私は廊下にでて初めて気付いた。
この建物、そこまで大きくはないようだ。
窓には鉄格子があるし、監視カメラも天井にはついている。
宛ら、普通の建物を装った監獄、と言ったところか。
しかし、そこで変な感じがして、私は振り返る。
何だろうこの感じ。

振り返ると、先程出てきたシンプルながら分厚い木製のドア。
それを踏まえて周りを見る。
……ああ、そういうことか。
私は違和感を理解した。

個々のドアが全く同じデザインで創られている。
どこも似た部屋のドアをしており、どこがどこだか一見しただけでは分からない。
ここが談話室とでも仮定させてもらう部屋だとして、一度ここから離れて戻ってきた場合、果たして私は迷わずここにこれるだろうか?

真澄

まぁ……いいか……
迷ったら道なりに片っ端から部屋を開ければ

ドアはかなり分厚い。
壁を試しに軽く叩いてみても、全く音がしない。
見た目は普通のくせに、中身は防音素材の塊だとでも言うのか。
これなら、いくら騒いでも助けはこないだろう。
言うまでもなく、私達のスマホなどの通信手段は全て没収されており、連絡することも不可能。
どうせ連中とは和解もできないし、そんなことをしたら今度こそゲームマスターに殺される。
今少なくても、ゲームの中で死ぬのを望む私だが、奴に殺されるのは癪だ。
あんなトチ狂った奴の遊びのために死ぬ気は毛頭ない。
私は私の為に死ぬのだから。
それを見て勝手に嗤うのは良いけど。
結果として同じだとしても、それは私の気持ちの問題だ。
私がこうならこうなのだ。
他の人間にどうのこうの言われる筋合いはないし、そもそも黙っているので言わせる機会もない。

真澄

さて、私の部屋……探さないと……

私は自分の部屋を探しに行く。

ここだろうか?
私は階段をあがったすぐそばの部屋を見つけた。
そこには私の番号と同じ18の数字が入れられている。
ゲームマスターは自分の番号と同じ数字の部屋だと説明している。
私は遠慮なくドアノブをつかんで開いた。

室内は、シンプルだった。
最低限、生活に必要なものは揃えられている。
間取りを見ると、シャワーとトイレ、キッチンぐらいはありそう。
小さめの冷蔵庫もあるし、食べるものとかはここで作ったりするのだろうか。
シングルベッドが窓際に置かれて、窓にはカーテンがあって開くと、外は何と森の中。
この建物、樹海のようなところのど真ん中にぽつんと建てられていた。
窓から見えるのは見渡す限りの森林だけ。
流石に私も度肝を抜かれた。

真澄

これは酷い……

何が酷いって、いつのまにこんな場所に連れてこられたのだろうか。
全く気が付かなかったことが、相手の手腕を窺わせる。
闇世界の誘拐専門の人だろうが、半端ではないだろう。
っていうか、ここ日本だろうか?
富士山の麓にあるっていう樹海だってここまで見渡す限りでもあるまいに。

室内を念の為に見回り、案の定隠しカメラを発見して破壊して処分。
トイレとかシャワールームに設置するとかセクハラどころかただの盗撮だ。冗談じゃない。
まあ、見上げれば室内にも監視カメラがついている。
あっちには行動がダダ漏れだろうなので、無駄な抵抗かもしれないが……。

真澄

あんのドスケベ野郎……

改めて思う。ゲームマスターはクソ野郎だ。
シャワールームに入ると、何故か下着の着替えらしきものが大量に置いてある。
更に寝巻きらしきものと、洗濯機。
なんで着替えが下着しかないんだろう。
あとこれは、洗えと? 自分で今着てるものを洗って使えと?
洗剤までご丁寧に置いておきやがって……。
もっと言うと、いつのまにサイズとかはかったんだろうか……。
私の病気のことを知っていて、薬を短時間で用意するほどの情報網なら簡単か……。知られたくなかったけど……。
冷蔵庫の中身を調べる。
大量の保存食を発見。毒入りとかではないだろう。
ルール以外では、殺されることを嫌がっていた節のある奴は、そこはまだ信じてもおかしくない。
ついでに、私の常備薬がかなりの量を保存されていた。
これなら当分は平気だ。
私はカラフルな錠剤を取り出して、一気に口に放り込み、水で流し込む。
定時に飲む薬、本日三回目。
一定時間おきに飲まないと発作が起きて心臓が停止してまた死ぬ。

真澄

ふぅ……

錠剤が胃の中に落ちていく。
これでしばらくは大丈夫。
夕飯ぐらいには、また飲まなきゃいけないけど。

真澄

あっ……

私は、それからドアの鍵を閉めに向かう。
部屋の中で、目立つところに鍵が置いてあった。
これを使えば自分は問題なく部屋に入れる。
ルールで縛りがあるとはいえ、連中が直接的手段でこないとも言い切れない。
この部屋が、物理的な最後の砦。

施錠して、やることもないのでテレビもあるし垂れ流して、疲れもあるのでそのまま眠ってしまおうかと思っていた時だった。

ドアをノックする音が聞こえた。

真澄

ん……?

ドアに近づき、覗き穴から外を伺うと。
そこにいたのは……。

……

速水だった。
彼女は部屋の前で、私の応答を待つ。
怪しい雰囲気もないし、そわそわしている感じもない。
落ち着いて、待っている。

いきなり、何の用だろうか?
もう私達は決裂した。話し合うのは殺す相手を決める時だけ。
なのに、個人的に彼女は私に何かをしにきている。
……出方が予想できない。
なまじ、油断できない相手だと分かっているから、私は対応に困る。
居留守は通じない。あの感じじゃ、何時までも待っている。
……仕方ない。

真澄

……速水?
何か私にまだあるの?

私はドアを開けることにした。
彼女は私を見て、鋭く言う。

用事がなければわざわざ訪ねないわ
……それよりも、早く入れてくれる?
他の人が怪しんで追って来る前に

真澄

やれやれ……

彼女を招き入れて、ドアを施錠する。
速水は中身のない私の薬を袋を見ながら、ベッドに腰掛ける。

成程、病気は事実だったのね……
これで一つ、収穫が増えたわ

真澄

どういう意味よ、まったく……
それよか、要件何?

呆れた私が戻ると、彼女は真顔で、突然切り出した。

住吉、私と共闘をしましょう
私とあなたなら争うことはしないで済む

真澄

……はっ?

最初、何を言われているのか理解できなかった。
速水はそんな私を見て、苦い顔でブレスレットのボタンを操作する。
彼女は見せつけたのは――銃のシンボル。テロリストの証。
それを、私に見せた。

私の役職は見てのとおり、テロリストなの
あなたの役職は、殺人犯でしょ?
確認してる時に近くにいて幸いしたわ
一瞬だったけど、シンボルを横合いからみれたから

彼女曰く、密集している近くにいたおかげで、一瞬だけだが私含めて数人のシンボルを盗み見ることに成功したという。
それによると、狼と私、殺人犯と村人を数人見つけているとか。

あなたの過剰な主張の意味も理解できてるわ
精神的に揺さぶりをかけて、色分けでもしていたんでしょ?
さっきも言ったけど、余りにも捨て身な戦術で、見ていて冷や冷やしたけど……
見てのとおり、私は何ともない
ルールでは自分で役職を明かすのは違反でないから、共闘も持ちかけることもできる

真澄

あんた……凄いね……

証拠である銃のシンボルを見たら、信頼するしかないだろう。
こいつは、狼陣営だ。私もブレスレットを速水の指示通りに操作して、シンボルを浮かべて見せる。

真澄

ご明察
私が殺人犯だよ
まぁ、陣営は同じってことだね

でしょう?
覚悟の程を聞くまでもないわね
あなたは殺す覚悟があると言ってたわね
私も無論、殺すつもりでいるわ
勝てなければ悔いることすらできないもの
……生きたいなら、殺すしかない
ただ、住吉
捨て身はダメ
生きたいのなら、護りも考えなくては悪目立ちするわ

死にたいという気持ちはバレていないようだ。
あの演出もあながち無駄ではなかった。
まあ、私の目論見はバレているようだが。
私もようやく、仲間をみつけたとほっとして、苦笑してしまう。
ここまで緊張の連続だったから、どっと脱力した。

真澄

ご忠告ありがとう、肝に銘じておく
でも私に共闘を持ちかけたのは、間違いだと思うわ
……共闘は出来ないよ

えっ?

私がそう告げると、速水は驚いたように私を見る。
私は続けた。

真澄

言ったでしょ
私は誰も助けないし、誰も庇わない
一人で生き抜くって

……あれ、本気だったの?
私は何か考えがあると思っていたのだけれど?

真澄

ええ、本気
誰も信用できないこの状況じゃ、そうするのが一番利口じゃない

私の手札はもうないわ
……それでも信用できない?

真澄

うんにゃ、ある程度信じてもいいかなと思う
でも、それとこれとは話が別よ

……ふぅ
随分と用心深いのね……

真澄

死にたくないからね

丁寧に断る。
本来、私に断る理由はない。
むしろ味方がいたほうが有利だ。
最期に裏切るのは確定済みだし。
だが、ああ言った手前、早々は意見を変えられない。

参ったわね……
これで幸先良いと思ったんだけど……

真澄

当然、私はあんたを狙わないよ
殺しても意味ないしね

まあ……それは有難いんだけど……

真澄

でも一応、考えてはみるよ
一緒に頑張ろう

……そうね、頑張りましょう

共闘したところで、私は死ぬのだ。
彼女のように、生きることが目的ではない。
速水も殺しに躊躇いはないようだが、私のように何もないわけではないだろう。
取り敢えず、速水は殺さないでおこう。
陣営が同じゆえ、失う訳にはいかないから……。

pagetop