣姿のユナちゃんに伝えた。
あの後実際に露天風呂を調べてみたが、特にそれ以上言えることもない。

浴衣は管理人の志島さんに申告しなければ貸してもらえない。僕は面倒だったので普段着のままだ。

浴衣もこれだけ似合う人に着てもらえれば、浴衣冥利に尽きることだろう。
そんなことを考えながら彼女に見惚れていた。

藤堂ユナ

となると、後は館内は客室だけだね

客室は、本人のルームキーがなければ入れない。ただ、基本的に作りや備品は同じはずだ。
男女の違いがあるかもしれないことを考慮して、僕とユナちゃんの部屋をそれぞれ調べてみたが、結局同じだった。


大きなベッド。枕元には電気スタンド。紺色のカーテン。テーブル。入口付近には冷蔵庫。

冷凍庫はついていないので、氷による凶器消失トリックは不可能だと考えられる。

部屋自体の防音性は、特筆して優れているとは言えない。扉を閉めてもある程度大きな声を出せば聞こえてしまう。悲鳴などもっての外だろう。

一通り凶器になりそうなものがないか調べてみた結果。

冷蔵庫や電気スタンドの電源コードで絞殺ができるかな、とも思ったが、長さが全然足りない。
カーテンやバスタオルは分厚く、ロープ状にすることができないのでこれも使えないだろう。

ベッドシーツは使えなくもないか……?
ただこの材質では、ロープ状にすればひどい皺がつくだろうな。


大体こんなものだろう。
僕らは客室を後にし、再びエントランスに向かった。

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