こんなプログラムがあるのなら、もうそれはプログラム以上のなにかだろうと思いつつ、こんどは俺が苦笑する。

 さきほど、機械と話していると思ったのを見透かされたようでもあった。それはあくまで、例え話だ。

いえ、生命体だと思ってますよ

じゃあ、この世界は? ゲームっていったら、プログラムって相場が決まってない?

 セイさんが、にやにやと意地悪く笑う。

 この人はいつでも、人を困らせるようなことを言って楽しんでいるのかもしれない。

ゲームって、別に、プログラム以外も使うじゃないですか。

恋愛はゲームだとか、そういった類いの

なるほど、たしかに

……正直、今起こってることは、ゲームなんて可愛らしいものじゃないんだろうなって思ってます。

もしくは、それほどまでのゲームなのか……後者だったら、ゲームをクリアしたあとに、作者に手紙でも書きますよ。

とてもリアルで、はらはらして、最高だったって

気になる? 教えないよ

いいですよ。

サンザシに訊きまくることも、セイさんを探るのもやめました

あ、そうなの?

 少しつまらなさそうなセイさんに、俺はあきれる。
 
 この人、人が困るところを見るのが、きっと趣味なんだろうな。

だって、今回みたいに、イベントっていうか……俺がゲームをクリアするごとに、新しいことをセイさんはちゃんと教えてくれる。

だから、俺は焦らないことに決めました。

焦ったら、なんか……悪い方向に進みそうで

例えばどんな?

言わなくてもわかるくせに

 はは、とセイさんは乾いた笑い声をあげる。

 俺から視線をそらし、部屋の扉――サンザシが眠る部屋の方を向く。

彼女が、傷つくから、かな

はい。あの子は、いい子です。

俺、このゲームにはまってるのかも。

彼女といろんな世界に行って、いろいろ解決するのも、悪くないって。

記憶のことも、セイさんが隠していることも、いつかわかるのなら、急がないで、彼女と一緒にいるのもいいなって

それって何? 恋? ラブなの?

急にテンションあげるのやめてください

やだー恋ばなっていいよねー僕大好きー! 

恋の気持ちが確信に変わったらさあ、教えてよー邪魔するから!

最悪じゃないですか!

まじめに話しすぎたよね。疲れた。

サンザシちゃん起こしに行こうか

寝かせておいてあげてくださいってば

そう。んじゃ、僕はこのへんで。

いろいろお仕事が残ってるもんでね

 ばーいばーい、と手を降って、音もたてずにセイさんは消えた。


 なんだか、いろいろなことを話されて、正直頭のなかはぐちゃぐちゃだ。

 マイナスやら、すくってるやら、魔王やら、なにやら。セイさん風に言うならば、伏線貼りすぎだ。


 でもまあいい。とりあえずは、次の物語の修復だ。いや、その前に、サンザシの体調回復だ。

 深い茶色の扉を開けようとして、ふと、魔法を発したときの彼女の表情を思い出す。



 今にも泣きそうな――勘弁してほしい――そして、後悔にまみれたような表情。

……サポート役、降りるなんていわねえよな

 そうしたら、全力で止めようと誓い、俺はそっと、扉を押した。
 彼女なしの旅は、つまらないだろうから。

3.5 知らない彼女と物語のこと(4)

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