姫が誘拐されてしまっていた頃、勇者たち一行は姫を除いた全員が宿に戻っていた。

騎士

……とりあえず給与はこれ。

魔法使い

なんか騎士機嫌悪くない?

騎士

……女勇者の騎士に会った。

魔法使い

まーたなんか言われたんだ。

騎士

……。

勇者

オレたちも女勇者に会ったぞ。

剣闘士

なんかよくわからないこと言われたけどな。

魔法使い

へー、なんて?

勇者

明日の朝、決闘した場所で待つ。仲間を連れてこいって。

魔法使い

なに。まだやる気なのあのおバカさん。

剣闘士

次こそは勝つ!

勇者

戦いに行くつもりはないからな。

勇者

そういや魔法使い、あの角のやつは?

魔法使い

ああ、あれね。

勇者

なんだその笑顔。

魔法使い

いやあ、今日はいろいろと話を聞いてたんだ。

勇者

またなんか企んでるのか。

魔法使い

失礼だなー。研究と言ってよ。

魔法使い

それにあたしの薬の活躍具合から考えても悪いことじゃないでしょー。

勇者

あんまり姫ばっかりいじめるなよ。

魔法使い

じゃあ代わりに飲む?

勇者

いや、遠慮しておく。

魔法使い

ま、今回のはなかなかうまくいきそうだけどね。構想的には完ぺきでまったく新しい薬ができるかも。

勇者

今までのは新しくはなかったのか?

魔法使い

あれは全部師匠譲りの薬なんだよ。

魔法使い

本来は副作用なしで使えるはずなんだけど、あたしが作るとどうしてかうまくできないんだよねー。

剣闘士

やっぱり師匠ってすごいのか。

魔法使い

そりゃあね。一週間で開発した薬で店の改築できるまでに繁盛させたくらいだからね。

勇者

おお、すごいな。

魔法使い

ま、その二か月後に開発した薬で多額の借金も背負ったんだけどさ。

騎士

……町中で騒ぎになったあの事件。

剣闘士

なんだそれ。

勇者

そうか、剣闘士はずっと闘技場にいたから知らないのか。

勇者

あれはひどかったな。もう少しで王が動くところだったんだぞ。

剣闘士

聞かせてくれよ。

騎士

……ある商店が一つの薬を販売した。

騎士

……その薬は金運が上昇するという効果の薬だった。

剣闘士

なんか胡散臭い薬だな。

魔法使い

でも、前の薬が売れたっていう広告もあって飛ぶように売れたよ。

勇者

それがまずかったんだけどな。

騎士

……その後、町中で効果が表れて裕福な暮らしができる家が出てきた。

勇者

でも、逆に薬を買っていない人たちの暮らしがだんだん厳しくなっていったらしくてな。

魔法使い

今から薬を買おうにも相場が劇的に上がって手が出せない。

勇者

それはお前の店の値段次第のはずなんだけどな。

騎士

……結果としては富裕層と貧困層の格差が大きくできて、町のお金の動きもおかしくなった。

魔法使い

師匠が試験的だからって薬の効果に時間制限をつけてなかったら大変だったかもね。

勇者

あれだけでも十分大変だったんだぞ。

剣闘士

そんなことがあったんだな。

剣闘士

というか、それならなんで魔法使いの店が借金なんて負ったんだ?

魔法使い

師匠が需要が伸びたからって支払を度外視して材料を購入したから。

剣闘士

あー、それは…。

魔法使い

あと、薬の影響だね。

勇者

薬って金運アップのか?

魔法使い

そう、あの薬の効果のせい。

騎士

……でも効果とは逆に金運がダウンしている。

魔法使い

だってあたしたち薬使ってないもん。

魔法使い

周りの薬の効果でどんどん金運が下がっていったみたいで売り上げが落ち込むわ、商品開発に失敗するわ、師匠は金勘定ができないわ。

勇者

最後のは金運関係ないと思うが。

魔法使い

あー、なんか師匠に腹立ってきた。

勇者

落ち着け。

騎士

……それよりまだ姫が帰ってきていない。

剣闘士

あれ、ほんとだな。

魔法使い

一人で何しに行ったの?

勇者

わからん。楽しみにしていてくださいね、とか言いながら出て行ったきりだからな。

魔法使い

変なことしてなきゃいいけど。

剣闘士

ま、そのうち帰ってくるだろ!

勇者

いいのか、それで。

こうして、姫がさらわれたことも気付かずに勇者たち一行の一日は終わるのであった。

pagetop