私が死人が出て動揺する彼らをぎこちなく何とかまとめあげた。
これは本来、速水の役目な気がするのだが……。
私が死人が出て動揺する彼らをぎこちなく何とかまとめあげた。
これは本来、速水の役目な気がするのだが……。
速水、あとは任せるよ?
私がそう言うと、だいぶ落ち着いた速水が任せてと言った。
住吉、わざわざごめんなさい……
あなたが最初に死ぬかもしれなかったっていうのに自分のことばかり……
いいよ
私も頭が冷えた
自棄にならないで、冷静に進んでいく
……他の人と合わせていくよ
私が穏やかな顔でそう言うと、彼らは目を丸くした。
昨日と真逆のことを言い出したのだから当然だろう。
私は、ちゃんと理由を説明する。
一つ分かったんだよね
自分が馬鹿なことを言えば言うだけ疑われる
当たり前な話でさ、誰かを排除するって言う奴ほど狙われるんだよね、危ないから
この言葉のとおりだ。
初日に目立ちすぎた結果、私は死にかけた。
それで死ねればそれで良かったのだが、無様に生き残ってしまった。
なら、主張も方向転換を余儀なくされた。
あんなことがあった手前、それでも孤立を選べば主張と食い違う。
生きたいのなら、安全な方を選ぶべきなのだ。
狼だろうが、村人だろうが、死にたくない
それは、同じなんだから
踏み躙る覚悟をみんなできたは知らない
私は……口でどう言おうが何もできないから
協調して生き残ることにしただけだよ
――意図的だ。
さり気無く、でも意図的に『何もできない』という言葉を付け加えた。
この意味は、自分は無力だということを思い知らされたというニュアンスである。
だから誰かと共にいくしかない、と。
数名、ぴくりと眉を動かした。
私を見る目が変わった。きっと、それはいい意味だ。
嘘だと思われるリスクを減らすため、わざと今の状況を使う。
常に客観的に見れば、多少は盛り上がりに貢献できるだろう。
……そう
速水は私の言葉に異議を唱えず、それだけ言った。
以後は、何か持ってきたのであろう、メモを取り出して机において何かを書き始めた。
取り敢えず、私の潔白は証明されたかな?
私は、狼じゃない
私がそういうと、意外な人が声を上げた。
……えっ?
確か、彼女は小田海音。
そして――私だけが知っている情報。
残る三人のうち、10番の狼。
気の弱そうな言動だが、昨晩私をまっさきに殺そうと言い出したのは彼女だ。
話している最中もオドオドしていたが腹黒なのは間違いない。
あたし、人狼ゲームってよくわからないんですけど……どうして、住吉さんは、狼じゃないんですか?
成程、ずぶの素人だと最初に言ってから、私を釣り上げる方向を作りたいらしい。それなら違和感は少ないだろう。
疑問というカタチで一手をうってくる。
別におかしな話じゃないわ
狼は狼を襲えない
……いいえ、正確に言うなら襲わないわ
普通はね
票が割ると襲撃が失敗するうえ、たとえ仲間にいれられたとしても、そんな自作自演しても初夜ではリスクの方が遥かに大きい
速水の言うとおり、狼は狼を襲えない。普通は。
票を入れることはできるらしい。
説明にはないが、きっとそうだ。
狼は互いを認識できる。
前提として入れる理由がない。
余程折り合いが悪いとか、不協和音になってしまうなら、狼が狼を殺す可能性はあるが……。
ゲームマスターは、全てのルールを明かしたわけではないようよ?
理屈的だけど、あいつは狼が狼に票を入れることができないとは、一言も言っていない
つまりは速水の説が正しいとしたらだよ?
内部分裂した場合は処理できるってこと
邪魔な異分子を自らの意思で
その可能性があるから取り敢えず、なのよ
それでも私を疑うなら、別にいいよ
私には、言葉で言う以外には方法がない
私がそう言うと、小田は渋々ながら、納得した様子になる。
周りが私と速水の説を納得するからだろう。
一人だけ異論を唱えれば、直ぐ様この状況では追放されるだろうから。
それだけじゃないわ
住吉は、かなりの可能性を一晩で使い切った
……だろうね
住吉は少なくても狩人でも村長ではないし、暫定ではあるけど狼でもない
……現段階では、一番疑わなくていい存在になったわ
今はまだ初日だよ
悪いけど、私は何の役職かをバラすつもりはない
そうは言うが、私は先ほど村人を臭わせる発言をしている。
このゲームで本当に無力なのは、村人だけだ。
あとは何かしらの力がある。
勘づいていたとしてもこのゲームに慣れていない連中は、言葉に誘導されて私を村人だと思うだろう。
そう、住吉の判断は妥当なところね
戦況は極めて村人側が不利……
一晩で、要の探偵を半滅させられた
挙句、特殊ルールのおかげで探偵は名乗り出ることも出来ない
はぁ……まさか初日で狼にリーチがかかるなんてね……
戦況をよくわかってなかった連中は、溜息をついて項垂れる速水の言葉に、絶望的な状況だと漸く分かったらしい。青ざめていく。
私はついでにそれに拍車を掛けた。
それに加えて、ルール違反で確実に死ぬってことも証明された
監視もされているだろうし、村人にはお手上げの状態だよね……
ルール違反のことも言えば、無理なこともできなくなる。
ゲームの運行を妨げる事はルール違反だ。つまり、殺される。
これで安易な希望も奪った。
ふむ……ならばいっそ、探偵を見つけ出して追放しますか?
木島平が思いついたように言った。言うと思ったよ誰かが。
残り一人の探偵を見つけて殺せばそれでゲームはクリア。
特殊ルールで終了となる。
現状況が極めて絶望的だということは、理解しました
ならば最大限の人を生かしつつ、終わらせるにはもう一人、生贄が必要だということになりますね
それができれば苦労しないわよ
素直に名乗り出ると思う?
自分が死ぬと分かっていて他人の為に?
ですから、そこはなんとかして……
尚も探偵探し出しを推奨する木島平。
まあ、わかるよ。その気持ち。
今はそうすることで早く脱出できるなら、安易な選択をすることも。
でも、私がそうさせない。
木島平、だからさ
監視されているのだから、無理な行動はできないよ
自主的もダメ、強引な事だと自分が死ぬ、八方塞がりだってば
二人がそういうと説得力がありますね……
自己犠牲馬鹿でもない限りは絶対無理だよ
……良い案なのはわかるけど
多分それは最後まで使えない
残念だけどね……
木島平の案は、現実的じゃないわ
それはもう、理想なのよ
何となくゲームの流れを理解している私と速水。
黒陣営が場を支配しているのはなんとも皮肉。
しかも私達は初夜に人を殺した張本人である。
そんな私たちが、途方に暮れている。
通夜のような空気がたまり始めた。
……
文月は不貞腐れた顔で、ずっと黙っている。
いきなり手詰まりか……痛いなこれは……
これ以上、誰も死んで欲しくないのに……
能天気二人組も悲痛な面持ちで、苦しんでいる。
どうしよう……
小田はただ困惑している、フリをしている。
あいつはきっと内面笑っているに違いない。
俺達はどうするべきだ?
速水、住吉?
何人死のうと関係ありませんが、次の一手ぐらいは決めておきたいですね
お前はまだ……ッ!
不動と木島平がまた揉める。
その間に、私と速水が仲裁した。
やめなさいよ
だからもめても仕方ないでしょ
……不動……?
怖い声色で不動を牽制する速水。
何だろうこの極道みたいな感じ。
あ、いや、何でもない……
途端にビビる不動。
うん、正直速水は怖すぎる。
私達はこれからどうするか、決めかけていた……。