第9話「猫宮美也、Lv19にゃ」






たーだいまー……って、あら?

おかえりなさーい

あっ、あの、
おかえりなさい……


 帰ってきた三春さんを、
 わたしたちはお出迎えします。

今回の長期レッスン、結構長かったですねー

ええ。朝起きて延々と寝るまで、
ひたすら縄跳びする生活だったから、
結構大変だったわ

た、たいへんそう……

ま、でもおかげで、
レベルが2もあがったわ

すごい!
かしこいかわいいミハリンポン!

誰がミハリンポンよ
じゃなくて、その子は?

あっ、えっ、あっ……


 白雪瑠璃ちゃんは、勢いよく頭を下げます。

はっ、初めまして!
私は白雪瑠璃、新米アイドルです!
お願いですから餌にしないでください!

……し、しないけど?

ぷるぷるぷるぷる

昨日、丘ちゃんのアレ見ちゃいまして

ああ、なるほどね
そう気にすることはないわ
日常茶飯事だから

ですよねー、あははー

そうなんですか!?
なんで、なんで、
笑っていられるんですか!?

 
 瑠璃ちゃんは相変わらずプルプルしている。
 その調子だと、これからも大変そうだなあ。

まあ、なんとなく事情はわかったわ
新しい子なのね
どうりで絵柄が違うと思ったわ
おそらく、新排出の子なんでしょうね

『新排出』ってなんですか?

新しくガチャに追加された子ってことよ


 あ、なるほど。

たぶんまだ行くところがないと思うので、
昨晩はわたしのベッドに寝てもらいました

あら、愛子さん
あなた昨日はソファーに寝たの?
大変だったでしょう

いえ、わたしは三春さんのベッドに

そう。……ええ?

とってもいい匂いがして、
ぐっすり眠れました!

ちょっとまって

なので、これからも瑠璃ちゃんには、
わたしのベッドを、
使ってもらおうと思います
わたしは先輩なので我慢しますね

ソファーで寝るの?

いえ、三春さんと一緒のベッドで
狭いけど我慢しましょうね!

まちなさい


 どさくさに紛れて言いましたけど、
 やっぱりだめでした。











 と、きょうは待ちに待ったLIVEの日でした!


 わたしたちはいつもの、
 ステージ衣装の制服に着替えて、
 LIVE会場に集合します。

 うーん、この瞬間が一番、
 自分たちがアイドルだって実感できますよね!

 餌にされる恐怖に怯えているだけが、
 アイドルじゃないんです!

はああああ、
緊張しますううううう!

って瑠璃ちゃん!?

新人じゃない、
なんでここにいるのよ

いやあ、プロデューサーに、
お前もここにいけって言われて……。
私、振り付けも歌も、
全然覚えていないのに……!


 わたしとはなびさんは顔を見合わせます。

なんででしょうか

たぶん、スキルのせいだと思うんだけど

スキル……ですか?

うん。結構強い効果のスキルを、
持っているから、
メンバーに入れよう、
ってことなんだろうね

 
 あ、そういえばみんな、
 スキルなんてものがありましたね。

 わたしの場合は、
 全員のソングパワーが10%アップ、
 だったかな?

スキルが強かったら、
最終的なダメージが高くなるからね

……ダメージ?

ダメージ

いわば、お客さんの心に、
どれだけ爪跡を残せるか、
みたいなものじゃないかしら

たぶんそうよ。よくわかんないけど

はあ


 そういう意味で、
 瑠璃ちゃんの攻撃力upは、
 貴重なんだとかなんとか。

 さすが新排出ー。

 まあ白鳥さんを加えることで、
 全員がちょっぴりだけお客さんの印象に、
 残るようになるんだったら、
 それはとっても嬉しいな、って。

よし、じゃあいくわよ


 全員が中央に集まり、
 はなびさんが手を突き出します。

 そこに、わたしたちも手を差し出します。

あ、あの、あのあー!

こうするんだよ、瑠璃ちゃん

は、はい!


 ぐるぐるおめめになりかけている、
 瑠璃ちゃんの手を引っ張って、
 そうしてみんなで手を合わせます。

チーム『ラブリーえんじぇる』!
はばたくよ!


 おー!


 そんなわたしたちを舞台の袖から。

がんばるにゃー!


 美也さんが手を振って応援していました。

 そう、瑠璃ちゃんの代わりに、
 チームから外されたのは、

 ――今回、美也さんだったのです。











 LIVEは瑠璃ちゃんが加わったことによって、
 以前よりランキングがあがったみたいです。

 帰ってきたわたしたちは、
 事務所でささやかな祝杯をあげました。

かんぱーい


 今回は美也さんの代わりに、
 はなびさんが音頭を取ります。

 わたしは隅っこでちびちびと、
 オレンジジュースを飲んでいました。

 三春さんはワインをグラスの中で回しています。

ふふ、私の血は、
ワインでできているからね……


 一口飲んだだけで顔を真っ赤にしつつ、
 そんなことを言っています。
 久々に見ました、三春さんのあのキャラ。

 お酒弱いのに、
 無理しているミハリンポン、
 かわいい!

あ、そういえば瑠璃ちゃんは、
どこにいったのかなー


 カチコチに緊張していて、
 LIVEでも噛み噛みだし、
 ダンスもぎこちなかったので、
 どこかで泣いているのかもしれません。

 しょうがないなー。

ふふ、この愛子ちゃん『センパイ』が、
こっそりと慰めてあげましょうね


 瑠璃ちゃん可愛いし、ね!








 近くのレッスン室に明かりがついていました。
 話し声もします。

 あ、ここかな。

瑠璃ちゃー――

よーし、大きくなれよー

……


 そのとき。

 わたしの見たものは、

 スマートフォンを高々と掲げるプロデューサーと、

 青い顔をした瑠璃ちゃんと――。

……

 そしてこちらに振り向き、
 微笑みながら手を振る美也さんが――。

――愛子ちゃん、元気で、にゃ



 光となって、
 瑠璃ちゃんの胸に吸い込まれてゆく姿でした。











 佐藤妙子(R)
 
 Lv 19 / 30
 親愛度 100 / 100

 特技:なし

 富山県出身、上京中にスカウトされる。
 おっとりとして、和やかな性格。
 ポジティブに生きる、ムードメーカー。

 
 

第9話 「猫宮美也、Lv19にゃ!」

facebook twitter
pagetop