親愛なる読者の皆様、ごきげんよう。
カルロ・ゼンと愉快な仲間たちのグルメレポート、本日は第五回をお届けいたします。
早速ですが、一つ質問を良いですか?
勿論です。
いつもならば、読者の皆様が何人程かと数字が提供されていましたが……。
確かにそうですね。数字、取らなくなったんですか?
良いご質問ですね!
えっ?
普段は、『特定』の方々に向けていました。しかし、今回は『全世界的』な読者を想定しています!
つ、つまり?
全員が興味を持つ以上、地球人類すべてが読者の方々たりえるのです。……枠を絞ることには反対ですね。
大丈夫ですか? 随分と大風呂敷を広げているような……。
勿論ですよ、私たちが心奪われるあの黒く芳醇な……
分かりました!
おや?
チョコレートのお話ですね。
番組の流れ的に……きっと、『甘いチョコレートと、製造のビターな現実!』とかそんな感じだ!
だまらっしゃい!
えっ?
違うんですか? じゃぁ、珈琲とかですか?
全く違います! 今回は、『大豆』ですよ! 大豆! 畑の肉です!
だ、大豆?
今回は、大豆が世界を救うまでの広大な歴史を学びます。
だ、大豆が……世界を救う?
愛と平和の食文化を学ぶための番組に相応しいと言いえるでしょう!
はぁ……。
では、早速、見ていきましょう!
大丈夫なのかなぁ……。
では、みなさん。George Washington Carver先生の偉業を本日は早速勉強してみましょう。
ちょ、ちょっと待ってください!
はい?
何だって、ジョージ・ワシントンさんなんですか! 大豆じゃないんですか?
良い質問ですね。でも、一つ注意を。ジョージ・ワシントン・カーヴァーさんです。大統領とは別人ですよ!
あれ?
人違いです。まぁ、マイナーなので……少し説明を。
ええと、すみません
George Washingtonはアメリカを独立させましたが、George Washington Carverは大豆でアメリカと世界を救ったんです。
は、はぁ?
George Washington Carverさんは、日本ではマイナーかもしれませんが優れた植物学者でした。大豆の栽培をアメリカに普及させたのも彼です。
具体的には?
ここで語るのは、余りにも軽々しいので自重します。ですが、アメリカを代表する偉大な人物として理解してください。彼がアメリカの農業に与えた影響は絶大です。
えーと、それがなんでアメリカや……『世界』を救うんでしょうか?
それは、最初から申し上げていますぞ!
え?
ですから、大豆を栽培することによってです。
だ、大豆が世界を守る?
大豆が、こう、ガードみたいな?
はぁ……。
(あからさまに溜息をつかれたなぁ)
大豆には窒素固定や綿花の連作障害、大豆の用途に見られる多様性など、色々あるんですよ?
では、今日はそういう科学のお話でしょうか?
興味深くはありますが、この番組は『グルメ』番組ですのでそれはわきに置いておきましょう。
(グルメ……?)
えーと、何々?
ここでちょっとした数字を。『アメリカ』は大豆生産量で世界トップです。
アジア原産の大豆が、はるばる海を越えて……今やアメリカの主要な農作物の一つに成長しているのです!
カーヴァー先生が先鞭をつけた……と?
その通り。お蔭で、大豆という作物が大々的にアメリカでも栽培されるに至り……今日の様に色々な用途へつかわれるに至ったは周知の通りですね。
すみません、正直なところ……
それが、なんだって『平和』につながるんですか?
えーと、また、随分と遠回りな感じもしますが……大豆があるおかげで危険なことから解放されるということですか?
その通り! 大豆はタンパク質を含む上に、飼料にしてよし、油を搾ってよし、豆腐にしてよし、と完璧です。
はぁ。
この完璧な作物により、世界は滅亡を回避することに成功しました!
な、なんだってー!?
すみません。もうちょっと、具体的にお願いできませんか……?
よいですよ。つまり、冷戦で核戦争に至る愚かさを回避することに成功したのです!
は、はぁ……。
専門家をお呼びしていますので、早速聞いてみましょう。
大豆と、ソビエトの関係についてですか? よろしい、お話いたしましょう。
お願いします。
偉大なるソビエトは『アメリカ人』から『大豆』を買い上げるという大政策で『アメリカの貪欲な胃袋を握る』という歴史的偉業を70年代には成し遂げました!
……アメリカと取引したってことでしょうか?
少し違います。科学的なソビエトは大豆をソビエトの大地にばらまき、北米大陸で収穫するという進歩的な農法を取り入れるに至ったのです!
?
えーと、輸入ですか?
違います。進歩したソビエトによる発展途上の北米農業への『善意の支援』です。
ああ、先生、そこら辺は私どもが後ほど。ご苦労様でした
あのー?
お聞きの通り、ソビエトは大豆をアメリカから買っていました。理由は、これほど優れた豆なくしては農業政策をとてもやっていけないからです。
例えば?
先ほどの豚さんに食べさせる飼料としても有用ですし、食卓の食用油や料理の素材としてもです。
確かにそうかもしれませんが……それだけで、平和になるんですか?
良い質問ですね。ここで、ちょっとした実例を見てみましょう。
はい、お願いします。
実はアメリカが大豆を禁輸したことがあり、その瞬間にソビエトは世界中から慌てて大豆を買い集めたほどです。
えーと、それって。
ひょっとして、緊張が高まるとかそういう危険なことになるんじゃ……。
大丈夫です!
実のところを言えば、禁輸はぜんぜん長続きしませんでした。理由は単純です!
そ、それは……?
輸出することを前提に栽培されている大豆を急に国内消費できるわけないじゃないですか。売り手も買い手も貿易がしたくてたまらないんですよ?
えーと、つまり売りたいアメリカの農家。
そして、買いたいソビエト?
あれ? ひょっとして、お互いがお互いを必要とする……?
そのとおり! 冷戦という構造化で、大豆が繋ぐ東西の友情……。これこそが、私たちが核戦争で滅びずに済んだ一つの要因かもしれません。
ゆ、友情……?
こうして、大豆は世界を滅亡から救ったのです。
えええ!?
だからこそ、私たちはアメリカで大豆の栽培を研究したGeorge Washington Carver先生が大豆で世界を救ったと確信しているのです。
うーん、なんか、それっぽい感じですね。
食が世界を救う。なんという感動的なエピソードでしょうか!
うーん、無理があるとしかおもえない。
あのー。
はい? なんでしょうか?
ところで、結局、黒い芳醇な液体って何時頃語られるんですか?
ああ、簡単です。
?
英語で、大豆はsoybean。つまり、しょーゆ(soy sauce)の原料のマメです。しょーゆって真っ黒ですよね?
はい?
どうも、ヨーロッパ世界はsoy sauceの原料として大豆を認識していたらしく、その名残が呼び方として残っているんです。
なんだってそんなことに?
ヨーロッパ世界には醤油というのが伝わって、そして大豆が伝わったからでしょう。つまり加工された大豆こと、黒い醤油の存在が、ヨーロッパをして大豆に目覚める契機だったということに違いありません!
ええ!?
黒い液体は、何時の時代も世界を左右するという証拠ですね!
何時になく科学的かつ社会学的なアプローチでしたが、食と世界平和に係る重要な知見をお届けできたことを誇らしく思います。
対立するイデオロギーを掲げた米ソが、大豆で繋がる!
まさに、欲望の二重一致の前には如何なる思想も無力ということですね。
珈琲といい醤油といい、食物はなんと偉大なことでしょうか!
※当番組へのご要望、感想があればコメントを頂ければ幸いです。
次回の更新も不定期になるかと。どうぞ、ご容赦を。