モンスターと対峙した僕たち。
まずはミューリエとレインさんがそれぞれ
魔法の準備に入る。
僕は船首の先へ出て、
海の中で動くモンスターに念を送るつもりだ。
モンスターと対峙した僕たち。
まずはミューリエとレインさんがそれぞれ
魔法の準備に入る。
僕は船首の先へ出て、
海の中で動くモンスターに念を送るつもりだ。
僕は前に出る。
シーラとタックはここにいて。
海に落ちないように気をつけてね。
あぁ、分かった。
アレス様もお気をつけて。
海の中ではシップキラーが
素速く動き回っていた。
この大型帆船の半分くらいの大きさで、
機動力は当然ながら
圧倒的にアイツの方が上だ。
船首の先ではバラッタさんが、
自分の身長以上の長さがあるモリを持って
構えていた。
その端には太いロープが繋いであって、
それを多くの船員さんが掴んでいる。
…………。
バラッタさんの横にはレインさんがいて、
万歳するように両腕を上げたまま
魔法の詠唱をしていた。
すると程なく
その上に向けて広げた手のひらの上には
黄色い光の球が1つ生まれ、
それが徐々に大きくなっていく。
そしてそれが今にも破裂しそうなくらいに
膨れあがったところで
腕を振り下げて解き放つ。
ライトニング!
ギャオオオオォン!
魔法はシップキラーに命中した。
それと同時にその周りの海に
小さな稲妻が流れ、
小さな魚たちが水面に浮かんでくる。
あぁ……みんなごめんね……。
へへーん!
ざっとこんなものよっ!
よーしっ!
今のうちに急いで撤退だ!
バラッタさんがそう叫ぶと、
船はすぐにその場から動き出した。
こうして僕が力を使うこともなく、
ピンチを脱し――
ギュワァアアアアァッ!
えっ!?
急いで海へ視線を向けてみると、
シップキラーはまだ動きを止めていなかった。
それどころか、怒り狂って突進してくる。
うわぁっ!
今までの中で一番大きな衝撃!
それが断続的に続く。
つまり何度も
体当たりを仕掛けてきているみたいだ。
でも船体にはミューリエが
防御結界を張ってくれている
はずなんだけど?
それでこれだけの衝撃だとすると、
もし素の状態だったら
船が破壊されていてもおかしくない。
レイン、早くなんとかしろ!
私の防御結界も
そう長くは持たないぞ!
船員さんたちの向こう側から
ミューリエの叫び声が聞こえてくる。
そんなこと言われても、
こんなの想定外よっ!
今の魔法は
電撃系でも高位なのよっ?
あれくらいの大きさがあっても、
気絶させられるくらいの威力は
あるはずなんだからっ!
誰かが防御魔法でも
かけていない限りはねっ!
おいおい、ンなわけがあるかっ!
誰がシップキラーなんかに
防御魔法をかけるってんだっ?
いいえ、
防御魔法の影響ではないわ。
その時、後ろから凛とした声が上がった。
振り向いてみると、
そこにいたのはクレアさんだった。
あのモンスターは何者かによって
操られている。
その影響でリミッターが外れ、
全能力が限界まで
引き上げられているのよ。
なぜそんなことが分かるんです?
あのモンスターの目、
正気じゃない。
それにアイツの周りに潜む
邪悪な気配が感じられない?
えっ?
……っ!?
僕はシップキラーを見つめた。
……うん、確かに何か黒いものが感じ取れる。
これってデリンに感じた気配と同じ感じ。
つまり魔族が
シップキラーを操っているのか?
これは魔族の気配よっ!
もしかしたら
船に魔族が潜んでいて、
そいつが操っているのかも!
レインさんも僕と同じことを
感じ取ったみたい。
そっか、
今まで魔族討伐をしながら旅をしてきたんだ。
邪気を察する能力を
身につけているのかもしれない。
それに彼女も伝説の英雄の末裔なんだもんね。
操っている者を倒さない限り、
モンスターは
限界まで引き上げられた力で
船を襲い続けるでしょう。
選択肢は2つ。
操っているヤツを倒すか、
モンスターそのものを倒すか。
……あぁ、私たちが大人しく
アイツのエサになるって選択肢も
あったわね。
クレアさんは静かに言い放った。
自分の身にも危険が迫っているっていうのに、
すごく落ち着いている。
――それにしても、彼女は何者なんだろう?
操ってるヤツを探す
余裕なんてない。
あたしが電撃系の魔法を連発すれば
済む話よっ!
はぁあああああぁっ!
レインさんは再び魔法を唱えた。
またしても電撃はシップキラーに命中する。
間髪を入れず、
レインさんは同じ魔法の詠唱へ入る。
――うん、
シップキラーの動きは鈍くなっている。
この調子なら切り抜けられそうだ。
……アレス……だったかしら?
あの魔法使いを止めなくていいの?
どういうことです?
休みなく魔法を連発するのって、
術者の命を削るのよ?
しかもあれだけの強力な魔法、
身体にはかなりの負担が
かかるでしょうね。
えっ?
少しはキミも戦ったら?
さっきから見ているだけで、
何もしていないじゃない。
うぐ……。
……さて、邪魔になりそうだから
私は船尾の方へ行くわ。
がんばってね、小さな冒険者さん。
クレアさんは冷たい口調でそう言い残し、
その場から立ち去った。
あ……。
クレアさんが何者なのか、
聞くタイミングを逸してしまった。
――いや、そのことは後回しにしよう。
今はシップキラーをなんとかしないと。
確かにクレアさんの言うように、
僕は何もしていない。
剣も魔法も使えないのが悔しい。
そうなれば、やっぱり僕にできることは……。
はぁっ……はぁっ……
まだまだ……っ!
レインさんは苦しそうな顔をして、
息を切らしていた。
やっぱりクレアさんの言うように、
体に相当な負担がかかっているに違いない。
レインさん!
アレス?
あとは僕に任せてよ。
レインさんは休んでて。
で、でも……。
なんとかやってみる。
僕はレインさんの前に出て、
海の中で暴れ回るシップキラーを見つめた。
――そして大きく深呼吸。
シップキラー、
お願いだから僕の声を聞いて。
キミは誰かに操られている。
このままだと、
キミの体もボロボロになって
死んじゃうよ。
どうか戦わないで。
僕の力を貸してあげる。
だからその呪縛を解き放って。
そして友達になろうっ!!!
僕は強い想いをシップキラーに向けた。
すると次の瞬間――
……っ!?
不意に全身から力が抜けて倒れそうになった。
魂までもが抜けて、
意識も飛びそうになる感じ。
でも意志を強く持ち、既の所で踏みとどまる。
はぁっ……はぁっ……。
息苦しくて、耳には呼吸音が大きく響く。
そして心臓が激しく脈動しているのが
ハッキリ分かる。
なんか視界が暗くなってきて、
周りの音が薄れていく。
――ダメだ、
ここで意識を失うわけにはいかない!
お願いっ!
僕の想い、届いてぇえええぇっ!
あ……
突然、耳に何も聞こえなくなった。
体にも力が入らない。
ただ、バランスを崩して
倒れ込んでいることだけは分かる。
踏ん張ろうとする意思はあっても、
指1本動かせない。
――直後、落下するような浮遊感。
視界には傾いた水平線。
あぁ……そうか……
僕は船から落ちているのか……。
程なく体には衝撃が走り、冷たさに包まれる。
がほっ……ごぼぁ……。
息が……出来ない……。
藻掻くことすらできず……
どんどん水面が遠くなっていく……。
そして黒く巨大な影が近付くのが……
見えて……。
次回へ続く……。