翌日の朝、
僕たちはサムさんに教えてもらった
小屋を目指して歩いていた。
もちろん、
お酒とイカの干物も忘れず用意して。
町を出ると途端に辺りは寂しくなり、
ひたすら岩場や砂浜が続いている。
人の気配はなく、海鳥が空を飛んでいるだけ。
果てしなく繰り返される波音だけが
静かに響いていた。
そして町を出てから1時間ほど進んだ場所に、
それらしき小屋があるのを見つける。
翌日の朝、
僕たちはサムさんに教えてもらった
小屋を目指して歩いていた。
もちろん、
お酒とイカの干物も忘れず用意して。
町を出ると途端に辺りは寂しくなり、
ひたすら岩場や砂浜が続いている。
人の気配はなく、海鳥が空を飛んでいるだけ。
果てしなく繰り返される波音だけが
静かに響いていた。
そして町を出てから1時間ほど進んだ場所に、
それらしき小屋があるのを見つける。
ここかな?
おそらくそうだろう。
ほかに建物はないようだしな。
お~い! 誰かいるか~?
んぁっ?
タックが声をかけてしばらくすると、
小屋の奥から年配の男性が現れた。
体格はがっしりしていて、
素振りに貫禄みたいなものが感じられる。
ただ、ほのかにお酒の臭いがして、
ちょっと気怠そう。
この人がバラッタさんなのかな?
えっと、僕はアレスと言います。
あなたがバラッタさんですか?
……まぁ、そうだが?
サムさんに紹介されて
ここへ来ました。
まずはこれをどうぞ。
――っ!?
僕は持ってきた手土産を
バラッタさんに渡した。
するとバラッタさんはそれを見た途端、
目を輝かせながらそのお酒を開けて
飲み始める。
ぷはぁ~! うめぇっ!
俺はこの銘柄が一番好きなんだ。
いいチョイスしてるじゃねぇか!
小僧が選んだのか?
いえ、
僕はお酒のことが
よく分からないので、
酒屋さんで聞いたらそれが
いいだろうって勧めてくれて。
っ?
直後、バラッタさんは大きく目を見開いた。
そして小鼻を膨らませつつ、
なぜか酒瓶を乱暴に僕へと突き返してくる。
――どうしたというのだろう?
……そのマズイ酒を持って
とっとと帰れ。
えぇっ!?
でも今、美味しいと言って、
ご機嫌そうでしたよね?
酒の味ってのは
雰囲気で変わるもんだ。
どんなに安い酒でも雰囲気次第で
世界一の銘酒にさえなる。
逆も然りだ。
俺の言っている意味、分かるか?
っ?
若造には分からねぇか……。
俺はな、
テメェの俺に対する『心』が
気に食わねぇって言ってるんだよ。
何を言ってんだ、このおっちゃん?
っ?
……ぁ!?
そうか、そういうことだったのか……。
バラッタさんの言葉を聞いて、
僕はハッとした。
なぜ彼が急に不機嫌になったのか?
全ての原因は僕自身にあったと気付く。
――彼は僕の姿勢に対して怒っているんだ。
良かれと思ったこととはいえ、
僕は自分で品物を選ばなかった。
もっとバラッタさんのことを考え、
喜んでもらえるものを
慎重に選ばなければならなかったんだ……。
貴様、
アレスのことを知らないくせに、
なんて言い草だっ!
少しは厚意というものを理解しても
いいのではないか?
そうだそうだっ!
アレスはすごく心が
優しいんだぞっ!
厚意だぁっ? 優しいだぁっ?
ンなのは、
テメェらの勝手な
押しつけじゃねぇか!
ミューリエとタックはバラッタさんと
睨み合った。
――一触即発の雰囲気。
このままじゃ、いけない!
ミューリエ、タック!
バラッタさんの言う通りだよ。
僕が悪いんだ。
アレス様……。
…………。
バラッタさん、
申し訳ありませんでした。
おっしゃる通り、
僕の不手際でした。
また後日、
お伺いさせてもらいます。
よろしいですか?
ほぉ?
非を認めるってのか?
はい。
僕は自分で品物を選ばず、
安易に他人の意見に
従ってしまった。
しかもその相手は、
見ず知らずの酒屋さんです。
…………。
僕は人を簡単に信用しすぎて
失敗することが何度もありました。
その反省を忘れ、
今回も言われるままに
してしまった。
せめて味を確かめるくらいは
するべきでした。
バラッタさんに対する
気遣いというか、
想いが僕には欠けていました。
だから出直します。
今度来た時は、
どうかお話をさせてください。
僕はバラッタさんに深々と頭を下げたあと、
みんなの方へ向き直る。
すると事態を見守っていたシーラはもちろん、
ミューリエやタックも
穏やかな表情をしていた。
一旦、町へ帰ろう。
……分かった。
おうっ♪
はいっ!
バラッタ、
非礼を詫びさせてくれ。
すまなかった。
オイラも悪かったよ。
またお伺いします。
僕らはバラッタさんに背を向け、
小屋を出ようとした。
すると――
待て、小僧。
バラッタさんは僕を呼び止めると、
こちらへ歩み寄ってきた。
そして持っていたお酒の瓶を強引に奪い取る。
……よく俺の言葉の意味を
瞬時に理解したな。
なかなか見所があるじゃねえか。
それにそのバカ正直な性格は
嫌いじゃねぇ。
こいつは受け取ってやる。
小屋の中に入って話を聞かせな。
バラッタさん……。
ありがとうございますっ!
名前はアレスだったか?
まずはその干物を
適度に焼いて持ってこい。
外に炭と金網が置いてある。
分かりましたっ!
あっ!
私もお手伝いしますっ!
んじゃ、
残りの2人は干物が焼き上がるまで
酒に付き合え。
飲めるんだろ?
よかろう!
オイラ、これでも強いんだぜ~?
ほぉ、それは楽しみだな。
こうして僕たちは、
バラッタさんに
話を聞いてもらえることになった。
ようやく一歩前進といった感じかな?
次回へ続く!