姐さんたち無事だと良いけどなぁ……
に、逃げろぉ!!
い、異議はねぇ!
む?
アイツら盗賊団!?
盗賊団が逃げてるってことは――
姐さんたち上手くやってるってことじゃねぇか!!
へへっ、こりゃあ俺も逃げる盗賊団を討てば――
……
武器持って無かったんだっけか俺……
あんな奴ら、魔物に任せときゃいいんだ!
そうだそうだ。
俺達がわざわざ殺される必要なんてないぜ
魔物……?
ちっ、こんな時に頭目はどこ行ったんだ……?
いや、逆にいない方がありがてぇ。
さっさとズラかろう!!
は?
魔物……?
それに、頭目がいないって……
どういうこっちゃ?
君は知らなくていい
え?
兵士ちょ――
―盗賊団のアジト―
盗賊団が流す血の量が増え、辺りに血の臭いが充満してきた。
乱雑な配置の松明は倒れるなどして更に乱れて、通路を暗闇とさせている。
しかし、どんなにアジトが血なまぐさくても、暗闇に包まれていても、ソートクが足を止める理由にはならなかった。
姫はこの通路の四番目か!?
ひっ!
ソートクの足は疾い。
急な少数精鋭での襲撃に壊滅状態にされ戦意を失った盗賊団が止められるものではなかった。
どけ!
貴様らにもはや用などない!
戦意を失ったとはいえ悪逆非道を重ねた盗賊団だ
許し、見逃す理由などない。
本来ならば斬り捨てるか、捕縛するべき相手だ。
しかし、今回の作戦は盗賊団の殲滅ではない。
結果的にそれに近い形になってはいるが、囚われた姫の救出が第一優先だ。
盗賊団は姫が持つ人質としての力を知っている。
逃げられたりしたら厄介だ。
姫を連れて逃走でもされたら、盗賊団はいくらでも再起を図るだろう。
だから、なんとしてでも姫が囚われている部屋に行かねばならない。
ここを死に場所にする気が無いなら剣を捨て失せろ!!
ひいい!
その言葉通りに盗賊団は武器を投げ捨て逃げていく。
腰を抜かし、だらしなく生にすがろうとする者達を見ることもない。
これで三つ目の扉を過ぎた!
メイドが言っていたのは次の扉か!
なに!?
まだ抗う者がいたか!?
グヘヘ、させるかよ
……
死ね小僧!!
包帯……。
怪我人か?
手負いだろうと容赦はしない!!
ぐわぁ……!!
何だ魔物か……
魔物だろうと関係なし!
行く手を阻むものは斬る!!
少しは疑問に思えよ……
おお、ヴァルキリー
魔物がなぜこんなところにいるのか……。
不思議に思わねぇのか?
『深緑の大地』なのに、こうも魔物と出会うなんておかしいだろ?
おかしいとは思うが、今すぐ導ける問いでもあるまい。
答えが出るまでに時間を要する疑問を解くのは、俺のガラではない――
ならば進むのみよ!
まぁ確かに、無心に美少女を求めるのが、アンタのガラか……
オレもどちらかってぇと、すげぇそっちよりだぜ
だから魔物共はオレに任せな
美少女はお前さんに任すぜソートク!
承知だ
行かすか!
追わすか!
ちっ……
ソートクを追いながら捌けるほど、オレの斧は優しくねぇぞ?
人間の盗賊団に魔物が関与?
深緑の大地にいるのに、魔物見ても久しぶりと思えねぇのは初めてだぜ……
お前らどうやってこの地に来た?
げっへへへ
あー、やっぱ魔界語じゃねぇと通じねぇか……
Դուք պետք 言ってる է, թե է !!
シューがいねぇと何言ってかもほとんどわかんねーなぁ……
ま、いいか……
どうせその口には用がねぇんだ!!
行くぜぇ!!
姫!
皇女殿下!!
美少女!!
なんと呼べばいいのかわからんが、返事をしろ!!
こっちだぜぇ!英雄さんよぉ!
似てもいない声色で姫を汚すな!!
謀ろうとするな!
貴様ら相手に惑うほど愚かでない!
ぎゃああ!
一掃したか!?
ん?あれは……
う、うう……
あの美しさ、姫に違いない!
ご無事か!?
は、はい……
急いで逃げましょう!
は、はい……
!?
あ、あ……
背後か!?
くっ!?
がっ……
防いだのに、吹き飛ばされるとは……
ゴーレム系か!?
こ、この魔物が、ここの番人です!?
なるほど……
頭目は留守なのか……
ちっ……長い腕だ!
ゴーレムの長い腕による攻撃は単純だ。
腕を振り下ろし、敵を砕こうとするだけである。
しかし、巨大な腕は魔界の石で出来ている。
これを喰らえばひとたまりもない。
後ろには姫もいる。
ならば、短期決戦――
悪いが、お前の距離には付き合えんぞ!
そう叫んでソートクは一歩前に出る。
投げ出すような前進だ。
傍からには倒れたようにも見えるだろう。
そのくらいの低姿勢でソートクは飛び出た。
はっ――
繰り出されるゴーレムの腕。
対してソートクは右足に全体重をかけて、地面を踏む。
全力の急ブレーキだ。
ソートクの動きは連続する。
今度は引きつけた左足で一気に大地を踏みつける。
地と足がぶつかり合うタイミングで体を伸ばす。
真上への跳躍だ。
瞬きの合間に眼前で迫る腕を、そのジャンプをもって回避する。
そしたジャンプの着地先に繰り出されたゴーレムの腕を選んだ。
土足だが許せ!
ソートクはゴーレムの上を駆ける。
不安定な足場だ。
だから、間を置かず駆けた。
一歩で拳から二の腕へ。
二歩で二の腕から肩へ。
三歩で肩から頭部へと。
貫く――!!
頭部を蹴り、真上とその身を投げ出したソートク。
そのまま手にした剣を手の平で転がすように逆手に持ちかえる。
左手で柄頭を包むように掴んだ。
狙うは頭部――
ゴーレムの頭部とソートクの剣が近づく。
ゴーレムは魔界の石を積み重ねて出来上がった魔物だ。
石に刃は届きにくいが、石と石の境目は脆い。
そしてソートクはその境目を既に見つけていた。
境目に吸い込まれるように刃が食い込む。
その瞬間に柄頭を握る腕に力を込め、剣に重力を加えた。
頭を抉って、死と成せ!
人語はもちろん魔界語も離せないゴーレムだが、発声器官はある。
痛覚もあるのか、そこから濁った叫び声が聞こえる。
ぐあ……!
もがくゴーレムが振り回した腕に直撃し、ゴーレムの頭部から弾き飛ばされるソートク。
身を丸めて受け身として、転がる勢いを制して立ち上がる。
剣は握ったままだ。
構えるソートク。
しかし、相手となるゴーレムの動きは次第に鈍くなり、やがて倒れた。
白炎に包まれないが、脳天を刺し貫いたのだ。
起き上がるまで時間はかかるだろう。
下がれ外道。
姫殿下の前であるぞ
す、すごい……
まだいるか……
姫、逃げましょう!
で、でもこの数……。
いくらゴーレムを退けたらといっても――
案じられるな姫
……え?
我が武のみなもとは、美少女と共にあること……
はあ……?
傍らにいる美少女が傾国の美少女となればより励むものです
そ、そうなんですね……
願わくば、俺の旅にご同伴を――
む、無理です……
じ、実にご英断の速きこと……
「嫌です」でないだけマシだろう
ならば、しばしの間だけお願いがございます
くらえぇ!!
我が武に命を預けられよ
御手を失礼いたします!
きゃっ
敵は貴女の想像以上に手強い――
ですが、この身も貴女の推し量る程弱くはございません
げぇ……!!
駆けます!!
活路は俺が切り開くので、姫は足元にだけお気を付けを!!
は、はい!!
美少女たる姫の温かき手を握りソートクは走る。
その手を離さないように、また恐怖に震える手を安心させるように、握る力は強い。
一秒でも早く、この場から脱することに専念する。
しかし、一抹の不安が、どうしても残ってしまっていた。
頭目は……どこにいる?
――……