ゼリィ

アックスチャリオット。
アックスチャリオット!
アックスチャリオット!!

ゼリィ

はぁはぁ……

ゼリィ

……

ゼリィ

肺活量が疲れる!!

ゼリィ

必殺技っぽい名前なだけで特殊効果とか皆無だからなぁ……『氣』も込めちゃいねぇし

ゼリィ

だが、てめぇらには もったいねぇ!!

ソートク

ヴァルキリー!

ゼリィ

おお、ソートク。
こっちはあらかた片付いたぜ

ソートク

姫の救出に成功したぞ!!

ゼリィ

おっしゃ!!
流石だぜソートク!!

ゼリィ

姫様、怪我は!?

は、はい、無事です!!

ゼリィ

よしっ!

ゼリィ

って、おいおいおい

ゼリィ

手ぇ握っちゃってんじゃねぇか

目に映るのは、重なり合っているソートクの左手と、姫の右手だ。

まじまじと見なくてもわかる。

女性の手は総じて柔らかく、絹でしつらえた上品な民芸品のようである。

加えて今回ソートクが握っているのは、花よ蝶よと大事に育てられてきた一国の姫だ。


これが血が迸り、一瞬の気の緩みも許されない場でなかったら、その感触を永遠と楽しむだろう。

ゼリィ

勇者冥利に尽きるじゃねぇか、ソートク!

ソートク

何のことだ?

ゼリィ

いや、何でもねぇ

ゼリィ

……

ゼリィ

オレの手も、誰かに握られる日が来るのかねぇ……

清潔感のある手。しなやかな手付き。

全ての女性の手がシルクのなめらかさを持っているとは限らない。

例えば自分がそうだ。

ゼリィ

昔っから武器しか持ってなかったからなぁ

手のひらは肉刺ができて、筋肉によって木片並に硬い。

この両手に繋がせたのは異性の手ではなく、粗暴な武器だけだ。

おおよそ「可愛らしい」や「美しい」とはかけ離れている。

ゼリィ

ま、その分できることはあるか……

ソートク

頭目はここにはいないらしい

ソートク

戻ってこられたら面倒だ。急いで脱出するぞ

ゼリィ

おうよ!

ソートク

む?

ゼリィ

!?

!?

あ、あれは……

ゼリィ

ありゃゴーレム系か?
『深緑の大地』じゃまず 見られねぇ

ソートク

姫を護っていた番人だ

ソートク

頭を貫いたというのに、復帰が早いな

はぁ……はぁ……

ゼリィ

ソートク!!あいつはオレがやる!

ゼリィ

姫様をこれ以上疲れさせんな!

ソートク

……わかった!

ソートク

姫殿下!
ご無礼を承知で、失礼いたします

キャッ

ゼリィ

お姫様抱っこ!?

ゼリィ

って、姫様抱えるんだから何の問題もねぇか……

ソートク

両の手が塞がったまま逃げる――

ソートク

急いで追って来い、ヴァルキリー!

ソートク

だが、決して無理をするなよ!!

ゼリィ

心配すんなよ!

ソートク

頼もしいな……

ソートク

行きます、姫様!

え、ええ






ゼリィ

無理するな、か……

ゼリィ

へっ――

ゼリィ

無理するような相手じゃねぇよ

ソートクの足音が遠ざかる。

姫を抱え上げているのというのに、失速せず、迷いのない足音だ。

ゼリィ

お姫様抱っこか……。
様になってるじゃねぇか、ソートク

ゼリィ

邪魔立てを許すわけには いかねぇなぁ、石っころ!

ゼリィは手斧を持つ右手を振り上げた。

ゴーレムを倒すためではない。

ゼリィ

ちょっと本気出してやるよ!

そう言って手斧を思い切り大地に叩きつける。

踏み鳴らされて硬くなった土をいとも簡単に抉り、地面に手斧が刺さる。

そうすることによって、両手がガラ空きになった。

ゼリィ

ゴーレム系の動きを止めるには、頭をかち割ればいい

ゼリィ

そして、確実に仕留めるには首をもぎ取るのがセオリーだが……

ゼリィ

セオリーが通りが全てじゃねぇぞ……?

ゼリィ

『深緑の大地』で使うとは思っても見なかったがな――

ガラ空きになった右手を背後に持っていく。

異性と繋いだことのない手に、巨大な斧を掴ませる。


ずっしりとした重量感や、使い古されたなめし革の感触が手によく馴染む。

ゼリィ

オレの手は男の手を知らねぇ――

ゼリィ

それでも掴ませるモノに困ったことはねぇ!

右手で掴んだ斧を勢いよく眼前へ。

ゼリィの身長を優に超す斧は大斧と呼ばれる種類の斧だ。

長大ゆえに、扱いは至難だが威力は手斧の数倍である。

手斧と同じく、配色や装飾といった意匠は雷燕を模っている。

こちらには羽飾りが無いが、それでも存在感は揺るがない。

長年愛用している大斧だ。

ゼリィ

一撃必殺が得意なのは てめぇだけだと思うなよ!

ゼリィ

大盤振る舞いだ!
『氣』を使って相手してやる!

ゼリィ

見た目だけ必殺技のさっきの(アックスチャリオット)比じゃねぇぞ

ゼリィ

双子になりな、石人形!!

斧の最も得意とするところは、重量に任せた振り下ろしによる切断だ。

しかし、ゼリィは大斧を振り上げた。

振り下ろされたゴーレムに真正面から対抗するようにだ。

雷燕色の大斧が飛翔するかのように振り上げられる。

ゴーレムの右腕は、雷燕の上昇を止められない。

紙や布のようにスーっと切込みが入っていく。

ゼリィは石の腕を裁断しながら跳躍。

腕だけでなくゴーレムの全身を裂くために。

ゼリィ

四氣――!!
『一 刀 両 断』

大斧の片刃である、雷燕の翼がゴーレムの中心を駆ける。

ゴーレムの石の境目を狙ってなどいない。

魔界の石であろうと、一刀の元に両断する。

それが氣を込めた斬撃『一刀両断』である。

完全に真っ二つにされたゴーレムは音を発することも許されず崩れ落ち、白炎に包まれた。

ゼリィ

力勝負じゃ負けやしねぇよ

ゼリィ

ビシ……?

何かが軋む音が入ってきた。

それは上から。

洞窟の天井だ。

見れば音とともに、黒い線が天井に描かれている。

パラパラと土埃が降ってきている。

天井に描かれた黒い線の正体に気付いた。

ゼリィ

あー、亀裂だな。
ヒビ入っちゃったのか。

ゼリィ

威力が高すぎるのも参ったもんだぜ

ゼリィ

……

ゼリィ

やっちまったぁあああ!!
















キャッ!
またゴーレムですか!?

ソートク

いえ、これは地鳴りでしょう

じ、地鳴り……?

ソートク

理由は知りませんが、洞窟全体が揺れています

ゼリィ

ソォオオトクゥウウ!!

ソートク

おおヴァルキリー、もうゴーレムを倒した――

ゼリィ

走れソートク!!
洞窟が崩れるぞ!!

ソートク

なんだと……

え……

ゼリィ

走れ走れ!
急がねぇと生き埋めだ!

ソートク

ゴーレムめ……小癪な真似を!!

ゼリィ

ワリっ!
小癪な真似したのオレだ……

きゃああ!
後ろはもう崩れてますわ!

ソートク

後ろは振り返られるな姫!

ゼリィ

間に合えぇ!!

ゼリィ

だああ!
あんぐらい耐えろよ!
軟弱洞窟!!

ゼリィ

!?

ゼリィ

ソートク!あれ!

あ、あれって……

ソートク

見えている!!出口だ!!

ソートク

あと少しだ!!
















ゼリィ

よしっ!!
なんとかぁあ!!

パッフ

ゼリィ殿!
御無事ですか?

ソートク

間に合ったか!!

パッフ

勇者殿!

ソートク

土埃が舞います!!
姫!
目を瞑ってください!!

は、はい!!!

パッフ

皇女殿下!?

パッフ

見事救われたので――

ゼリィ

パッフ!
マズいぜ!!

パッフ

え?

ゼリィ

はぁはぁ……

ゼリィ

流石に肝が冷えたな……

ゼリィ

ソートク、姫さんは!?

ソートク

姫……お怪我は?

だ、大丈夫です……

ゼリィ

ぃよしっ!!
救助成功だな!!

ソートク

ああ!

パッフ

ケホっ……げほっ、く、口の中に大量の砂が……

ゼリィ

お?
大丈夫かパッフ?

ゼリィ

だからマズいって言ったのに……

パッフ

『マズい』という情報だけでは、対処しきれません!!

パッフ

『離れろ』とか『崩れるぞ』とか色々あったでしょう!!

ゼリィ

まぁまぁ

パッフ

――

ゼリィ

そう睨むな。
そう凄むな。

ソートク

パッフ、他の女性たちはどうした?

パッフ

そ、そうでした……

パッフ

シュー殿が、一足先にタニリタまで送っています

パッフ

幸い、盗賊団が使っていた馬車がありましたので

ソートク

そうか。
なら俺たちも急ぐとしよう

ソートク

頭目の首を討ちとっていないからな……。
まだ壊滅したとは言えない。

パッフ

頭目がいなかった……?

ゼリィ

みてぇだな

ソートク

だが、まずは良しとしよう。

ゼリィ

とりあえず、馬を隠した場所に行くか

ゼリィ

アイツも驚くだろうぜ

パッフ

ゼリィ殿……。
それが……。
















ゼリィ

そっか……行方不明か……

パッフ

ええ。
馬はこうして全匹無事だったのですが……

ソートク

血痕だけがあったと……?

パッフ

はい……。
盗賊団に見つかってしまったのか……。
あの方はもう……

ゼリィ

姫さんの前だ。
それ以上は言うな

パッフ

失礼を――

いえ……。

その兵士だけではないのですから……。私のせいで亡くなったのは……

く……

ゼリィ

姫さんよ、幸い今は馬上だ。
手綱もオレが握ってる――

ゼリィ

多少の涙は、風が拭う。
今は存分に泣きなよ

ゼリィ

しかし、次に国民に顔を見せるときは、毅然とした態度で元気を装いな

ゼリィ

身体は無事。心の傷も無し。そんな姫さんの姿が死んでいった者たちへの手向けになるだろうよ

……え、、えぇ

う、うぁ――

少女のむせび泣く声が馬の蹄の音と重なって、やがて霧散していく。


ゼリィは馬の手綱の操作に夢中になることでそれを聞かないことにした。

恐らく、ソートクもパッフもそうだろう。

流す涙が涸れるまで、三人は沈黙を守り続けた。


その沈黙の最中、ゼリィは思案する。

ゼリィ

頭目の不在……。
あり得ない魔物の往来……

ゼリィ

こりゃあ、まだ終わりそうもねぇな……

ゼリィ

しかし……




国王軍・兵士

あ、あんた……後生だ……。
か、彼女に……愛してくれと、伝えてくれ……

ゼリィ

自分で言え。
三日後には治る傷だろそれ。











ゼリィ

アイツ、彼女に言えたのかな……?

ゼリィ

くそ……

ゼリィ

クッッソたれ!!

――……

27、 ゼリィ 必殺技で洞窟を潰す

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