第六話 伝統と革新!
第六話 伝統と革新!
※この物語は、若干、文化的な価値観の衝突を演出する場合がございます。
みなさん、こんにちは!
カルロ・ゼンと愉快な仲間たちによるお役立ちグルメレポートも第六回目を迎えるに至りました。
皆様のご愛顧もあり、お陰様でストリエ様の歴史コーナーで紹介されています!
詳しくは、ストリエ内の
・ストーリーピックアップ!「歴史を紐解く!?ストーリー特集」
をご覧ください。
これも偏に、三億と四千万と推定される読者の皆々様のご声援あればこそ。
私共としても、ひきつづき、歴史と文化の芳醇な食文化、グルメを追い求めていく所存です。
さて、そんな今回のテーマは?
えーと、事前の資料だと……『伝統と革新』?
おおっ、グルメの定番ですね!
ええ、フレンチを例にとって見ましょう。
オートキュイジーヌのカレームに始まり、エスコフィエの革新も忘れられません。
キュイジーヌクラシックとコース料理の枠組みは、今日のフレンチにおいても重要な一歩でした。
一方では60年代、70年代に見られるヌーベルキュイジーヌの台頭が食文化を豊かに彩るようになっています。
そして、それらの果てに原典回帰とばかりにオートキュイジーヌの技法に目が注がれるなど……
あの、すみません。カタカナばかりで、何を仰っているのか今一……。
おっと、これは私としたことが。
こういうの、視聴者や読者の皆さんを戸惑わせるんで辞めてくださいね。
私としたことが、大変な失礼を。
……本日は、これにて失礼します。
……あれ? よく考えると、グルメの話だったような?
やぁやぁやぁ! ごきげん如何かな!?
ブルジョワを追放して、ついに労働者としての夢と希望に目覚めた同志予備軍諸君!
え?
高度に文化的過ぎて分からないかね?
よろしい!
お勉強だ、同志!
お、お勉強ですか?
その通り!
伝統と革新。この食文化という人民の営みを通じて、我々がいかに社会を進歩させる運命にあるかを順を追ってみていこう!
では、VTR、スタート!
なんだか、時代劇の舞台みたいですね。
本格的で、ちょっとワクワクしてしまいますね。えーと、ここは?
人民諸君!
このVTRでは、古の中国で起きた一つの革命思想について学んでもらいたい!
か、革命思想……ですか?
おや、あれは……?
なりません、なりませんぞ! 陛下!
なにをのたまう!
陛下……。どうか、御気をお静めくださいませ。陛下といえども、古来よりの法をないがしろにしてよいという言説は……。
ほざけ、この愚か者が!
陛下! 国政をなんとお心がけておいでですか! 聖賢の道を、どうぞお学びあれ!
黙れ!
貴様らの戯言など聞くだけ時間の無駄だ!
な、なんでしょう。すごい荒れているみたいですが……。
そうですね。
皇帝と臣下がある問題に付いて盛大に衝突しているシーンの再現VTRです。
なんだか、若い皇帝がわがままを言っているみたいに見えますね……。
騙されてはいけません!
表面に惑わされずに、しっかりと真実を直視してください!
どういうことですか?
よく見てください!
……? あれ、あれって……
お、お肉ですかね?
その通り!
でも、いったい、なんだってこんなものが?
良い質問です!
さっそく、VTRの続きを見てみましょう!
……何度も言っているだろう。そんなことは、どうでもいいだろうと。
なんと嘆かわしい……。
陛下、軽々しいことではありません!
古よりの伝統でございますぞ! 太祖以来、代々の皇帝陛下が護り賜れていた慣習を、なんと思し遊ばされます!
はい、いったんVTRをここでストップです。
ご覧になっていた皆さんには、もうお分かりいただけますね?
えーと?
では、ヒントを。
ヒントは、皆さんの目の前にあるお肉です!
お肉?
っていうか、それ、ヒントなのだろうか?
あ、ひょっとしてメニューとか献立で喧嘩ですか?
そんなまさか!
ここ、宮中なんですよ。きっと、政治とか外交とか、統治に係る官僚と皇帝の論争に決まっているじゃないですか。
じゃあ、じゃあ、あのお肉は?
う、うーん。
人民の教育はまだまだのようですね。
しかたありません。今日だけは特別に、答えを教えて差し上げます!
肉の並べ方なぞ、どうでもいいわ!
さっさと、国政の会議を始めろ、この、腐れ儒者どもが!
なっ!?
陛下、どうか気を落ち着けくださいませ。
さよう。
古より、骨付き肉は左側。切り分けた肉は右側に配膳するものときまっております。
こ、この腐れ儒者どもは……!
国費で養われていながら、政策を考えるでもなく、ただただ空虚な儀式に金をかけることしか考えようともしない……。
古の法、聖賢の道を思えば、あるべき食膳の配置を考えることがあらまほしき道かと。
……朝議の貴重な時間なのだぞ?
つもり積もっている政務の時間を分捕り、何をほざくかと思えばと聞いていたが、もう我慢の限界だ。
諸君の意見は、よく分かった。古の習慣を尊べというのだな?
はい、陛下。
宜しい、では、全てを我々の先祖に習って古の習慣に戻すとしよう。
おお! 誠でございますか!
ああ、諸君。
諸君は、これを手づかみでくらいたまえ。
それを、やりたいのだろう?
へ、陛下?
聞こえなかったのかね?
諸君は、手づかみで食らいたまえ。
古の時代に、配膳の作法もくそもない。
勝手に付け加えられた珍習で古の有様を曲げるのはけしからんと諸君に教わったばかりだからな。
なっ!?
どうした?
古の作法を軽視するなと口にしておきながら、先祖のやり方をかえるというのかね?
それとこれは異なります!
もういい!
私には、貴様らの下らん話に付き合っている時間はないのだ!
為すべき勤めが幾らあると思っている?
下がれ、二度と顔を見たくもない!
皆さん、如何でしたでしょうか?
これこそが、進歩史観です!
し、進歩史観?
そこまでだ!
こんどこそ、徹底して焼き豚にしてやれ!
くそっ!? もう、追っ手が!?
あのー、結局、今日のお話はなんだったんでしょうか?
ええ、本日のVTRは漢帝国の宣帝が残したエピソードです。
えーと、お肉の配膳方法で喧嘩していたんですか? 皇帝と、官僚が?
そんな、馬鹿なと思われるでしょう?
ところがどっこい、官僚というか儒者は大真面目でした。
皇帝に、古通りの食事作法を復活させるようにと説いたのですね。
伝統を大事にするようにということですね。
まぁ、その通りではありました。
しかし……『お肉の配膳方法』を調べる為だけに、『国家財政が逼迫している』帝国で『高禄』を平然と貪る連中がいることに、皇帝が愕然としたのもむべなるかな、というところでしょうね。
妙に、経済観念がしっかりした皇帝陛下ですね。
ええ、でも、宣帝は『庶民』出身の皇帝ですからね。
珍しいことに、彼、本当の庶民の生活を知っている皇帝だったんですよ。
?
おっと、脱線が過ぎましたね。
えーと、では、本日の結論は?
食事の伝統、文化というのは絶え間ない革新と伝統の融合なのです。
良いとこどりですね。
なんだか、ちょっとずるしている感じもありますね。
色々なモノが交じり合っている。これこそが、料理と食文化の魅力というヤツです!
もちろん、語り継ぐべき伝統もありますよ!
でも、昔からそうしていたからなんだ! ではダメなんですね。
その通り!
無批判に昔のやり方だから、なんていうと、先ほどのVTRで怒られた方々のようになってしまいますからね。
これが、伝統と革新のバランスというヤツなんですね!
では、我々も恒例の伝統を一つ。
スタッフさん、よろしくお願いします!
はっ! お任せを!
お待たせいたしました!
いつもご苦労様です。
さぁ、皆で焼き豚をたべましょう!
では、みなさん。御機嫌よう。
如何だったでしょうか? 食事の豊かな伝統と、新しい革新の組み合わせが織り成す可能性について、引き続きお届けしていければと思います(。・ω・)ゞ