その部屋は随分小さな部屋だった。薄暗い。

 その部屋に随分と不釣り合いな、キングサイズのベッドがおいてある。

 その真ん中に埋もれるようにして、サンザシは眠っていた。白い羽布団を、鳥みたいな彼女がかぶって寝てると思うと、なんだかおかしくて、思わず笑ってしまう。


 ほぼベッドで埋め尽くされた部屋のすみに、小さなランプと一人がけのソファがひっそりと置かれていた。










 静かに腰かけると、そのランプからふわりと光の玉が現れ、壁際においてある本棚を照らした。好きなのを選べ、ということらしい。



 寝ているサンザシに目をやる。すーすーと寝息をかいている。

 ただでさえ小さいのに、その体を守るように小さく丸めている姿は、まるで鳥の雛だ。


 寝ているだけのその姿を見飽きることはなく、じっと彼女を見ていると、光の玉がふわふわと彼女の方へ移動した。
 俺の視線を読み取っての行動かどうかは知らないが、それは要らない気遣いだった。

ばっか……!

 サンザシの顔付近を照らしはじめた光の玉を追い払うために、俺は思わずベッドに手をついた。

 羽布団は思ったよりもふわふわで、俺の手をばふりと受け止めてくれる。その音が大きく、俺はぎょっとした。


 サンザシは起きてないか。


 目をやると、サンザシがうっすらと目を開けて、こちらを見ていた。

ごめ……起こして

 と、いうか。


 俺はベッドから手を引っ込める。寝起きのサンザシは、首をかしげてこちらを凝視している。

 違う、違うんだ。

違うよ、サンザシ、そっちに光の玉が行って、起こすかなって思って俺、追い払おうとしたら思いの外大きな音がして、それで

 慌てる俺をよそに、サンザシは小さく微笑んだ。


 その微笑みは、今まで見たどんな笑顔よりも優しくて、俺は言葉を失ってしまった。

崇様

 サンザシが、細くて小さな手を、ゆっくりと俺の方に伸ばしてきた。

 その指先が、俺の手に触れる。

姿が違うということは……あの物語も、筋道通りにいかせることができたのですね

うん。だから、大丈夫だよ

邪魔をしてしまい……

 言いかけた言葉を、俺の言葉を被せることで封じる。

いいんだ。いいんだよ、サンザシ

 サンザシは、細めていた目を、ますます細めて、ふふ、と笑った。

サンザシは……幸せ者ですね

 そして、すっと目を細めて……すーすーと……寝たぞ、この子。

………………こら

 無防備にもほどがあるだろ。


 ゆっくりと手を離そうとしたが、サンザシさん、赤ん坊のようにぎゅっと俺の手を握ったままだ。

 こらこらこら。

……俺も寝るしかないな

 幸い、広いベッドだ。もうやけだ、やけ。

 ごそごそと軽くて暖かい羽毛布団の中に入る。


 そのまま目をつむると、あっという間に眠りに落ちていった。どうやら、相当疲れていたようだ。

3.5 知らない彼女と物語のこと(5)

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