温泉の探索に向かった僕ら。
温泉の探索に向かった僕ら。
調べるついでに少し入ってくるよ
男湯の方はお願いね
ユナちゃんはそう言って暖簾の向こうへ消えて行った。
脱衣所。特に何もなし。
一般的な脱衣所、
そう言われて思い浮かぶのと同じ。
これ以上の説明はなし。
服を脱いで浴室に足を踏み入れると、先客が湯船に浸かっていた。
こんにちは、片倉さん
片倉さんも温泉を調べに?
やあ、こんにちは
一応ね
特に不審なものはなかったよ
露天風呂の方は、結木君が見てる
露天風呂の方も覘いてみたいが、その前に僕も少し湯に浸かっておこう。
片倉さんはどうしてこの島に?
僕はそう言いながら体を軽く流し、湯船に足を沈めた。
片倉さんのPROFILEについて聞いているのだ。
いやあ、その……
何やら恥ずかしそうに言い淀んでいる。
カップルで旅行……みたいな……
与えられるPROFILEの中には、カップルや誰かの配偶者など、特定の人とペアで行動することを指定される場合がある。
ユナちゃんは僕と行動しているし、ハルカちゃんか武井さんだろうか。
なんだか、どちらにせよ不釣り合いな気がする。
あ、悪口とかではない。
へえ~、お相手が気になるなあ
俺だ
答えたのはカタクラさんではなく、露天風呂から帰ってきた結木君だった。
端正な顔の割にガタイがいい。
片倉さんは気まずそうな顔をしている。
僕だって気まずい。
そういう設定もあるのか、という感想しか出てこない。
別に、行動を共にすればいいだけだ
これはアリバイの証明にもなるし、
それ以外に特別な指定もない
恥ずかしいことなど何もないだろう
そうだけど……
そうだけど……
露天風呂にも特に不審なものはない
ただ、湯が白濁していて、
場合によっては何かを隠すことができる
注意することだ
それだけ報告して、結木君は浴室を後にした。
じゃあ、ペアだし僕も行くよ
そう言って片倉さんも結木君に続く。
単なる設定とわかっていても、僕は何か複雑な気分だった。
露天風呂には何かを隠せるかもしれないね
結木君の言葉をほとんど引用して、浴衣姿のユナちゃんに伝えた。
あの後実際に露天風呂を調べてみたが、特にそれ以上言えることもない。
浴衣は管理人の志島さんに申告しなければ貸してもらえない。僕は面倒だったので普段着のままだ。
浴衣もこれだけ似合う人に着てもらえれば、浴衣冥利に尽きることだろう。
そんなことを考えながら彼女に見惚れていた。
となると、後は館内は客室だけだね
客室は、本人のルームキーがなければ入れない。ただ、基本的に作りや備品は同じはずだ。
男女の違いがあるかもしれないことを考慮して、僕とユナちゃんの部屋をそれぞれ調べてみたが、結局同じだった。
大きなベッド。枕元には電気スタンド。紺色のカーテン。テーブル。入口付近には冷蔵庫。
冷凍庫はついていないので、氷による凶器消失トリックは不可能だと考えられる。
部屋自体の防音性は、特筆して優れているとは言えない。扉を閉めてもある程度大きな声を出せば聞こえてしまう。悲鳴などもっての外だろう。
一通り凶器になりそうなものがないか調べてみた結果。
冷蔵庫や電気スタンドの電源コードで絞殺ができるかな、とも思ったが、長さが全然足りない。
カーテンやバスタオルは分厚く、ロープ状にすることができないのでこれも使えないだろう。
ベッドシーツは使えなくもないか……?
ただこの材質では、ロープ状にすればひどい皺がつくだろうな。
大体こんなものだろう。
僕らは客室を後にし、再びエントランスに向かった。