第7話「芦原愛子、Lv14になりました!」









 自分の部屋で、わたしは動転していました。

 だって、だって。

ま、まさかー! 三春先輩がふたりー!?


 頭を抱えながら叫びます。

いったいどういうからくりなんですかー!? まったく想像できないー!


 目を白黒させるわたし。
 矢中さんはあっさりと言います。

ダブリよ

はい


 そうですよね、知っていました。

 ここはソーシャルゲームの世界。
 同じアイドルが出るぐらい、当たり前の話です。

Rもダブリが出るんですねー

きょうね、
プロデューサーがログインボーナスで、
レア確定チケットをもらったからって、
一度ガチャを引いたらしいのよ
それで当たったのがこの子ね


 そんな横。

ダブリ? 
いったいなにを言っているのかしら?


 裸の三春先輩は妖艶にほほえみます。
 胸に手を当てて。

私は矢中三春よ。
あなたの、芦原愛子の大好きな、
ねえ、そうでしょう?

もう、人の顔で恥ずかしいことを言って……

ほら、愛子。こちらにいらっしゃい

はわわ~


 あ、足が勝手に……!

 わたしは吸い寄せられるように三春先輩のもとへと歩いてゆきます。

 それを見た三春先輩がムッとした顔になりました。

ちょっと、芦原さん……
どうしてそっちにいくのかしら

えっ、あっ、そ、そうですよね!
すみません三春先輩!

愛子、ほら、おいで

あっ、はい!

……


 あっ、三春先輩(本物)が、こっちを見て睨んでる!
 すごい、やだ、こわい!

……まあいいわ
どうせそいつはすぐに餌になる運命よ

……

えっ

ひとつのグループに、
同一アイドルは入れられないのよ
だから、私のスキルアップの餌になるわ

……

そんな……


 ちらと見ると、三春先輩(裸)と目が合いました。
 彼女の顔が歪んでゆきます。

……先にレアがいるのに、
出現した人の気も知らず

……!


 ぽつりとつぶやいた言葉は重く。

私だってこんなところに来たくなかったわよ

……

私を初めて見たときの、
プロデューサーの言葉は、
『なんだ、持っているやつか』よ。
生まれてそんなことを言われるって、ある?
初めての言葉がそんなことって、ある?
それを聞いた私の気持ちが、
あなたにわかる?

知らないわ

先に生まれてきただけで、
いい気になっているんじゃないわ
できることなら(NEW)マークがつかない私の苦しみを、
あなたにも味わわせてあげたいわ


 こ、こわい。
 三春先輩(裸)こわいです。

ねえ、愛子

ひゃい!


 ぞくっとするような声です。

そっちの矢中三春と、
こっちの矢中三春、
あなたはどっちがいい?

えっ!?

……なにを言い出しているの、あなた

そ、そうですよ!
三春先輩は、三春先輩です!


 三春先輩(裸)は、すっと目を細めます。

そっちの矢中三春は、
厳しくも有能な先輩だわ

当たり前よ

でも、こっちの矢中三春は、
……愛子にすごく優しいわよ

……えっ?

いつでも好きなときに甘やかしてあげるわ
ひざまくらしてほしかったらしてあげるし、
なでなでもよしよしもしてあげるわよ
あなただけをいつまでも見ているわ

……えっ!?

ちょ、ちょっと!?

ほら、愛子、こっちにおいで

わんわん!

ちょっとー!


 三春先輩(本物)と、
 三春先輩(裸)に両腕を掴まれてしまいます。

 そしてそのまま両側に引っ張られて!

 いたたたた!

なんなのよ! 
芦原さん! あなたチョロいわよ!

いいじゃない、そこが愛子のいいところよ

あなたは黙ってて! 
私と芦原さんが話しているの!

勝手に愛子の所有権を主張しないでくれる?
愛子は私のモノよ

はわわー!


 笑顔で叫びます。

 アイドルになってよかった。
 ――このとき、わたしは心からそう思いました。











まったく、なにしてんのよ……

回収完了にゃー

……愛子

うううう三春せんぱいー

はあ……


 その後、騒ぎを聞きつけてやってきたはなびさんと猫宮さんの手によって、三春先輩(裸)は回収されていきました。

 先輩方がなんであんなに、
 ごっつい手錠を持っていたかはともかく。

 ですが、忘れてはいけません。

これが終わりじゃないわ……
また第二、第三の矢中三春が。
あなたを誘惑しに来るわ……
本物の座を奪い取るために、ね

 そうつぶやいて、三春さん(裸)は、
 光の中へと消えてゆきました。
 
 ――餌になったのです。

ああ、なんてことでしょう

また新たな三春さんが現れたそのとき――。

今度こそわたしは、
耐えられるのでしょうか

と、だらしなく笑うわたしに


 ほんのりと顔を赤く染めながら。

……まったく、
なんであなたが敵にまわるの
おかげで三倍ぐらい疲れたわ
チョロすぎるわよ、『愛子さん』

今、下の名前で!

またこんな騒動になったら、
嫌だからね……


 と、少しだけ三春先輩(本物)が歩み寄ってくださったのが、幸せでした。










 後日。

なあ愛子ー、
お前チョロいんだってー? 
面白い個性だなー

ええー!?
なんでもう知れ渡っているんですか!?


 と、こんな感じで。




わたしのこのチョロさが、
新たなる悲劇の始まりになると、
このときのわたしには、
知る由もなかったのです……














芦原愛子(R)
 
 Lv 14 / 30
 親愛度 23 / 100

 特技:ラブスマイル
 効果:全体のソングパワーを10%up

 岩手県からやってきた新人アイドル。
 なによりも得意なものは笑顔。
 いつでも前向きにがんばる18才。

 取得個性:チョロい

第7話 「芦原愛子、Lv14になりました!」

facebook twitter
pagetop