第8話「白鳥瑠璃、Lv1です!」






あっ、Pチャン、久しぶりにゃあー

おー、猫宮ー
元気してたかー

ウチは相変わらずにゃ
いつだってニッコニコのルンルンにゃー

そうかそうかー


 美也さんとプロデューサーは仲良しです。

 ふたりはまるで兄妹のように隣同士に座って、
 楽しそうにお喋りをしています。

よーし、猫宮もいることだし、
久々にガチャ回してみっかなー

わーい、Pチャンの、
ちょっといいところ見てみたいにゃー


 手を叩いて喜ぶ美也さん。
 これ以上アイドルが増えて
 喜ぶ人なんているはずもないのに。

 美也さんの笑顔の裏の真意は、
 決して誰にもわかりません。

ある意味、三春先輩よりも、
なにを考えているかわからないなあ……

なんかきょうは、
SRが出る気がするんだよなー

ふぁいとにゃ!


 ぐっと拳を突き出す美也さん。

 プロデューサーさんは、
 ポケットから取り出したスマートフォンを、
 高々と掲げます。

 そして――。

よしっ、来いっ!


 そのスマートフォンに輝きが満ちました。

 緊張の一瞬。


 パッと光が弾け――。

 画面を見て、プロデューサーさんは顔を歪めます。

んだよ! またレアかよ!

にゃははは、仕方ないにゃー

クソが、ったく!
二度とガチャなんて引かねえ!


 プロデューサーさんは毒づきます。

 機嫌が悪いときのプロデューサーさんには、
 誰も近づこうとしません。

そのそばで、
朗らかにしていられる美也さんは、
本当に神経が図太いというか、
度胸があるというか、
とにかくすごいです。


 プロデューサーさんはガツンと机を蹴ります。

 そして、わたしの隣に座って、
 ファッション誌を広げていたはなびさんに絡みます。

ったくー、どうなってんだよはなびー、
なあーこれーなあー

……話しかけないでほしいんだけど

ああー?

おねえちゃんのこと、
まだ許していないんだからね


 はなびさんがそう言った直後。

めんどくせえなこいつ……
餌にしちまうかな……


 プロデューサーさんが舌打ちをします。
 サッとはなびさんの顔が青ざめました。

な、なんちゃって!
そんなわけないじゃーん!
はなび、プロデューサーのこと大好きー!


 慌てておどけるはなびさん。
 半泣きです。

ああー? 本当にかー?

そ、そうだよ!
おねえちゃんって、誰それー!
はなびってば
プロデューサーに一途だしー!


 姉を消した相手に必死に媚びるその姿。
 アイドルというよりは、
 なんだかもう、ペットのようです。

わたし、芦原愛子は、
小さくため息をつきました。


 そんなとき。
 部屋の入口から中を窺っている子がいました。

あのーちょっといいっすかー?

うん? あ、丘ちゃん

あ、レアの芦原さん!
ちょっとお時間いただいても、
よろしいっすか!?

う、うん、大丈夫だけど


 なんだろう。








こっちなんすけどー

はいはいー?


 基本的にわたしたちは、事務所と女子寮とレッスン場が一緒になった大きなビルの中で生活をしています。

 と、その中庭にやってきました。

連れてきたっすよー、瑠璃ちゃんー

あ、ありがとうございますぅ


 そこには、女の子がいました。

あっ、かわいい

えっ、あっ、あのぉ


 まあアイドルだから当たり前だよね。
 彼女は勢いよく頭を下げてきました。

わっ、私、白雪瑠璃って言います
初めまして、よろしくお願いします!

う、うん


 わたしはじっと目を凝らします。
 すると、彼女の頭の上に

レア

 と表示されているような気がしました。

あ、ひょっとして、
さっきのガチャで排出された子かな?

えとぉ……ガチャ、ですか?

ううん、なんでもないなんでもない
気にしないで


 プラプラと手を振ります。

中庭で不安そうにぷらぷらしていたから、
詳しそうな人を呼んできたんすよー
じゃあ丘はレッスンがありますので!
これで!

うん、ありがとうね、丘ちゃん

あっ、丘さん、
ありがとうございましたぁ!


 新人の子は礼儀正しく頭を下げる。
 わー、なんだか見てて初々しいなあ。

 でも、どうしようかな。
 こういうのって、三春さん案件なんだけど。
 三春さん今は長期レッスン中で、
 部屋にいないんだよなあ。

かといって、
ひとりにしておくのは危なっかしいし

えと、あの、あのー……

えと、白雪さん、
じゃあとりあえずわたしの部屋にいこっか

えっ!?

あ、変な意味じゃなくて、
あの、知らないことばっかりでしょう?
とりあえず、
色々と教えてあげるから、ね?


 すると、彼女はぱぁっと顔を輝かせました。

ありがとうございます、
あの、お名前は……?

わたしは芦原愛子。
そんなに硬くならなくても大丈夫だよー

あ、ありがとうございますぅ、センパイ!

!?


 その瞬間、わたしはハッとしました。

 先輩、先輩……先輩!

 ――先輩!

 なんて、いい響きなんでしょう。
 わたしはどんと胸を叩きます。

任せて、瑠璃ちゃん!
この愛子センパイが、
なんだって教えてあげるからね!

はい、ありがとうございます!


 キラキラとした笑顔の瑠璃ちゃん。

一人前のアイドルになるため、
きょうからもう泣きません!
ピッカピカの笑顔でがんばります!













 ――だがしかし、

 彼女は翌日、
 レッスン室で餌にされた丘ちゃんを見て、
 泣きじゃくることになる。

どうして、どうしてこんな……
ひどい、ひどいです!
こんな世界って、なんでなんですか!


 洗礼みたいなものですね。

 その様子を眺めながら、
 わたしは微笑ましい気持ちでいた。

ああ、うん、うん。懐かしいなあ
わたしにもあんな頃があったなあ









 ……すっかり感覚が、
 狂ってしまっていることにも、
 わたしは気づかずに……















 白雪瑠璃(R)
 
 Lv 1 / 30
 親愛度 0 / 100

 特技:全力マーチ
 効果:全体の攻撃力を5%up

 鹿児島県生まれの新人アイドル。
 元気いっぱいの体育会系娘。
 運動神経抜群の、努力家である。

第8話 「白鳥瑠璃、Lv1です!」

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