僕の目が覚めてから数時間後、
船はフェイ島に到着した。
この島は中央に大きな火山があって、
徒歩だと約1日で
島を1周できるくらいの広さらしい。

ここでは荷物の積み卸しや
食料・水の補給などがおこなわれる。

そのほか、船体のチェックや補修といった、
次の航海のための準備もするとのこと。
シップキラーの体当たりによって、
どこかにダメージがあるかもしれないしね。

ちなみにシップキラーは
僕らが港に入ると沖の方へ帰っていった。
またどこかで会えるといいな。
だってもう彼は僕の友達なんだから。


――次の出航は1週間後の予定。
それまでになんとしても試練を突破しないと。


ここを出るとソレイユ大陸にある
シルフィの港町までノンストップだ。
バラッタさんの話によると、
そちらも2週間くらいはかかるみたい。
 
 

アレス

タック、
第3の試練の洞窟はどこにあるの?
案内してよ。

タック

えっ? これからかっ!?
今日はやめた方が
いいんじゃないのか?

アレス

でも時間がないし。

ミューリエ

アレス、忘れたのか?
剣の修行の時に話したように、
休むことも必要だぞ?

シーラ

今はすでに午後です。
明日の朝に出発するというのは
いかがでしょう?

レイン

アレス、明日にしなさいよ。
船が到着したばかりで
バラッタ船長も忙しそうだし。
一緒に連れていくって
約束なんでしょ?

アレス

……分かった。
それじゃ、明日にしよっか。

タック

じゃ、オイラは宿を探してくるよ。

アレス

船室でいいんじゃないの?

タック

ははは……。
オイラ、久しぶりに揺れない場所で
眠りたいんだ……。

アレス

なるほどね……。

アレス

それなら僕も付き合うよ。

タック

いいって。
アレスはゆっくり休んでろって。

 
そう言ってタックは部屋を出ていった。
程なく、
集落の方へ走っていくのが窓から見える。
 
 

レイン

私はシーラと一緒に
出かけてくるわ。

アレス

どこへ? 何をしに?

レイン

……そりゃまぁ、
買い物とか
フルーツの食べ歩きとか、色々よ。

アレス

それなら僕も一緒に――

レイン

アレスは絶対にダメ!

 
レインさんはいつになく強い口調で
僕の言葉を遮った。

そこまで拒絶されるようなこと、
何かしたかな?
それとも機嫌が悪いのかな?
 
 

アレス

なんでダメなの?

レイン

アンタが男子だからよ!

アレス

へっ?

シーラ

レ、レイン様……。

 
シーラは照れくさそうな顔をしながら
レインさんの服を引っ張った。

するとレインさんはハッと息を呑み、
ばつが悪そうに咳払いをする。

この2人、
なんか様子がおかしい気がするなぁ。
何か隠してそうだけど……。
 
 

レイン

……と、とにかく!
アレスは船室で
ゆっくり休んでなさい。

アレス

じゃ、ミューリエは?

ミューリエ

私も個人的な用事がある。
すまないな。

シーラ

私個人としては、
アレス様にはまだしばらくは船室で
横になっていてほしいです。

アレス

……分かった。
じゃ、みんなが戻ってくるまで
ここで休ませてもらうことに
するよ。

ミューリエ

では、またあとでな。

 
タックに続き、
ミューリエたち3人も船室を出て行った。
僕だけが取り残され、室内は急に静かになる。


――それじゃ、
大人しく横になっていようかな。

もしかしたら、
みんなは僕がゆっくり休めるように
気を遣ってくれたのかもしれないし。


僕はベッドに横になり、
毛布を掛けて天井を眺めた。
すると作業をする船員さんたちの声や物音が、
壁の向こう側から微かに聞こえてくる。

こうして1人になるのも久しぶりだなぁ。
昔はこれが当たり前だったのに、
今はこの状態がすごく寂しく感じる。
 
 

 
 
 

アレス

ん?

 
不意に部屋のドアがノックされる音がした。
みんなのうちの誰かが、
忘れ物でもしたのかな?
 
僕は上半身を起こし、
顔だけをドアの方へ向ける。
 
 

アレス

はい、どうぞー。

 
 
 

 
 
 

シャイン

こんにちは。

 
ドアが開き、
部屋に入ってきたのは幼い女の子だった。

この子は誰だろう?
記憶を辿ってみても、
見覚えはないんだけど……。
 
 

アレス

……えっと、キミは?
どこかで会ったことあったかな?

シャイン

ううん、初めましてだよ。
私はシャイン。10歳。
お兄さんの名前は?

アレス

僕はアレスだけど……。

シャイン

アレスお兄ちゃんかぁ!
何歳?

アレス

14歳だよ。

シャイン

ねぇねぇ、
アレスお兄ちゃんがモンスターから
このお船を守ってくれたんでしょ?

アレス

僕だけの力じゃないけどね。
一緒にいる友達みんなで
力を合わせたんだ。

シャイン

そうなんだぁ。
私ね、
お礼が言いたくてここに来たの。
ありがとう。

アレス

そっか。
こちらこそ、
わざわざ来てくれてありがとう。

シャイン

じゃ、私は行くね。
また会おうねー。

 
シャインちゃんはニコニコしながら
手を振ると、
部屋を出ていった。


そっか、あの子もこの船の乗客だったんだね。
ご両親はすでに降りたのかな?

ああいう幼い子も守れたんだなって思うと、
なんだか嬉しい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



その日はタックの見つけた宿に泊まった。
そして朝になり、
いよいよ第3の試練の洞窟へと向かう。

僕たちのほかにバラッタさんも加わり、
タックを先頭に6人で島の海岸を歩いていく。
 
 

バラッタ

おい、
どこまで歩いていくつもりだ?
確かこっちには
洞窟らしきものなんか
なかったはずだぞ?

タック

まぁまぁ、黙ってついてきなって。

 
言われるまま、
僕たちはタックについていった。

やがて行く手には砂浜がなくなり、
ゴツゴツとした岩浜へと変わる。
さらにそこをしばらく進んでいくと、
海まで迫り出した高い岸壁が立ち塞がった。

海にでも入らない限り、
ここから先へは行けない。
 
 

アレス

タック、行き止まりみたいだけど?

タック

ここでいいんだ。
もう少しだけ待ってくれ。

 
そう言うとタックは岸壁に手を触れ、
何かを探り当てているようだった。

そして何か所目かに触れたところで
小さく息を呑み、手を止める。
 
 

タック

あったあった♪

 
 
 

 
 



その場所を押すと手の周りが四角くへこみ、
岸壁の一部が横にスライドして穴が現れた。

大きさは大人1人が普通に歩いて
ちょうど通れそうなくらいだ。
 
 

タック

さっ、みんな。
この中へ入ってくれ。
レイン、灯りの魔法は使えるか?

レイン

えぇ、もちろん。

タック

じゃ、灯りの魔法を使って、
お前が先頭を歩いてくれ。
突き当たりまでな。

レイン

……あたしだけ
閉じ込めたりしないでしょうね?

タック

するかっ!
今はそういう状況じゃないだろっ!
さっさとやれ!

レイン

……もぅ、
そんなに怒らなくても
いいじゃない。

レイン

…………。

 
レインさんは右手の手のひらを上に向け、
何かを呟いた。
すると手のひらの少し上の空間には
光球が出現する。


タックの指示通り彼女が最初に穴の中へ入り、
僕たちもそれに続いた。
最後に入ったタックは出入り口付近の
壁を探り、
スイッチになっていると思われる
地点を押して、
穴を元の状態へ戻す。


……もし灯りがなければ
真っ暗で何も見えなくなっているだろうな。
 
 

 
 
 

レイン

……あら?

アレス

どうしたの?

レイン

突き当たりみたい。
ここって意外に奥行きがないのね。

ミューリエ

奥の辺りは
人工的に作られているようだな。
壁の模様は古代文字か?

タック

ここは特定の場所へとワープできる
ゲートになっている。
オイラが今から魔法を唱えるよ。

タック

…………。

 
 
 

 
一歩前に出たタックが何かを呟くと、
僕たちの足下に魔方陣が
ぼんやりと輝きながら現れた。


次の瞬間、目の前は光に包まれ――
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

アレス

うわぁっ? ここ、どこ?

 
いつの間にか、僕たちは明るく広い場所の
真ん中に立っていた。

見回してみると
近くには石造りの巨大な建物があり、
地面は石畳になっている。

ずっと先の方は青一色の壁。
見上げてみてもそれは同じで、
そこをゆったりと魚たちが泳いでいる。


――えっ!?
 
 

アレス

魚が空を泳いでるっ!

ミューリエ

いや、そうではない。
どうやらここは海の中のようだ。

タック

ミューリエが正解。
ここは水中都市さ。
ドーム型の結界に包まれていて、
外との行き来はゲートでしか
できない。

タック

位置的には
さっきの岸壁の沖合に当たる。

バラッタ

たまげたぜ!
海底にこんなものがあったとはな。
俺ら普通の人間が
気付かねぇわけだ。

タック

ここはオイラの生まれるずっと昔、
古代魔法文明の全盛期に
作られた街だ。
その一族が滅びて以来、
世間から
忘れ去られていったらしい。

アレス

タックが生まれる前っていうと、
少なくとも
400年以上前ってことか。

シーラ

タック様やウェンディ様のように
人間より長命な種族は
たくさんいます。
その方々にすら詳細が
伝わっていないということは、
1000年以上は
昔なのではないでしょうか?

レイン

でしょうね。
古い書物で読んだことがあるけど、
古代魔法文明が栄えていたのは
今から3000年以上前だったような
気がする。

バラッタ

俺らには想像も付かねぇ時間だな。

タック

だからなぜここにあるのか、
どういう目的で
どうやって作られたのか、
全てが謎だ。

タック

その一族で
わずかに生き残った末裔が、
ずっとここを管理している。
ひっそりとな……。

ミューリエ

では、そのうちの誰かが
審判者というわけだな?

タック

まぁな。
そいつらの種族は人間で、
数十年前に立ち寄った時は
審判者が年寄りだった。
つまり寿命を考えれば、
今は別のヤツに変わってるはずさ。

アレス

じゃ、タックも
現在の審判者に会うのは
初めてなんだね?

タック

そういうことだな。
でも、安心しろ。
オイラには審判者が誰なのかは
気配で分かる。

 
こうして僕たちは水中都市へと到着し、
タックの案内で審判者の気配がする場所へ
向かったのだった。
 

……今回の審判者はどんな人なんだろう?
そして第3の試練の内容って何なのかな?
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第44幕 古代魔法文明の遺産

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