―タニリタ城下・外壁―
―タニリタ城下・外壁―
急ぐぜ!!
侵攻してる敵は前しか見えてねぇ!!
斬り込むなら真後ろからだ!!
強化魔法『俊足』と『韋駄天』
身体能力を増強させる魔法を重ね掛けると、体の強化は顕著になる。
この魔法の効果を説明するとき、人はこぞってこう説明する。
「足が速くなる」と。
なんともわかりやすいが、厳密には正解ではない。
「脚力強化」と「跳躍力の増強」
これが、二つの魔法がもたらす作用だ。
相変わらずスゲー加速だ。
この身であることを疑っちまう
走るという行為は、前方向への跳躍の繰り返しである。
前進の一歩一歩を大きくすれば自ずと目的地までの到着を速めることが出来る。
強化魔法『俊足』とその上位魔法『韋駄天』とはそういう魔法である。
そして、強化された跳躍は擬似的な飛翔を思い起こさせる。
邁進する中、見えてくるものがある。
視界の端から端へと広がるのは城壁だ。
タニリタ国の入り口であり、城下町を囲んでいる壁。
石を積み重ね、強固な要塞として侵入者を防ぐ壁。
くそっ!
持ちこたえられない!!
援軍はまだか!!
へっ!!
このまま一気に落しちまえ!!
しかし、城壁はその色を二つの色に染め上げられていた。
黒と赤。
煙と火だ。
そして城壁は、その役目を放棄しつつあった。
雨のような矢をかけられ、その合間を縫うようにしてにじり寄られていた。
城壁の上に立ち、それを迎え撃つ兵士もいる。
タニリタ国の兵士だ。
城壁に立ち、侵入者たちを排除しようと躍起になって奮闘している。
しかし、見るからに勢い負けしており、今もまた一人、弓矢を受け城壁から投げ出された。
陥落寸前。
そんな光景が眼前に広がっていた。
一秒でも早く城壁に近づきたい。
全身を投げ出すように跳躍する中で、ゼリィは叫んだ。
ソートク!!
やっぱ人の盗賊団だ!!
見えている!!
人が人を襲うか!?
美少女が主に心配だ!
人であろうと、悪魔に魂を売ればその限りではない!!
躊躇は不要、全力で斬り捨てるぞ!!
良い啖呵だ
だが、パーティ組んで初戦なのに、あの人数相手に怯まねぇのか、コイツは……?
ゆ、勇者殿!!
我ら四人しかおりませんが勝算はあるのですか?
まあ、そりゃもっともな疑問だな
変なことを聞く……
へ、変なこととは――
お前らだろう。
勝算は――。
!?
ほう……
あららぁ……
シュー、オレたち絶対の信頼置かれてね?
悪いことですか〜?
いや……。
前の旅じゃ考えられねぇな、ってよ
ですねぇ……
わ、私達が勝算って――
こ、答えになっていません!!
なら答えにすりゃいいんだよ!
ゼ、ゼリィ殿?
なぜ掴まれる?
死んでも恨むなよ?
てか死なないだろうし、恨むなよ?
ちょ、ゼリィ殿!?
降ろしてください!!
行ってこい、勝算一号!!
な・ん・で・す・と・お――!?
おー……よく飛ぶ
痛っ!!
な、なんだアンタ!
どこから来た!?
い、一応援軍です……
あららぁ〜。
無事上手くいきましたねぇ
……。
良いのか?
勝ち目があるとすれば挟撃だろ?
騎士ってのは、守る戦いに秀でてるんだ。
城壁の上が一番仕事がしやすいだろうさ
それに……アイツを巻き込まない自信がねぇ。ソートクも気を付けな
肝に銘じておく
な、なんだあいつらは!?
気付かれたぞ!散開!!
シューは右翼――
はいですよぉ〜
ソートク!!中央は譲れ!!
わかった!!左翼は俺が行く――
それじゃあ、また後で〜
シュー、死ぬなよ?
はいですぅ
ヴァルキリーも――
この程度で死ぬわけ――
――その美しい体を汚すな
え……
お前なら出来るだろう、ヴァルキリー?
その体を汚すこと、俺が許さん
わかったな!!
……お、おう
かー、全く……
面倒くせえ要求だな、オイ!!
こ、国王軍の援軍か!?
気にするこたぁねぇよ、たかが三、四人だ
それに、女がひと――
り……かぺ……
!?
返り血も浴びちゃなんねぇとはよ
面倒くせえ要求だしやる価値もねぇが――
かつてこれほど胸踊る要求があったか!!
来いよ、人の皮被ったバケモン共が!
くそ、攻城の手を緩めるな!! 女一人に、邪魔されてたまるかぁ!!
お前ら、オレが斧持っててよかったな――
斧の刃は、否が応でも一撃必殺――!!
どんな苦痛も、それと感じる前に死ねるぜ――!!
ぐぁ
ぐぐ……
おりゃあ!!
右手に携えた片刃の斧――。
一振り振れば、二人を殺し――、
二振り振れば、六人を屠る――。
気焔、上げるぜ――!!
ついてきな、盗賊ども!!
う……
やらせるかぁ!!
殺せぇ!!
いいぜいいぜ!
死体にしねぇとオレは止まんねぇぞ!!
その動きはまるで舞。
片手に持った斧で戯れる。
相手は自分を包囲しようとする盗賊たちだ。
多勢に無勢。
数じゃ負けてる……
だが、焦る理由にはならねぇよ!!
剣闘士、ゼリィの動きは早い。
黄金に輝く鎧を身に纏ってなお、だ。
まずは敵の攻撃を掻い潜る。
そして、飛び込んでくる攻撃の中で最も危険なものを瞬時に選ぶ。
――槍か!!
こちらを、真っ直ぐ貫かんとしている槍がある。
勢いは良く、突きに迷いは感じられない。
鋭い!
良い突きだ
槍がこちらに到達する前に無手の左腕でそれを掴む。
片手で攻撃を受け止められ、持ち主が驚愕する。
な、なに!?
よっ――
その驚愕の顔を確認するよりも早く。
瞬時に左腕を主軸に、体を前に飛ばす。
勢い良く前に飛び出し、盗賊をすり抜ける。
おりゃ!!
ぐもっ……
まだまだ!!
盗賊の横をすりぬける過程で一人の首を撥ねる。
振り向くと同時に、一瞬にしてこちらを見失い隙を作った二人の頭を断つ。
その繰り返しだ。
姿勢は常に低く――
動きは最低限に――
握力だけは全力!!
そうすれば、自ずと敵は死体となる。
こちらを囲み、討とうとする敵を返り討ちにする。
敵は多い。しかし、それ故に密集する。
同士討ちを恐れる敵の動きは結果的に鈍化する。
しかし、こちらは同士討ちの心配はない。
目に付くものを斬ればそれで事足りる。
よっと――
背負ったままの大斧までも武器にする。
カバーを外した剥き出しの大斧を回避の動きで、敵に押し付ける。
強く固定している大斧はそれだけで立派な武器だ。
な、なんだこいつは!?
常識を逸した殺戮と曲芸じみた動きを見せたものだから、周囲の敵は止まってしまう。
動きを止めた敵はあえて無視し、混雑を作る要因とする。
歯向かってくる敵を断つことだけを念頭に入れる。
あと、体を汚さないこと!!
しかし、それは杞憂に終わった。
理不尽にも似た暴と武の嵐に晒されて。
盗賊たちに、戦意など残っているわけも無かった。
ろくに剣も触れず、槍も持てず殺されるか、無様に逃げることしかできなかった。
っち、攻城もままならねぇ……。
一旦ずらかるぜ!!
おいおいこの程度かよ……
ま、盗賊なんてこんなもんか……
逃げる敵に向かって、自分が作り上げた死体から剣を拝借して投げつける。
十人ほどの盗賊に刺さったところで、手元に無事な剣が残っていなかったので、仕方なしと手を止めた。
気を付けてください〜
痺レロ……
貴様ら!!
同じ人間でありながら、何故美少女の顔を恐怖で染め上げる!!
死ぬ前に今一度恥を知れ!!
どっちも、もうそろそろ終わりそうだな……
ぐぁ……。血が……
お、生き残りか。
運がいいなアンタ
あ、あんた……後生だ……。
か、彼女に……愛してくれと、伝えてくれ……
自分で言え。
三日後には治る傷だろそれ。
太腿に矢が刺さった程度じゃねぇか。
それに城壁から落ちて死んでねぇってことは、盗賊の真上に上手く落ちれたんだろ?
ま、まあそうなんだけどよ……
なんにしても、助かった。
アンタら強ぇんだな
まーな
それより、この国の現状を聞きたいんだが。説明してくれねぇか?
今かよ!?
俺、負傷兵だぜ?
ソーリヨイの街に、駐屯兵がいない理由は、やっぱり盗賊が関係してんのか?
なんだ、ソーリヨイから来たのか……。
その通りだ。
今タニリタは、他の街にほとんど兵を割けない……
やっぱりな……
痛てて……。
なあ、詳しくは後で話すから、手を貸してくれないか?
お、ワリぃな。
ホラ、手 貸せよ――
ぴちゃ?
あ、お前!!
傷抑えてた方の手出したろ!?
え?
そう言われりゃそうだな
あーあ……汚れちまった……
ソートク……
いくらなんでも、味方の返り血はノーカンだよな?
ソートクとの約束を危惧する。
あんなのは、大した意味を持たない口約束でしかないと言うことは分かっている。
だが、どんな軽口であっても。
あの勇者からのお願いは、どうしても守ってみたい気持ちがあった。
ぜぇ……ぜぇ、はぁ……はぁ
あ、あの……
た、助けて頂き誠にありがとうございます!!
ぜぇ……いえ、お気になさらず……はぁ
しかし、どのような魔法を使ったのです?
城壁の上に飛んでくるなんて、天使かと思いました!!
そこには触れないでください!!
――……