用意された朝食を食べ終えてもなお、エリザはずっと考え事をしていた。そして、あたしも考えなければならない、あたし自身はこの先どうするのか。

エリザが出した答えがあたしにとっても賛同できるものなら、エリザと行動を共にしたいと思う。でもそれじゃあ、エリザの答えがどんな答えなら一緒に行き、どんな答えなら別れるのか。その判断をするためには、あたし自身の考えがしっかりしていないといけない。

少し森を歩き回って、開放的な空間の中で考えよう。そう思って神殿の玄関へ向かおうとした時、廊下の角からあらわれた人影とぶつかりそうになった。

あたしとぶつかりそうになったその人影は、神殿で使用人として働くハーピーの中の一羽だった。割烹着を着てコック帽をかぶっているから、料理を担当しているハーピーだろう。
彼女はぶつかりそうになったことを謝罪し、「ところで朝食はいかがでしたか?」と尋ねてきた。ハーピーが人語を喋れると思っていなかったあたしは、すこし驚いた。

アニカ

グラマーニャ語喋れるんだ。
朝食はすっごくおいしかったよ。ご馳走さまでした

そう返事した後、ふとあることを思いついたあたしは、そのハーピーにこんな質問をしてみた。

アニカ

ねえ、もしあたしが狩りで食材を手に入れてきたら、それを料理して晩御飯に出してもらうことできる?

ハーピーはちょっと目をぱちくりさせた後、「何を採ってくるつもりですか?」と尋ねてきた。

アニカ

ヤマバトの鳴き声が近くで聞こえたわ。ヤマバトを狩るのは得意なの。
あと湖にニジマスの魚影もみえた。あれも三・四匹釣ってこようかと

「そういったものなら、手前どもも自分で捉えて料理していますので問題ありません」とハーピー。よし、それなら決まりだ。
正直なところ、獲物を捕らえられるか分からない。昨日ハーピーと戦闘になった時に攻撃できなかったのと同じように、ヤマバトやニジマスも殺すことができないかもしれない。
そうだとしたら、あたしは今後、普通の狩人として生きていくことも出来ないことになる。

今回狩りをしようと思い立ったのは、自分にはまだ動物を狩ることが出来るかどうかの確認と、初心に帰ることで自分を見つめなおすためだ。

狩りを始めるときは、四大精霊に酒を捧げて、精霊達の生み育てた大事な山の生き物達を狩る許可をいただく。

儀式が終わってすぐ、遠くの木陰からヤマバトが飛び立つのが見えた。目をこらして、行方を確認する。
ヤマバトが降り立った辺りを探してみると、オークの枝の薄暗がりにまぎれて、羽を休めているヤマバトを発見した。しかし、枝に邪魔されてイマイチ狙いにくい。
近場の木の幹に隠れ、ヤマバトが全身を見せる瞬間を待つ。
しばらく忘れていた、獲物との駆け引き。緊張で渇いたのどを水筒の水で潤しながら、ひたすらヤマバトに神経を集中させ、機をうかがう。

ヤマバトが飛び立とうとして、羽を広げ数回羽ばたきをした時、あたしの位置からヤマバトの全身が丸見えになった。すかさずあたしは矢を放つ。矢羽が風を切る音がして、ヤマバトはどさりと地に落ちた。

アニカ

よし、食べるために狩りをすることは、まだできる

同じ要領で二羽、三羽と仕留めながら、ふと考える。
なぜあたしはハーピーを殺せず、ヤマバトは殺せるのだろう。
ヤマバトは食べるために狩っているから? たぶんそれは、理由の一つにしか過ぎないだろう。思うに、ハーピーは人間に似すぎているのだ。

あの時襲ってきたのがハーピーではなく、龍やスライムなど、人間とはかけ離れた容姿を持つ魔物だったら、あたしは戦えたかもしれない。しかしハーピーは羽毛に覆われ、脚に枝を掴むための大きな鉤爪がある以外はほとんど人間と変わらない。だから人間を殺すのと同じように罪悪感を感じたのだ。

あの事件を経験する前は、それでも魔物は魔物、人間とは違うと割り切って考えることが出来ていたが、それができなくなった。それは人間の持つ残虐さに気づいたからかもしれないし、魔物に親近感を持つあの村の思想に触れたことにより人間と魔物の区切りがあたしの中で曖昧になったからかもしれない。

いずれにしても、今あたしの中にある、これまで通りに魔物を倒し続けることに対する抵抗感は、単に「人に近い生き物は殺したくない」という、かなり主観的な基準に基づくわがままに過ぎず、正義でもなんでもないということだ。

そこまで考えたところで、太陽が中天に差し掛かっていることに気づいた。ヤマバトもあたし達とイーリス様が食べる分は捕れたことだし、ハーピーが昼食を用意してくれているだろうから、一旦帰ることとしよう。

昼食はライ麦パンにトマトや鶏肉を挟んだサンドウィッチだった。

アニカ

もぐもぐ。
トマトがみずみずしくておいしー♪

エリザ

……そうですね

エリザはまだなにか思案中のようで、言葉少なだった。自然と静かな食卓になる。

さて、食事が済んだら仕事の続きだ。ヤマバトだけじゃなくてニジマスも採ってくると言ってある。夕食の直前になって食材を持っていっても困ってしまうだろうから、日があまり傾かないうちに釣りを終えねばならない。

そこらの木の枝で即席の釣竿を作り、ニジマスのいそうな岩影などを狙って釣り糸をたれる。餌は岩場を這い回っていた虫だ。

釣りと言うのは、考え事をしながらの作業にはもってこいの仕事だ。魚が喰いつくのを待つ間は、釣り糸の浮きだけを見つめてぼんやりとしていればいい。

ええと、どこまで考えたっけ?
……これまでに考えたことをまとめると、あたしは魔物をもう殺すことが出来ない、少なくとも人型の魔物を殺すことは出来ないけれども、それは非常に独善的な倫理観によるものだ、という事になる。

魔物になりたがっていた村の人々を惨殺したオットー達の倫理観が正義で無いように、ヤマバトやニジマスは殺すけれどもハーピーは殺さないあたしの倫理観もまた、別に正義と言うわけではない。

神ならいざ知らず、人の身で絶対に正義と呼べるような倫理観など持ちようがないし、よしんば持てたとしてもそれに則した行動などできるわけがないのだ。それは仕方がない。

オットーや司祭だって同じだ。彼らの倫理観が客観的にみて正義と呼べるものではないこと、それ自体は罪ではない。
彼らが自分達こそ正義だと信じ込み、村の人たちの正義を一方的に踏みにじったことこそが彼らの罪なのだ。

だからあたしがこれからの人生でやってはいけないことは端的にいえば、自分の倫理観によって他人を害すること、または、他人の正義を無価値と決め付けたり、その思想を矯正しようとすること。

エリザが答えを出したとき、その答えがあたしのこの考えに反するものでない限りは、そしてあたしに手伝えることがあるならば、エリザを手伝いたいと思う。
でも、もし彼女の答えが他者の正義と対立するものだった場合は、あたしはあたしの考えをエリザに伝え、だから一緒には行けない、と言わなければならない。
これまで苦楽を共にしてきたエリザと別れるのは悲しいけれど、多分そんなことにはならない、という予感があたしにはあった。

考えをまとめているうちに、あたしの水桶の中には四・五匹の釣果が元気に泳いでいた。この湖のニジマス達は、天敵といえば空中から飛来するハーピーたちで、人間による釣りに無警戒なのか、非常に良く釣れた。これだけあればあたし達の食事には充分だ。そろそろ引き上げよう。

ハーピーに獲物を渡して部屋に戻ると、エリザが待っていた。
巣立ちの日の雛鳥みたいな覚悟を宿した瞳で、エリザはこちらを見つめている。どうやら彼女も、答えを決めたらしい。

アニカ

決めたんだね。
聞かせて。エリザの答えを

エリザ

ええ。
答え合わせをしましょう

それから彼女は語った。これから彼女がどのように生きていこうと考えているのかを。そしてそれは、あたしの考えと矛盾するものではなかった。

エリザ

困難な道だということは分かっています。
でも私は、一生をかけても成し遂げたいのです。

アニカ

うん。分かるよ。
それって協力者がいるよね?

エリザ

ええ、たくさん。
一人でも多くの協力者が必要です

アニカ

あたしが協力するよ。
エリザの夢を一緒にかなえたい

あたしがそう提案すると、エリザは嬉しそうに微笑んだ。


イーリス様に今後のことを話すのは夕食の後にしようと決めた。あたし達にも心の準備がいる。

あたしの取ってきたニジマスは小麦粉をつけてムニエルにされていた。ハトはトマトと一緒にパイに包んでミートパイ。火加減、パイのパリパリ感、文句のつけようのない料理で、調理担当のハーピーに感謝しなければいけないのはもちろんだが、自分で採ってきた食材だとそれ以上に、食材となってくれた生命に対する畏敬を忘れてはいけないという気持ちになる。

イーリス

アニカちゃんの採ってきたハト美味しいわ。
ニジマスもね

イーリス様の賛辞に、あたしは「ありがとうございます」と返すけれど、ハトが美味しいのは第一にハトの功績であって、第二に調理した人のおかげだ。狩猟の仕方で食材の味を悪くすることはあってもよくすることはない。ハトがおいしいからといってあたしが感謝される筋合いはない。


さて、食事の後一休みしたあたしとエリザは、いよいよイーリス様の部屋を訪れた。
言うまでもなく、イーリス様に課されていた宿題に答えるためである。

イーリス

さあ、聞かせて頂戴。
あなた達はこれから、どう生きていくつもりなのかしら?

荘厳な金の玉座に座したイーリス様をまっすぐに見つめ、エリザは口を開いた。

エリザ

私は、人間と魔物との和解の道をさぐりたいと考えています

そう、それが、エリザの出した答え。
あたしが全力で手伝うと決めた、エリザの夢。

イーリス

ふーん。
もしそんな大層なことがあなた如きにできるなら、他のだれかが既にやってると思わない?

って言うか、できるものならあたしがやってるわよ。とイーリス様はぶっきらぼうに言い放った。

エリザ

困難なことは分かっています。
私がこれから一生を賭けてやることは、私の生きている間に実を結ばないかもしれません。
それでももし、百年後か、千年後かに、人間と魔物が今より少しでも良い関係を持てるのであれば、私のすることは無駄ではないのだと思います。

イーリス

へー、まあいいけど。
で、具体的に何をどうするつもりなの?

エリザ

魔都オズィアに行き、魔王との話し合いを行います。
魔王側からグラマーニャに対して何か要求があるなら、王都に帰り国王と交渉します

イーリス

それはそれは。ご苦労なことね。
でも「話し合う」と言ったって、話の分かる魔物たちばかりじゃないはずよ。魔都オズィアに着くまでだって、こちらの話に耳を貸さず、問答無用で攻撃してくる魔物がいくらでもいるはず

イーリス

国王との交渉だってそう。魔王からの要求なんて一顧だにしてくれない可能性は充分にあるし、よしんば国王が話の分かる人でも、家臣の中にはわからず屋が沢山いる。魔物との間に妥協など一切不要と考える人たちがね。
そういう人たちが、まずあなたを国王と会わせてくれないと思うわ

エリザ

まずは私の考えに賛同してくれる魔物を探します。
賛同してくれる魔物が一人でも見つかれば、その方の協力を得てさらに賛同者を得てさらに協力者を増やします

エリザ

そうやって、少しずつでも魔王に近しい人、オズィアの権力の中枢に近い人に人脈を作っていく作戦です

グラマーニャ王国側に対しても同様に、協力してくれそうな人を見つけて説得し、人脈を広げていく。
細い繊維を束ねて糸を紡ぐように、手間暇をかけて紡いだ人脈がグラマーニャ国王と魔王を一本の糸で繋いだとき、二つの勢力の間で紛争解決のための交渉が行えるかもしれない。

イーリス

うっわ、気の長い話ね。
本当に実現できると思ってるの?

半ば呆れたようにさえ聞こえる口調で、イーリス様が問う。
エリザは意志を秘めた目で、じっとイーリス様を見据えて、厳かに答えた。

エリザ

私の残りの命をすべて捧げて取り組めば、きっとこの二種族間の諍いに一石なりとも投じることができる。
そう信じなければ、世界は変えられません。

イーリス

あたしにもできないことを、
自分はできると信じられると?

エリザ

信じます。
人間も魔物も、本当は争いを望んでいないはず。
それならば必ず分かり合えるはずです

アニカ

それに幸いなことに、あたし達は二人います。
イーリス様一人ではできないことでも、頭数だけなら二倍もいるんです。きっとやり遂げてみせますよ

それを聞くとイーリス様は、しばらく笑いを堪えるように顔を隠して肩を小刻みに震わせていたが、とうとう耐え切れなくなったように大声で笑い出した。

イーリス

うふふふふふ、あーっはっはっはっはっは!
いいねー、若者特有の、世の中舐めちゃってるその感じ。
何もできねーガキ二人が、世界を変えられる気でいるなんて!

イーリス

おもしれー。最高に面白いわよあんた達。
オキュペテーの報告通り、抱腹絶倒のお笑いコンビだわ

ハーピーの女王はあたし達のことをそんな風に紹介していたのか。あたし達は旅芸人じゃないし、オキュペテーさんのこともイーリス様のことも笑わそうと思ったことは一度もないんだが。

イーリス

まあいいわ。エリザちゃんのその、甘ったるい理想論を本気で実現させるつもりなら、王国領内と魔物の勢力圏を行ったり来たりすることになるわよね。
それならちょっとついでに頼みたいことがあるんだけど

エリザ

頼みたいこと、ですか?

イーリス

ええ。
エリザちゃんたちは『悪魔(トイフェル)』って知ってるかしら

エリザ

トイフェル……。
人を誤った道に誘いこむ超自然的な存在のことを、主に天上教徒が呼ぶ名称ですね。
天上教徒たちは、メレク神やその眷属のこともトイフェルと呼ぶことがあります

イーリス

そりゃ天上教徒から見れば、メレク様の教えも『誤った道』だからね。
でももちろんメレク様やあたし達眷属はトイフェルじゃない。
本当のトイフェルって言うのはね……

イーリス様の説明によれば、人間を導くことができる、人間を超越した存在という点においては、神と悪魔は似ていると言える。
ただし悪魔が神と決定的に異なる点は、悪魔が人を導くのは悪魔自身の利益のためであり、人間に対して必ず対価を要求すること。そして、争いや混乱を好み、人の世を意図的に乱そうとすること。この性質のために、悪魔の力を借りた人間は、一時的には願いを叶えることができても、最終的に破滅することが多い。

イーリス

でね、そのトイフェルの活動が最近活発化しているの。
人間だけじゃなく一部の魔物にも取り憑いているみたい。王国の有力者や天上教の枢機卿、魔王の腹心なんかにも取り入って、なにやら画策しているらしいの

イーリス

エリザちゃんたちにお願いしたいのは、旅の途中でトイフェルに取り憑かれている人間や魔物を見つけて、見つけ次第トイフェルを排除することなの。

騒乱を好むというトイフェルが王国の有力者や魔王の腹心に取り入っているというのなら、そのまま放置すれば早晩、なにかの災厄が起きるだろう。それはあたし達の目的にとって非常に都合が悪い。だからもちろん、イーリス様のお願いを受諾することは、あたし達にとってもプラスになる。とはいえ……

アニカ

トイフェルに憑かれた人や魔物って、
どうやって見つければいいんですか?
そしてトイフェルはどうやったら排除できるんですか?

イーリス

見つけ方は……勘かな

はあ? と思わず素っ頓狂な反応をしてしまったが、詳しく聞いてみると、トイフェルに憑かれた人を見つけ出す簡単な方法はないらしい。
ただし、トイフェルの力を借りている人や魔物は、必ず何らかの卓越した能力を持つようになる。それでいて、どこかに危うさというか、社会の中で生きていくうえで重要な何かが欠損しているような、そんな不安定さを持っているという。そういう人物を見つけろという事だ。

次にどうやって悪魔を排除するかだが、これも簡単な方法はないらしい。トイフェルに魅入られる人間には、トイフェルにつけ入られるだけの心の隙間があるはずで、その心の隙間を埋めてやることで悪魔を排除できるという。

イーリス

まあ、別に悪魔に取り憑かれた人間や魔物を殺しちゃうんでもあたしは構わないんだけどさ。あなた達はそういう解決方法を好まないのよね。
そんなら憑かれた奴の心の隙間を埋めて悪魔を追い出すしかないわ

なんだか見つけ方も追い出し方も具体的な方法が一切見えてこない。ものすごく漠然としていて何をどうやればいいのかさっぱりだ。

イーリス

あなた達の夢物語を実現することに比べたら、遥かに簡単なことよ。
で、やるの? やらないの?

どうしよう、あたしはエリザのほうを見た。
エリザの答えは決まっているようだった。あたしはエリザの回答を支持することを、目線で彼女に伝えた。言葉は交わさなかったけれど、充分に伝わったようだ。

エリザ

やります

彼女が答えると同時に、窓のないはずの室内に一陣の風が吹いた。
そしてエリザの身体が柔らかな光に包まれ、しばらくして、何事もなかったかのように風も光もおさまった。

イーリス

トイフェル退治を手伝ってくれるんなら、当然魔法を使えなくっちゃいけないからね。
魔力は返したわよ

アニカ

ホント? エリザ魔力戻ったの?
試しにイーリス様を火ダルマにしてみてよ

イーリス

その前にアニカちゃんを血ダルマにしてあげようか?

ごめんなさい調子こきました。
とにかくどうやら、エリザにかけられた呪いは完全にとけ、魔力は戻ったらしい。

イーリス

あと、旅の餞別としてこれをあげるわ。
きっと何かの役に立つはずよ

イーリス様は懐から数枚の紙片のようなものを取り出して、あたし達に差し出した。
女神様によれば、これは『イーリスの封筒』と呼ばれるアイテムで、この中に便箋を入れて届けたい相手の名前を書き込むと、どんな相手にでも手紙を届けることができるのだという。
どんな相手にでもというのは、どこに住んでいるかわからないような人や、面会が絶対に許されない人、はてはメレク神や四大精霊のような存在にも届けられるというのだ。

エリザ

ありがとうございます。
たしかに、あたし達のしようとしている事に、とても役に立ちそうです

イーリス

枚数に限りがあるから、大切に使ってね。
今夜はもう日も暮れたからうちに泊まって、明日くらいに出発するといいわ

イーリス様の言葉に従い、あたし達は翌日の朝に神殿を後にして、出発することにした。
来たときと同じくハーピーの船頭が迎えに来てくれて、湖を船で移動する。

アニカ

で、さしあたりどこへ行こうか?

船の上では手持ち無沙汰なので、あたしはエリザに聞いた。
いきなり魔都オズィアを目指しても、道中で魔物たちが矢継ぎ早に襲い掛かってくるだろう。魔物と戦わずに魔都オズィアに近づける算段がつくまでは、魔物の多い地域には立ち入らないほうがいいだろう。

エリザ

私はまず、ヴァルターたちと合流するべきだと考えています

アニカ

え゛~~!?
ヴァルター?

ヴァルターと聞いて、思わずものすごく嫌そうな声が出てしまった。
きっとあたしの顔は、好色親父の酒の勺をしろと言われた時のような、苦りきった表情を浮かべていることだろう。

ヴァルター自体はまだしも、魔王討伐隊にはグレーテルもいるし、あたし達が抜けた代わりに補充人員が二人入っているはずで、そのうちの一人はおそらくオットーだ。あんなことがあった後で、グレーテルやオットーと係わり合いになりたいと思う人間がいるだろうか。

エリザ

右手で握手を求めながら、左手で殴りかかっていては、和解は成立しません。
魔王と和解したければ、まず魔王討伐隊を止めなければ

アニカ

うーん……
だけど、国王の勅命で動いてる魔王討伐隊は、ヴァルターたちの一存で中止できるものじゃないしなあ……

エリザ

まずヴァルターたちを説得してオズィアへの侵攻をやめさせ、そのあとで国王の理解を得る。それしかありません。
人間であるヴァルターや国王を説得できなくては、魔王を説得することなど不可能です。

アニカ

……うん。
まあ、やるしかないよね

どのみち困難な道なのだ。目的のために魔王討伐隊の中止が不可欠ならば、それが難しいとしてもやらなければならない。
しょうがない。関わりあいたくない奴らだけれど、会いに行くしかない。

アニカ

そうと決まれば、まずは魔王討伐隊が今どの辺にいるかの情報収集だね

当面の目標は決まった。
そして、トイフェルとやらに憑かれた人探しもしなければならない。
どんな困難が待っているか分からないという漠然とした不安はあるけれど、自分で決めた道だ。進んでいこう。
(メレクの呪い編・完。 若きヴァルターの悩み編に続く)

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