導きの羅針盤を手に入れた僕たちは、
バラッタさんの家に戻った。
すると家にはタックが先に帰ってきていて、
リビングのソファーで寝転んでいた。
ほかに人の気配はないようだ。
――ミューリエはまだ町にいるのかな?
導きの羅針盤を手に入れた僕たちは、
バラッタさんの家に戻った。
すると家にはタックが先に帰ってきていて、
リビングのソファーで寝転んでいた。
ほかに人の気配はないようだ。
――ミューリエはまだ町にいるのかな?
おっ、アレス! おかえり~♪
ただいまー!
タック様もお疲れ様ですっ!
…………。
ん? 一緒にいるお前は……。
タックはレインさんの姿に気付くと、
険しい顔をしてジロジロと観察した。
そっか、
タックはレインさんと初対面だもんね。
説明しないと……。
あっ、タック。この人は――
コイツ、
ルーンの血をひいているな?
えっ? どうしてそれを?
オイラには気配で分かる。
そういえば、
僕と出会った時も
勇者の末裔だって
分かってたもんね?
まぁな~☆
それよりもお前、なぜここにいる?
ちょっと! お前だなんて失礼な!
あたしにはレインっていう
ちゃんとした名前があるんだから!
アンタこそ誰なのよ?
生意気そうな小僧ね!
オイラはタックだい!
生意気そうな小僧とは何だ?
人間のお前なんかより、
めちゃくちゃ年上なんだぞっ?
実年齢よりも
見た目の年齢が大事よ。
私は年相応の17歳、
アンタはそれ以下にしか
見えないわ。
よって小僧に認定して問題なしっ!
くぅうううぅっ!
コイツ、
ミューリエの次にムカツク!
横暴な性格まで
ルーンに似やがって!
タックはルーン様に
会ったことがあるのっ!?
…………。
……あのなぁ、アレス。
何を今さら言ってるんだよぉ?
オイラは勇者の証の1つとして、
伝説の勇者と一緒に旅をしたんだ。
面識があって当然だろ?
あっ! そっか……。
あの頃はオイラも
若かったけどな~☆
たったの100歳くらいだぜぇ?
ウェンディ様は
500歳くらいですね。
そっかぁ、僕たち人間とは
寿命の長さが違うんだもんね……。
……何歳だろうと、
見た目が小僧には変わりないわよ。
さっきから言ってるでしょ?
理解しなさいよ。
頭の中は成長してないの?
っっっっっ!
アレスッ!
すぐにコイツを
外へつまみ出してくれっ!
いや、
そういうわけにはいかないよ。
レインさんは僕たちの旅に
加わりたいらしいんだ。
だからみんなの許可を――
反対ッ! 大反対ッ!!
オイラは絶対に認めないぞっ!!!
長く生きてるわりに
度量が狭いのね。
おいコラぁ!
さっきは小僧がどうとか
言っておいて、
今度は年寄り扱い!
都合良く解釈を変えるなぁっ!
タックは大きく息を切らしながら
レインさんを睨み付けている。
ミューリエの時は
ここまでムキにはなってなかったような……。
つまりよっぽど気が合わないんだろうなぁ。
きゃははははっ!
この子、おっもしろーい!
レインさん、
それくらいにしてあげてよ。
タックが可哀想だよ。
タックもレインさんを認めてあげて。
2人とも、お願い。
僕は2人の顔を交互に見つめ、頭を下げた。
アレス……。
…………。
分かったわよ。
あたしもからかいすぎたわ。
ごめんなさい。
……アレスに頭まで下げられたら、
何も言えなくなっちゃうよ。
レイン、
オイラもムキになりすぎた。
ゴメンよ。
良かった。
仲直りしてくれて嬉しいよ。
……それで話を戻すんだけど、
ルーンの末裔であるレインが
なぜここにいるんだ?
なぜって、
勇者様と出会ったからよ。
実はね――
僕はレインさんと出会った経緯や聞いたことを
全て話した。
それを聞いたタックは
納得したように頷きつつも、
なぜか眉は曇っていた。
……そういうことだったのか。
状況は理解したよ。
それでね、
タックに聞きたいんだけど、
ご先祖様の遺言――
アレス、
それについてはまだ話せない。
タックは僕の言葉を遮って言い放った。
いつになく真剣な表情で、
真っ直ぐにこちらを見つめている。
オイラはその全てを知っている。
でも今はまだ時期じゃない。
アレスはまだ勇者に
なりきれていない。
あくまでも見習いだ。
一人前の勇者になったら話すよ。
つまりそれは、
僕が5つの試練を
全て乗り越えたらってこと?
そうだな。
あるいはそれより前で
オイラが必要だと
判断した時か……。
タックの雰囲気からすると、
これはかなり重要あるいは深刻なことらしい。
わずかに悲しげな感じがするのが
少し気になるけど……。
分かった。
だったらこの件は、
その時まで聞かないことにする。
……ありがとな、アレス。
タックはいつになく安堵したような
表情を浮かべた。
さてっ!
アレスたちが戻ってきたことだし、
オイラは町へ
買い物に行ってくるよ。
バラッタのおっちゃんに
留守番を頼まれてて
出かけられなかったんだ。
…………。
そういえば、
バラッタ様は
どうなさったのですか?
船舶会社のオフィスさ。
おっちゃんが元社長だって
知ってたか?
そうらしいね。
僕もそういう話を町で聞いて、
ビックリしたんだ。
現社長の息子に
『船を出す』って話したら、
大げんかになったんだ。
息子がおっちゃんに
『年寄りの冷や水だ』って言えば、
おっちゃんは息子に
『今の船員どもは肝っ玉が小さい』
って言い返してさ。
売り言葉に買い言葉っ♪
ははは……。
最終的には息子が折れたけどな~。
今は渋々、
出航のための事務作業をしてるよ。
おっちゃんは直属だった船員たちを
船に再招集して、
色々と指示を出してるし。
そうだったんだ……。
そういうわけだから、
ここは頼んだぞ?
分かった。
こうしてタックは町へ出かけていき、
僕たちは留守番をすることとなった。
それからしばらくすると
ミューリエが戻ってきたので、
レインさんを旅に加えてもいいかどうかを
尋ねた。
2人は西方街道で会った時に
少し険悪な雰囲気になったから
心配だったんだけど、
意外にすんなりと認めてくれたのだった。
そして数日後、出航の時を迎える――
船にはほかのお客さんや荷物も
たくさん乗っている。
笑顔の人や泣いている人、
出航の準備で忙しそうな船員さん、
見送りをしないで
甲板に座り込んだままの人など
過ごし方は様々だ。
一方、
船着き場ではみんながこちらへ手を振り、
中には楽器の演奏をしている人もいた。
うわぁっ!
すごい華やかですね?
船に乗る側も見送る側も、
色々な想いを持って
この場にいるんだ。
この光景は何度見ても
胸にグッと来る。
甲板にいる乗客と船着き場で見送る人は
それぞれカラフルな紙テープの端を持ち、
それが無数に連なって船と港とを繋いでいた。
――まるで虹の橋が
架かっているみたいで綺麗だ。
その1本1本は脆く細い紙だけど、
そこに結ばれている縁は
太く強くて切れないものに違いない。
いよいよこの大陸ともお別れだ。
アレス、しっかり目に
焼き付けておくのだぞ?
うんっ!
アレス様!
あそこを見てください!
シーラの指差した先には
古道具屋のおじさんがいた。
笑顔で手を振ってくれている。
その隣には若い船員さんと
酒場のお姉さんもいる。
おーいっ!
ありがとうございましたー!
お世話になりましたぁー!
またねー!
僕たちも笑顔で思いっきり両腕を振り返す!
肩が痛くなるくらい、力の限り振り返すっ!!
しょーねーんっ!
また顔を出しに来いよぉー!
無事な航海をー!
元気でねー!
おーいっ! お~~いっ!!
……あれ?
なんか勝手に涙が溢れてきた。
笑顔でお別れしたいのに……。
でも……いいや……。
いつか再会した時に
とびっきりの笑顔を見せよう!
そのためにも僕は絶対に戻って来なきゃ!!
――ジャーン、ジャーン!
辺りにドラの音が鳴り響いた。
すると船はゆっくりと船着き場を離れていく。
日差しは強いけど、
潮の香りをはらんだ風は涼しくて心地いい。
僕は見送る人の姿が見えなくなるまで、
ずっと甲板で手を振り続けたのだった。
次回へ続く!