中はカビ臭く、物が散乱し、ヒドイ有様だ。

壁中にスプレーで落書きがされている。

ガラスの破片や朽ちた木なんかも落ちていて、靴を脱ぐ気には到底なれなかった。
 

ふと、玄関の横に飾られた絵が視界に入る。

この絵……

恐らく女性が描かれている。


私がもっとよく見ようとすると……

 だ、ダメだよっ!!

突然、ヒロが怒鳴り声をあげた。

ご、ごめん……
その絵とは絶対に視線を合わせてはいけないって……

それも例の【約束】かしら?

そう……

私は怖くなって、思わず視線を絵から背けた。



何故だかそれから、ずっと絵に私たちは見つめられている気がした。


……と、ほぼ同時に私のスマホが振動し




新たなメッセージが届いた。

廊下のつきあたりの扉を開け
その中で 鍵を探せ

廊下のつきあたりの扉を開けて
鍵を探せ、だって……

鍵? 鍵ってなんの鍵?

さぁ……?

きっと、何かに必要なんじゃない?

廊下を進むと、確かに奥には扉があった。

あ、開けるよ

ドアノブに手をかける

鍵はかかっていないみたいだ。


ギーっ……という嫌な音が辺りに響く

また扉……
今度はふたつあるよ?

懐中電灯で照らされた中には

左右に分かれた二つの扉があった。

ひとつはヒビが入っている刷りガラスの扉
多分、お風呂場だろう。

もうひとつは、木製の扉。

外れかけたプレートには
『TOILET』と書かている。

二手に別れて探しましよう

私とマリエは浴室

サヤカとヒロはトイレを探す事となった。

きゃっ! もうどこ触ってんのよっ!

いっ! 
いや、よく見えないんだって!

そんなサヤカとヒロの声が
トイレの方から聞こえて来る。

なんだかあっちは楽しそうね……

ふふっ

浴室はところどころ壁がヒビ割れ、カビの臭いが充満している。

けれど、それ以外は特に変わった感じはしない。

そういえば……仲直りしたの?

マリエからの突然の問いに、私は少し困った。

……してない……

……だと思った

弟のユウがいなくなる1週間程前。

私は些細な事でケンカしていた……

ちゃんと謝らないといけないと思っていた時


弟は消えてしまった。

じゃあ、もしかしたらこれは
ユウ君がケンカの腹いせにしている
可能性もあるかもしれないわね

それなら、いいんだけど……

私達は鍵の探索を続けた。

懐中電灯を持ってはいるが、薄暗い中で小さな鍵を探すのは至難の技だ。

排水溝を開け、付近を見回すがそれらしいものは
見つからない。

下には落ちてないみたいね、あとは……

私たちが、まだ探していない場所……。

蓋が閉まった浴槽をマリエと見つめた。

出来ればコレはあまり開けたくない

だが、そんな事も言ってはいられない。

開けるわよ?

マリエが浴槽の蓋を持ちあげた。

中には…………

……っ!? なにこれ……

髪……


私は思わずその異様な光景に、目を疑った。

浴槽の中には、おそらく人毛であろう人の髪の毛が溢れんばかりに入っていたのだ!

……この中から探せっていうの

ビッシリと詰まった黒い髪。

そこに手を入れるのはかなりの勇気がいる。

でも、鍵を探さなければこの先に進む事は恐らく出来ない。


意を決して私は浴槽の前にひざまずき、髪の中に手を入れた。

やるしかないようね……

横で見ていたマリエも私の隣にしゃがみ込むと、同じ様に髪に手を突っ込んだ。

指先に絡みつく髪の感触はなんとも気持ちが悪く、早く手を抜きたくて私は懸命に鍵を手探りでさがした。

あれ? もしかしてコレ?

私の指に何か固い感触のモノが触れる。

…………んっ? なに……っ?

コレ……

懐中電灯で照らした私の手が持っていたのは……




赤く血に染まった人の指先だった。

あっ……あぁっ……

あまりの事に声が出せない。

思わず私はソレを放り出した。

 ……もしかして…………
ココに入っているのって、鍵だけじゃない……の……?

そのようね……

なんとも言えない恐怖が、私の体を支配する。



でも、鍵を探さないと弟は帰って来ない気がしてならない。

ねぇ……あれは何かしら……?

私の放り出した指先は、排水溝の方へと転がっていた。
 


マリエが指さすその辺りをよく見ると──


何か、白いものが沢山落ちている。

これ……歯じゃないかしら? 人の……

マリエが一つそれをつまみあげて見せた。



確かによく見るとそれは、人間の歯だ!

僅かに歯肉がついているモノも見える。

一体、誰の!? さっきの指もこの歯も……

私の中に嫌な予感が過ぎる……。

ま、まさかっ!?

欲槽の中の黒い髪を無我夢中でかき分けた。





すると──

指先に……


固く何か器のような形状のものが触れる。



持ち上げてみると……。

そっ、それ……!!

それは、顎から下の無い人間の顔だった。











思わず手を離すが、私はその顔に見覚えがあった。

これ、肝試しに一緒に行った弟の友達よ! 

前に一度ウチに遊びに来た事があるから間違いないわ!

一体、誰にこんなことを……

わからない……
でも、早くしないと弟もこうなるかもしれない!

私は今一度、髪風呂の中へと手を深く入れ探った。そして、なんとか小さな固いモノが手に触れた。

鍵だ……


    それは小さな、錆びた鍵だった。

ねぇ、叫び声が聞こえた気がしたけど
大丈夫?

…………ひっ!!

なっ!? 
なんだよそれ?

私達の悲鳴を聞きつけて来たサヤカとヒロは
浴室に散らばる人のものらしい残骸に、怯えていた。


    その時、またスマホが振動した。


2階へ行け

 次は二階に行けって……

ね、ねぇ、それで鍵はみつかったの?

今、見つけたところ

……そのメッセージ……

マリエが何か考え込む様にポソリと言った。

なんだかタイミングよすぎない?

タイミング……?

玄関の前に着いた時といい、家の中に入った時といい、今度は鍵を見つけた途端……

誰かに見られている……とか?

サヤカが怯えながら辺りを見回す。

私もつられて確認したが
監視カメラの様なモノも見あたらない。

もし、見られていたとしても……

人間じゃないのかもね……

えっ?ま、まさか、それって……!?

ともかく、行くしかない……

私はこの時

何故だか、どうしても行かなければならない
という気持ちに突き動かされていた。

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