夜が訪れた。
あれから、速水は食い下がったが私が頑なに断ると、諦めて戻っていった。
私はやることもなく、ベッドに横たわり、テレビを垂れ流しにして天井を眺めている。
今夜だ。今夜から、人が死ぬ。私達の手で、誰かを殺す。
今でも実感がないと言えばない。
本当に殺せるのか? 
私は殺すのか?
その質問に対して、前者は分からない、後者は殺すと答えるしかない。
でも少なくても、私は殺す。
殺人犯としての役職を果たし、ゲームの中で死ぬのだ。

ゲームマスター

やぁ、一日お疲れ様
裏切り者の共犯者君

そんな時、ブレスレットからあの声が聞こえ出す。
ゲームマスターが、私に接触してきた。
あいつ、私にまだ何かあるのか。

真澄

あんたか……何か用?

ゲームマスター

おいおい、人が折角時間を見つけて労いにきたのに、その言い方はないだろう

白々しい。どうせまた何かいい付けに来たくせに。
私は自然と全てを話せるこいつに、若干の信用を感じ始めていた。
そもそも私が持ちかけた話でこいつとは立場は平等。
私はゲーム内のゲームマスターの駒として動き、報酬として終焉をもらう。
あの一々彼らと違うことを考えて動く窮屈なゲームの中とは違って、こいつには隠し事をする必要はない。
たった一日で私は犯罪者の一員だ。
だが、それも悪くない。そう思う。
私は死が欲しい。
生前どんな罪を犯そうが、結局自分は死ねばチャラ。
それで精算されるし、どの道ここに居る限り人殺しの咎から逃げる方法は死ぬだけだ。
私が初夜に死ねば人を殺さずに済むのか。
それでもいい。私には、失うものが何もない。
いいや、失うために他者を蹴落とすクズである私は、こいつと同類だと考えを改める。
私に、こいつを責める権利は、ない。

真澄

人を玩具扱いしてるあんたにもそんな殊勝な心意気があるとはね

苦笑いして軽口を返すと、奴は豪快に笑い出した。

ゲームマスター

その通り、僕は玩具扱いしているよ
だがキミは別だよ? なにせ共犯者だからね
キミは今日一日よく働いてくれたから、お礼にこっそりボーナスをつけようと思ってここにきたんだ

……何か、私だけ贔屓目にされているし。
参加者同士を煽り、亀裂をつくり、殺し合いのアドバイスもして、挙句には自分の生命すら賭けに出して流れを作った。
ここまでしたのは正直予想外で、感謝しても足りないとお礼まで言われる。

真澄

ちょっとあんた
ヤラセを加速させるつもり?

ゲームマスター

そういうこと
大丈夫大丈夫
ここの会話は誰にも聞かれていないし、映像も誤魔化してある
それに、お客もある程度の横槍は理解して見てるからね
ちょっとのことなら大丈夫だよ

真澄

おいおい……
娯楽としてはどうなのそれ……

そっちの方が興ざめする気がするんだけど……。
あいつは、私のようなやる気のない奴がいる方がダメだと言う。

ゲームマスター

ボーナスの前にちょっと聞くけど、さっき13番に共闘を持ちかけられたようだね?

真澄

ええ、断ったけどね
ああいう風に慣れない芝居で印象づけしたんだから、バレるような下手なことはしないほうがいいでしょう?

監視しているだけあって、奴の情報は早い。
私が言うと、あいつはそれぐらいならしても構わないと言い出した。

ゲームマスター

一日目から結託して人を殺そうって流れは今まで無かったからね
序盤は消極的なことが当たり前なんだけど、彼女は違うらしい
そんな積極的な参加者がいるなら、乗るべきだと思うな
そのほうが見ている方は盛り上がるんだ

真澄

……盛り上がりがどうこう言うなら、やっぱ最後は裏切れ的なこと言うんじゃないでしょうね?

ゲームマスター

キミがそうしたいならそうするといい

真澄

馬鹿ね、最短クリアしようとしてる人間が、知ってる仲間を殺してどうするのよ?
それなりの理由がないで殺してれば錯乱でもしたかと思われるでしょ

ゲームマスター

じゃあ実際錯乱したようにすればいい

真澄

あんたも大概、無茶言うわね……
私は演劇とか芝居の経験なんてないよ
さっきだってあんたにフォローされないと危ないとこだったんだからね

ゲームマスター

そうかい?
迫真の演技ができていたと思うよ
見ている客はバカな奴が自棄を起こしていると思っているようだけど?

真澄

バカの自棄で悪うござんしたね……
アレだって先入観があるから上手くいってるだけよ

ゲームマスター

まっ、それは兎も角
こっちは今のところ問題ないから好きに動いてくれていい

私には思ったよりも自由に動いていいようだ。
と言われても、私は演技はド素人で、精々自棄を起こしてヒスを起こす演技ぐらいしかできない。
ヒスなら病院で起こしているのを何度も見たことがあるから、適当に喚き散らしてモノに当たって暴れていれば、それでなんとかなるだろう。

ゲームマスター

で、肝心のボーナスなんだけどね……
狼専用の会話を、こっちに横流しする

ゲームマスターの言葉に絶句する私。
凄いボーナスを寄越すもんだ。太っ腹すぎる。
内容は夜、狼たちがブレスレットを通じて話している(そんな機能もあるらしい)内容を、一方的に傍受できるのだそうだ。
それってつまり、狼の相談が私に筒抜けってこと?
狼はそれに気付くことはできないらしい……。

真澄

ルールを自ら破るマスターも考えもんね……

ゲームマスター

番組とかじゃ都合の悪いのは放送しないだろ
それと同じさ
都合の悪い部分は誰にも知られない
楽しい番組作るなら悪い部分は秘匿しないと

真澄

客すら騙すあんたには呆れるわ……

ゲームマスター

まあまあ、そう言わず
あ、言い忘れていたけど
拘束具には機能詰め込んであるから音声入力で入れてみるといい

こいつが拘束具と呼ぶこのブレスレット、参加者同士の通信機能とか多機能的に作られているのだとか。
……腕輪にしては豪華すぎないか、本当に。

真澄

まあ、いいわ
私の死亡する確率は結構高いと思うけど、最初の犠牲者になったら悪かったってことで

そうなのだ。
私は既にかなり目立つ行為をしている。
狼に狙われる可能性はかなり高い自覚がある。
つまり、共犯者の私が最初の犠牲者になるかもしれない。
が、ゲームマスターはこう言い出す。

ゲームマスター

そういうわけでもないんだよね
……どうやらアレだけ言っておいたのに、ルール違反をしたバカが二名ほど出てね
今粛清している最中なんだ

真澄

……はっ?

こいつは今、何を言っているんだ?
ほうける私に、ゲームマスターの辟易した声は続く。

ゲームマスター

ったく
ゲーム以外で死人が出ると、色々こっちにも不利益が出るっていうのに……
これも仕方ない、必要経費なのか……

独り言を入れるほど、疲れているのだろうか?
私は眉を顰めて言った。

真澄

要するに逆らった馬鹿が死んだってことね?
……こっちである程度、ルール違反しないように働きかけてみるわ
死人が出てれば、説得しやすいだろうから

ゲームマスター

ああ、頼んだよ
……ちなみに死んだのは狼と探偵の役職だ
狼は物理的に人を殺そうとしたこと、探偵は……そうだね、女の敵とでも言っておこう

真澄

ナイスよゲームマスター
変態は殺してくれていい

探偵の方が男だろう。変態は死すべし。
狼は……頭が悪かったということで自業自得。

既に、二人死んだ。確定済み。
ゲームマスターの手により。
……あとは、私が今夜にも早速動いて一人殺す。
速水ことテロリストと、狼がどう動くかだ。
早速狼の話し合いを盗聴したが、三人ほどの肉声で、一人が断末魔を上げて死んだ事を理解していたらしく困惑していた。
これでは期待できまい。
最低でももう一人死ぬから、初夜で三人。
かなり多い気もするが、いい。多いときは削っといて損はない。
私は、うって変わって疲れたようなゲームマスターと密会を切って、すぐにブレスレットの投票モードを起動して、一人目の標的に、票を入れるのだった。
明日の朝、奴が死んでいなければ奴は守られたことになる。
どうなるかは、参加者である私達の誰にもわからない。

pagetop