破損しかけている物語! こんどは俺が目を丸くする番だった。そんな物語があったなんて。
破損しかけている物語! こんどは俺が目を丸くする番だった。そんな物語があったなんて。
だから、君も知らなかったろ。
でも、魔法使いのその子は、知っているといった。それは、その物語が、まだ完全には消滅していない証拠だ。
そこまで残ってるとは思わなかった、嬉しい誤算だよ
その物語の内容を、訊くことは……
僕の口からは言えない。
まだ、そのタイミングじゃないんだよね
なるほど……
随分ものわかりがよくなったねえ!
……ごめん、そんな睨み付けなくても。たまに明るくしとかないと、僕も苦しくなっちゃうんだよ。
まあ、もしかしたらいつか、その物語を修復してもらうことになるかもしれない。
それは、君のレベルが上がったら。
魔王の物語は、このゲームのボス、っていうか裏ボスだとでも考えておいてくれるとありがたい
なるほど……俺は、その物語について詮索しない方がいいんですかね?
禁止されると余計に気になるものだけど、と思いつつ訊いてみると、セイさんはいや、と首を横に降った。
それはむしろ、頼もうと思ってたんだ。
一生懸命聞き出さなくてもいい。いや、聞き出さないでほしい。
今回みたいに、何かの拍子にちらっと聞いてみてほしい。
それで、どれほどまでに覚えられているかを確認してほしいんだ。
場合によっては、君はひとつの物語を救う英雄になるかもね
今も救ってますけど
まあね、でも、今は正しく言うとすくってる……金魚すくいの、すくう方。抽出、といってもいいかもね。
いつか話したことがあると思うけど、物語の部分を抽出しているのが、今の段階。
魔王の物語の場合は、世界そのものが壊れてるんだ。
抽出も何もあったもんじゃない……そうだな、パズルのピースがないような
なんだかものすごく複雑なことになってきたような気がする。ふんふん、とおとなしく頷く。
セイさんは、分かりやすい言葉を選んでくれているようで、ゆっくりと説明を続けてくれた。
世界がおかしくなるのと、世界が壊れるのって、随分違う。
後者は、ゼロになっちゃうんだ。
1になってしまったものを2や3に戻すのももちろん大変だけどね、できることはできる。
でも、0になっちゃ、どうしようもないんだ
要するに、無から有は作り出せないということだろう。
魔王の物語は、限りなく0に近いんですね
……いや
セイさんは、うーんと首をかしげる。
どっちかっていうと、マイナスなんだよね……イレギュラーなんだよ
なんだそれは。
どういうことですか?
僕にとって、今回その魔法使いちゃんがここまで魔王の物語を覚えていたのは、予想外のことだった。
つまり僕の予想を上回る、膨大な量の魔力が関係している。
僕は今まで、プラス側の対処しかしたことがないんだよ。
こんな状況、どうすればいいのか正直分からないことも多くてね。だから、マイナス
……よく分からないですけど、セイさんも苦労なさってるんですね
はは、とセイさんは苦笑する。
そうなの、俺、苦労してるの。
だから、今回サポートしてくれて助かってるよ。ありがとうね。
物語を推理して、筋道通りにするだけでも大変だろうに、追加のお願いまでしちゃって、悪いね
いえいえ。
今回は、ゲームが進むにつれて、新たなミッションが追加された。
そういう展開なんだなって思ってます
もし僕がゲームキャラだとしたら、それってとんでもないメタ発言だよね
最初からメタ発言しまくってるキャラクターが、今さら何をいっているんですか
俺のこと、プログラムかなにかだって思う?