私は、後列二人の死を確認して、部屋に戻った。
そのまま、適当に朝食をとって、何となく談話室と仮定した部屋に道なりに向かい、入った。
やることがなかったこともあるし、初夜で最低二人が死んでいるのは事実。
ルール上、ここに集まるのは昼だが、私は午前の時点でもう訪れていた。
どうせそのうちに人も来るだろう。
ソファーに座って、持参したコーヒーのペットボトルをあおりながら考える。

現状を整理してみよう。
まず、初夜で狼に狙われたのは私。
18番が襲われ、でも現に私は生きている。
ということは、まず私は狼ではないということが証明された。
狼が狼を襲うことは不可能であるハズだ。
そして同時に私が狩人、あるいはストーカーでないことも証明された。
よく考えれば、私を守ったのはもしかしたらストーカーかもしれない。
もしも、私を生かしておいて価値を見出すのはストーカーぐらいなもんだ。
全ては憶測の域だが……。
で、私が予想した7、11、20のうち二人は違っていた。
11は内通者、20は死亡して村人であることを証明されている。
あっているかも分からない7も守られて生きている可能性もある。
私――殺人犯の天敵である警備兵によって。
私が投票したとて、確実に死ぬとは限らないのだ。
同時に今日明かされるであろう役職は、粛清された探偵と狼、そして村長。
速水の13番があの文月という女を狙った。
そしてあいつは20にすり替えた。
この時点であいつの番号――15は村長であるとすぐにバレる。

今日だけで、かなりの役職が明かされるだろう。
少なくても、面倒な奴が一人自滅してくれた。
すり替えを行えば、絶対にそいつは村長だ。
そして20は村長のせいで死んだのもあの惨事を見ればわかる。
速水に感謝せねば。

これで役職を除いて残りの村人は5、狼は3。
勝敗に関係ある探偵は2、ということに……。
その時だった。乱暴に、部屋のドアが開いた。

真澄

んっ?

優作

だ、誰かいるかっ!?

飛び込んできたのは……門崎だった。
彼は私を見かけると、掴みかかるように迫ってきた。

優作

あっと、確か住吉だな
お前は無事だったか!?

真澄

えっ……
何が……?

優作

く、黒沢が部屋で死んでるッ!!

ほうける私に、門崎はそう言って身振り手振りで必死に状況を説明しようとする。
どうやら私が事態について行けずにほうけていると思ったらしい。
私はほうけたのは何を当たり前の事で慌てているのか、という意味だったが……。
黒沢というのは7番だったはずだ。
私の襲撃成功。奴は死亡したらしい。

私は青くなっている門崎に、追加の情報を与えることにした。

真澄

門崎……だっけ?
7だけじゃないと思う

優作

なにっ!?
他にも開いていたドアがあったのか!?

真澄

ええ
私より後ろの二人の部屋よ
ドアが不自然に開いていた
私は中、見ていないけど

しれっと嘘をつく。
中身はB級スプラッタそのままな室内。
奴ら、どんな顔をするだろうか。
不謹慎ながら、楽しみだった。
これは人を殺すゲームなのに、未だに現実に対応できていないバカがあわてふためくのを見るのは、こんなに愉快だったのだろうか。
私の知らない愉悦の味だった。

優作

お前よりも後列……!?
まさか、19と20か!!

真澄

その様子じゃ、何があったかは予想できるわ
見に行ってくれば? 
私がここで留守番しておいてあげる

そう言うと、彼は恩に切ると告げて部屋を再び飛び出していった。
数秒後、開けっ放しのドアから誰かの悲鳴が聞こえた。
それだけだった。
私は知っているくせに、一人でコーヒーを呷る。

陰陰滅滅とはこのコトだろうか。
それぞれ、生きていた参加者たち――20人から4人減り、16人全員が朝っぱらからこの部屋に集まった。
後の四人は、部屋で死んでいる。
死体のまま、放置されている。
懐疑的な視線で誰一人声を出さない。
疑っているのだ。この中の誰が殺したか。
直接ではなくても、間接的に人を殺した人殺しを。
疑心暗鬼が目に見えてわかった。
これが現実の人狼ゲーム、デスゲームというやつか。
想像よりも遥かに酷い空気だった。

ゲームマスター

ハロハロー! 
みなさん、おっはようございますー!

ブレスレットから突然、そんな中声が響く。
この加工された声は、ゲームマスターだ。

ゲームマスター

いやぁー驚いたねー
まさか初夜で四人も死ぬなんてねえー
まあ、そのうちの半分は馬鹿だったんでこっちで殺したんだけどねぇ

うわ、神経を逆なでする言葉をはきやがった。
ぶわりと殺気立つ参加者たち。
怒り、憎しみ、恨み――その対象が、ゲームマスターに移った瞬間。
私や速水は数少ない、冷静なタイプだ。
飄々と奴は続ける。

ゲームマスター

ほんじゃみなさん、画面にちゅうもーく
昨晩起きたことをわかりやすく説明するよん

ひとりでに、室内にあった薄型テレビの電源が入る。
明るくなった画面には、上にリザルトと書かれていた。
みれば、私達をそれぞれ模したのだろうか、アニメ風のチビキャラとなった私達がこの室内を背景にした画面に円上に立っている。
その下にはそれぞれの数字が記されていた。
背景が薄闇になり、私達を包み込む。
すると、まず19と4に突然、ブレスレットが光り始め、驚いた表情に変わった二人のキャラは、そのまま血をぶちまけて爆散して死んだ。
上画面には、4と19はルール違反により拘束具が爆発したと表示されている。
つまりはもう一人のルール違反は4、ということか。
あいつが女の敵の探偵だったらしい。

……

ちらっと横目で見ると、険しい表情で速水が画面を睨みつけていた。
それはゲームマスターに対する感情ではなく、どっちかって言うと現状把握のための態度であろう。

続きだ。
今度は私こと、18のキャラの上から狼らしきシルエットが突然振ってきた。
凶暴な爪で私を狙うが、すかさず何処からか弓矢が数本飛んできて落ちてくる狼を掠り、狼らしき影は慌てて闇の中に逃げていく。
私のチビキャラはほっとした表情で胸をなで下ろす。
画面には狼が18を襲撃、然し狩人に阻まれ失敗した、と表示された。
更に続いて15――文月に銃を持ったシルエットが乱射しながら飛び掛る。
だが15の影が一瞬ぶれたかと思ったら、何時の間にか数字が15から20に代わり、20のキャラが蜂の巣にされて殺された。
画面に出たのは、15をテロリストが襲撃、然し15のすり替えによって替え玉の20を襲撃、成功したと出る。
次いで、7番をナイフを持ったシルエットが襲い掛かり、そのまま切り殺した。
殺人犯が7番の襲撃に成功、と画面に出る。
そしてそのまま、画面には四つの死体が転がって朝を迎えた。
結果的に、村人が一人、探偵が二人、狼が一人、死亡と出る。
私が襲撃した7番は読み通り、探偵だった。
……これでハッキリした。

ゲームマスター

これが昨晩起きたことを簡潔に説明ね
これから毎日、こんな感じで夜の出来事を分かりやすく説明するからよろしくねー
そんじゃ、お昼までに追放する相手を決めておいてよー

そう言って、ゲームマスターは早々に切り上げた。
……ルール違反に関しては私に任せるということだろう。
じゃあ、適当に言わせてもらおう。
その前に声を出した人物がいた。

俊介

これで一人目のクソ野郎が浮きましたね
ねぇ?
人殺しの、文月さん?

震える声を出したのは9番――木島平だ。
人殺し、と言われて見れば文月はスマシ顔で言う。

あや

別に……
緊急避難だし

俊介

自分が死にたくないからという勝手な理由で、関係ない20を巻き込んで挙句殺しておいて、何ですかその言い分は!

木島平は噛み付くように文月に怒鳴る。
他の奴らも、黙って文月を睨みつけている。
よし、これで一人目の攻撃対象ができた。
文月あや――奴がこのゲームでの一人目の『悪者』だ。

木島平、言いたいことはわかるけど黙って

俊介

ハァッ!?
こんな時に何を言ってるんですかァッ!?
こいつは昇進勝目、人殺し――

予想通りというかヒスを起こした木島平が喚き散らす。
が、次の瞬間。

――黙れというのが、聞こえないのかしら

俊介

!?

目元に陰りを宿した速水が出した、強烈な寒気に木島平は思わず口を閉じた。
奴だけじゃない。

あや

文月が怯えたような顔をした。
意外にも、恐怖で場を支配したのは、冷静に物事を見る速水だった。

ぎゃあぎゃあ騒ぐしか能のない馬鹿が……
文月を殺せば満足?
こいつを殺せると思ってるの? 
村長の役職は投票を無効化して、身代わりを差し出す限り無敵の役職なのに
――今すぐ頭を冷やなさい
昼間に追い出す相手をあなたにするわよ

真澄

そこまでだよ、速水
殺し屋みたいな声色と雰囲気を引っ込めな
あと空気読みなよ
死人出てるのに意味なく周りを脅すのナシ

底冷えする速水を、嗜めるように私がフォローに走る。
昨日と真逆。私が速水を諌める番だった。

真澄

あんたらもそうよ
死にたくないならまず、落ち着きなよ
私みたいに、狼に狙われたいの?

実際に狼に狙われて死にかけた私が言うと、周りのヒートアップしていた空気が沈静化していく。

チッ……不愉快ね……

真澄

あんたも、いい加減にしなさい
警告は一度だけ
じゃないとあんたを今日の追放相手にするよ

追放相手にするとは要するに殺すぞ、と脅しているのだ。
シンプルながらこの状況では効果的なようだ。

……ごめんなさい
私まで、頭に血がのぼっていたわ

速水は私がそう言うと、大人しくなったように頭を下げた。

真澄

木島平もさ、ちょっと落ち着いて
まぁ喚いてもいいけど、あんたも私みたいになるかもしれないよ?
あのふてぶてしい文月にはなに言ってもダメだろうし
村長は、相手するだけ時間の無駄だって分かりきってるじゃん

俊介

あ、あぁ……
見苦しいところを申し訳ない、住吉さん……

よしっ、五月蝿いのはこれでなだめた。
未だに周りは浮ついた空気になっている。
これで、キメるか。

真澄

取り敢えず、全員深呼吸しとこう
目立つコトすりゃ、狼が狙う可能性だってあるわけだしさ
ほら、目の前に狩人のおかげで生きてはいるけど目立っていきなり死にかけた特大の大馬鹿がいるじゃない
私の後に続かないように、ゆっくりでやっていこ
……ルール違反しないように、ね……

何度も言うが、私は本当に死にかけている。
それをアピールすることで、無意味な言い争いが余計な死人を増やすだけと印象づける。
これで場の掌握には成功した。
ルール違反もダメだと最後に付け加えておけば完璧だ。
これで、いい。
追放する人間を、ちゃんと選定しないといけないのは事実なのだから。

一日目、朝

4番探偵 ルール違反により粛清
7番探偵 殺人犯に襲撃され死亡
19番狼 ルール違反により粛清
20番村人 15番の身代わりにされ死亡
以上、脱落
残り、16名

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