その後、
どうしても諦めきれなかった僕たちは
他の船舶会社を尋ねて回った。
ダメ元で漁師さんや
船を持っていそうな人にも当たってみた。

それでも回答は全て同じ。
ただでさえ危険な航海になるのが
明らかなのに、
見ず知らずの僕たちを乗せてくれる船なんて
どこにもなかった。

また、払える運賃が少ないからなのか、
中には鼻で笑われたり、
怒鳴って建物から
追い出されたりもしたしね……。

そんなこんなで時間はあっという間に過ぎ、
すでに太陽は西に沈んで
宵闇が広がり始めていた。


今日はさすがにここまでかなぁ……。
 
 

アレス

みんな、もう暗くなってきたし、
続きは明日にしようか?

ミューリエ

やむを得んな。

タック

オイラ、
もうお腹がペコペコだよぉ~。

シーラ

では、食事のできる場所を
探しましょう。

 
 
 
 
 
 
 
 

 
僕たちは町のメインストリートから路地へ入り、
そこで見つけた酒場へ入った。

この店は昨日、夕食をとった店と比べると
船員さんや地元の人たちが多いような感じだ。


ただ、
すごく賑やかで料理が美味しそうなのは
共通しているけどね。

手前のテーブルでおじさんが食べている
魚の蒸し焼き、
湯気に混じって伝わってくる
香草と磯の香りが最高だなぁ……。


思わずヨダレが出てきちゃった。
 
 

店員のお姉さん

いらっしゃいませぇ!
こちらのテーブルへどうぞぉ!

 
店員のお姉さんの案内で、
僕たちは店の奥にあるテーブル席へ通された。

そして適当に料理を注文し、
運ばれてくるのを待つ。
 
 

ミューリエ

……なぁ、アレス。

アレス

ん? どうしたの?

ミューリエ

今日の感じだと、
船が見つかる望みが薄いとは
思わないか?

アレス

うん、そうだね。
でも可能性が残っている以上、
できることは全てやらないと。

ミューリエ

もちろんそうだ。
だが、別の手段を考えておく必要も
あるかもしれん。

アレス

と、いうと?

ミューリエ

例えば、
予約した船でソレイユ大陸へ渡り、
向こう側から
あらためて船を探すとか。

タック

それはいいけどさ~、
その便だって、
順番が回ってくるまで
時間がかかりすぎるぞ?

ミューリエ

あくまでも一例として
挙げたまでだ。
あるいはシア方面へ戻り、
さらにその先へ進んで
この大陸の反対側から
海を渡るとかな。

タック

おいおい、
それならここで順番待ちを
した方が早いと思うぞ?

ミューリエ

文句の多いヤツだな。
ならばタック、
お前も何かアイデアを出してみろ。

タック

えぇっ?
急にそんなことを言われてもな~。

シーラ

あの、
タック様の召喚獣を使うというのは
いかがでしょう?

タック

どうするわけ?

シーラ

海や空の魔獣を呼んで、
背中に乗せてもらうんです。

タック

……フェイ島に着く前に
オイラの魔法力が尽きちゃうよ。
どれくらいの距離があると
思ってるんだ?

アレス

そんなに遠いの?

タック

風向きが良かったとしても、
船で2週間くらいかかるんだぞ?

アレス

えぇっ?

シーラ

海ってそんなに広いのですかっ?

タック

……そっか、アレスとシーラは
海について
何も知らなかったんだったな。
海ってのはとにかく広い。
この大陸なんかよりずっとな。

アレス

なっ!?

シーラ

…………。

 
僕の想像を遥かに超えていた。
海ってそこまで広いのか……。

広かったとしても、
せいぜい国1つ分くらいかなって
思ってたから。
シーラも驚いて声が出ないみたい。
 
 

アレス

じゃ、じゃあ、
ミューリエの魔法で
なんとかならない?
海を凍らせてその上を歩くとか。
あるいは剣で海をパカーッと割って
海底を歩いていくとか。

ミューリエ

……あのなぁ、
私にだって
できることとできないことがある。

アレス

ははは……だよねぇ……。

アレス

じゃ、
自分たちで船を用意するのは?
港にたくさん船があったでしょ?
どれか1つくらい買えないかな?

タック

あれは港の近くで
漁をするための船だ。
大陸を渡るには
もっと大きな船じゃないと、
波や風で転覆しちゃうよ。
それにフェイ島までは
最低でも2週間かかる。
つまり食料や水も
それだけ積まなきゃいけない。

シーラ

水なら周りに
いっぱいありますよね?

タック

あれは塩水。
あんなものを飲み続けたら
逆に喉が渇いて死んじゃうよ。

シーラ

あれって塩水なんですかっ!?
誰がそんなにたくさんの塩を
混ぜたんです?

ミューリエ

シーラ、
そういうことではなくてな……。

タック

……まぁ、神様とかじゃないの?
オイラもよく知らない。

アレス

ふーん、
海を渡るのって大変なんだね……。

はーっはっはっ!
なかなか面白い冗談を
話してるじゃねぇか!

 
その時だった。
隣のテーブルから笑い声と共に
誰かが声をかけてくる。


振り向いてみると、
そこには真っ黒に日焼けした水夫さんが
座っていた。
シワは深く刻まれていて、
体つきがたくましい。
 
 

水夫のおじさん

んぐ……んぐ……
ぷはぁ~!

 
水夫さんはジョッキでお酒を豪快に飲み干し、
大きく息を吐いた。


うっ、かなりお酒臭い……。

でも傍目には酔っぱらっているようには
見えない。
よっぽどお酒に強いんだろうなぁ。
 
 

水夫のおじさん

あんたら、船に乗りたいのか?

アレス

はい、そうなんです。
フェイ島まで。

水夫のおじさん

ぶわぁーはっはっ!
命知らずなヤツらだ。
そもそもなんであんな何もない島へ
こんな危険な時期に
行きたがるのかが分からねーよっ!

ミューリエ

私たちにも色々あるのだ。
酔っぱらいは話に入ってくるな。

水夫のおじさん

……へぇ。
ンなことを言っていいのか?
俺、船の当てがあるんだけどなぁ?

ミューリエ

なんだと?

アレス

それ、本当ですかっ?

水夫のおじさん

おうっ!
嘘をついたって
しゃあねぇだろうよ!

タック

おっちゃん、教えてくれよ~♪

水夫のおじさん

タダってワケにはいかねぇなぁ。
世の中には
情報料ってモンがあること、
知らねぇのか?

シーラ

あのっ、
その話は本当なんですね?

水夫のおじさん

ただし、その御方があんたらに
興味を持ってくれたらって
話だけどな。
こんな時期でも、
見ず知らずのヤツのために船を
出してくれるかもしれねぇ
ってんだから、
それなりに変わったお人さ。
気に入られるかは分からねぇぞ?

ミューリエ

……おい、店員の娘。
こいつに酒を持ってきてくれ。
代金は私が持つ。

店員のお姉さん

はーいっ♪

ミューリエ

情報料はこれでいいか?

水夫のおじさん

おっ、ねぇちゃん!
分かってるじゃねぇか。
ついでに今まで飲んだ分も
払ってくれると
ありがてぇんだけどなぁ。

ミューリエ

……やれやれ。
その代わり、
デマだったら承知せんぞ?

水夫のおじさん

ありがとよっ!
んじゃ、教えてやるよ。

水夫のおじさん

町を出て海岸沿いに
南へ行ってみな。
小汚ねぇ小屋がある。
そこに住んでる
元・船長のバラッタさんなら
なんとかしてくれるかもしれねぇ。
――おっと、
尋ねる時にはうまい酒と
イカの干物を
持っていくのを忘れるなよ?

水夫のおじさん

俺の名前はサム。
その手土産と俺の紹介だと言えば、
話くらいは聞いてくれるだろうよ。

ミューリエ

分かった。

アレス

ありがとうございますっ!
そうだ、一緒に食事をしませんか?
お酒代だけじゃなく、
ここの代金は全て僕が持ちますよ!

水夫のおじさん

おっ! ボウズ!
このねぇちゃん以上に
話が分かるじゃねぇかっ!!
気に入ったぜ! 名前は?

アレス

アレスです。

水夫のおじさん

そうか! よし、アレス!
お前は酒が飲めなさそうだから、
代わりにここの
オススメ料理を紹介してやるっ!

水夫のおじさん

――おい、エリーゼ!
じゃんじゃん酒を持ってこい!
それとスペシャル海鮮鍋を
アレスに持ってきてやってくれっ!

店員のお姉さん

ちょっとぉ、サムさん。
飲むのは勝手だけど、
ほどほどにしておきなさいよぉ?

タック

飲み過ぎは
身体に良くないもんな~☆

店員のお姉さん

いえ、そういう意味じゃなくて。

タック

へっ?

店員のお姉さん

この人、
どれだけ飲んでも酔わない人なの。
だから釘を刺しておかないと、
底なしに飲むから……。

アレス

えぇっ!?

店員のお姉さん

サムさん、
そっちのお客さんの懐具合も
考えてあげなさいよ?

水夫のおじさん

分かってるって!
コイツら、
そんなにカネを持ってそうには
見えねぇしな!
がはははははっ!

 
 
……最終的に、サムさんの飲食代だけで
5万ルバーもかかってしまった。
また魔法薬を作っておカネを稼がないと
いけないなぁ。

でも有益な情報が手に入ったし、
サムさんと楽しい食事ができたから
良しとしよう。
特に海に関してのことや
水夫をしている時の話は面白くて
興味深かったし。


さぁ、明日はバラッタさんに会いに行こう!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第33幕 酔いどれ男は救世主?

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