―ソーリヨイ〜タニリタ城下―

ソートク

両の目を癒さんと、緑が華やいでいるな。

ヘキサポリス最南の地、深緑の大地。

その名の通り、大地一面に草が張り巡らされ、草木が生い茂る大陸である。

清い森を通り抜けた風も澄んでいる。

のどかで、時間の流れもゆったりした緑の地は、実に平和である。


野盗の襲撃があったソーリヨイの街から一日弱しか歩いていないのに、目の前には大自然が広がっている。

魔物の侵略が激しい他大陸では考えられないだろう。

深緑の大地に出てくる魔物は人の生活を脅かし、自然を貪るほどの脅威では無いからだ。

出てくる魔物は、刃物一本あれば撃退出来ることが多い。

ゼリィ

わー。
魔物だー。

シュー

このままではー。
まずいですー。

パッフ

真面目にやってください!!

パッフ

とは言っても、この程度ですか……。
空間の歪みに、迷い込んでしまったのでしょう

魔物がヘキサポリスに侵入してくるのは空間の歪みを利用する必要がある。


人間がそれを阻止することは出来ない。

しかし、魔物側も空間の歪みの扱いには苦労しているらしい。

意図的に空間の歪みを作り出す手段は困難に近く、方法も限られているというのだ。


また自然が多い故に、魔力が希少なこの大陸自ら強力な魔物を拒んでいた。


例外はあるだろうが、魔物は強さに比例する量の魔力を体内に宿している。

それが外気に含まれる魔力と共鳴する時、力は増量する。

逆に魔力が微量、もしくは皆無な地では力が半減する。

ゼリィ

よっと

ゼリィ

すまねぇな、弱くても ほったらかしには出来ねぇのよ

ゆえに、『深緑の大地』に来る魔物は。


偶発的に来た弱き魔物が大多数を占めるのである。

ソートク

なるほど。だから弱い魔物しか現れないのか

シュー

ですぅ

ソートク

野盗はそれなりの実力者であったと言うわけか

シュー

正確には理知的でないものは魔獣に分類されるんですけどねぇ

シュー

なんにしても恐れるほどの相手は出てこないと思いますよ〜

ソートク

なるほど。
この程度の魔物であれば、俺のハーレムの脅威にはならんのだな。

パッフ

ですが、油断は大敵です

パッフ

安易な考えと、野蛮な野望を持ったまま死にたくなければ注意することです

ソートク

肝に銘じておこう

ゼリィ

でも、コンパスとドーナツ間違えた奴が言うか?

シュー

ですぅ

パッフ

なっ!?
なぜそれを!?

ゼリィ

あ、やっぱり間違えてたんだな。
これではっきりしたぜ

パッフ

しまった!?
カマを掛けられました!?

シュー

どうして間違えたんですか〜?
焦ってたんですかぁ?
この際、掘った墓穴を広げましょう〜

ソートク

ドーナツ?

パッフ

な、何でもありません!!

パッフ

それより、どんな魔物が出るか分からないのです!!
用心に越したことはありません!!

ゼリィ

誤魔化すにしても下手だな

ゼリィ

ま、なんにしても、オレたちなら平気だろ

ゼリィ

しかし、ソートクが勇者偏差値45とはな

シュー

駆け出し勇者の中では間違いなくトップクラスですよー

ソートク

対比する相手がいて初めての数値化だ。
勇者の俺が一人の この場では大した意味を持たん。

ゼリィ

謙遜するねぇ

ソートク

それに美少女ハーレムの強い助けになるわけでもなし……

パッフ

……

シュー

しかしぃ、高くて困るものでもないですよぉ?
勇者偏差値45は誇るべきですぅ

シュー

ねえ?
パッフさん?

パッフ

え、ええ

パッフ

確かに……。
目も当てられない野心に気を取られがちですが……

パッフ

私を助ける際、左腕が機能しないのにも関わらず、披露したあの戦闘力……

パッフ

相当の実力者なんですよね……。
私以上に強い可能性もあります……

パッフ

勇者殿が持たれている野望が偏差値に関与していないことには納得できませんが……

ゼリィ

まあまあ

ゼリィ

しかし、驕らないスタンスは保っておいた方が良いかもな

ソートク

どういうことだ?

シュー

どれだけ活躍してもぉー。
ここが『深緑の大地』だと言うことですぅ

ゼリィ

そんなに強ぇ魔物が出てこないのは平和でいいんだけどよ

ゼリィ

だからこそ、『深緑の大地』出身の勇者は、同業者から誹りの対象になっちまうんだ

ソートク

くだらん。
他者と競う職ではないだろうに

パッフ

ハーレムを目指す職でもありませんからね?

ソートク

肝に銘じておく

シュー

まぁ、あくまで目安程度に考えておきましょ〜

ソートク

はなから そのつもりだ

ソートク

それより、今日中にはタニリタの城下に辿り着きたいが、可能か?

ゼリィ

夕方前には着くんじゃねぇか。
馬車を買うんだろ?

シュー

長い旅路になりそうですからねぇ

ソートク

お前らが馬車を持っていなかったことに驚きだ

ソートク

旅慣れているものと思っていたが……

パッフ

買おうと進言していました……

ゼリィ

だって、三人の時は本腰入れる旅になるとは思わなかったからな

シュー

それにぃ、ソーリヨイの街は、馬車の修理屋は多かったですけど、馬車屋自体はショボかったですしぃ

シュー

キャラバンが扱ってないんですよぉ

ソートク

キャラバン……?
たしか、大型の馬車だったか?

パッフ

御身のおっしゃる通りです。

パッフ

馬車には バギー、キャラバン、コーチと大きく分けて三つのサイズがあります。

パッフ

バギーは馬一頭で一人乗り用。

キャラバンは馬一頭で幌付き。

コーチは四頭の馬が必要です。

パッフ

四人旅でしたらキャラバンで十分でしょう。

ゼリィ

どうせならチャリオットが欲しいんだけど……

パッフ

戦闘用馬車買ってどうするんですか?

ゼリィ

どうせなら斧コーティングしてよ。
アックスチャリオット!!

シュー

機動力を犠牲に、破壊力向上を図ってますねぇ

パッフ

本末転倒です

ソートク

幌(ほろ)付きの馬車であればいい。

ソートク

それに今は四人旅だが、いずれ三ケタを超える美少女をだな――

パッフ

――

ソートク

そう凄むな。
そう睨むな。

パッフ

なんにしろ、タニリタの城下町なら買えるでしょう

シュー

同時に、旅支度もしっかり整えたいですねぇ

ゼリィ

じゃ、オレ酒場めぐる〜

ゼリィ

ついでに、情報収集。
ソーリヨイの街に国王軍が遅れたのも気になる……

ゼリィ

領土の街が襲われたのに、翌日救助隊と復興用の兵しか よこさなかったのは何故だ?

ソートク

では馬車は俺が選ぶとしよう。

パッフ

御身一人に任しきれません。
私も随伴いたします

ソートク

お、おう……

パッフ

持ちが良い物を選ばなければなりません。
決して安い買い物ではないのですからね。

ソートク

ふむ……。
物によっては家と同等の値段を取られることもあると聞く。

ソートク

勇者の権威で少々勉強してもらいたいものだな

シュー

あららぁ……職権乱用ですよぉ

ゼリィ

タダで勇者になったんだから、それくらいは目を瞑れよソートク

ソートク

いや、別にタダで勇者になったわけではない

パッフ

勇者になるために、血と汗を流したとでもいうのですか?

ソートク

流すか。
言葉通りの意味だ

パッフ

え?

ゼリィ

どういうこっちゃ?

ソートク

勇者になるのに多少なりとも金を費やしたと言っている

パッフ

ええ!!

パッフ

まさか御身は、勇者の権利を金で買ったと言うのですか!?

ゼリィ

袖の下か!?
いくら包んだ??

シュー

裏口入学〜♪

ソートク

違う。

ソートク

ヘキサポリス勇者学校に通っていたのだ

パッフ

……

ゼリィ

……

シュー

……

ソートク

入学金と学費が高くてな。
完全寮制度のおかげで、金がかさむ――

ソートク

それでいて勇者になれる確率が上がるわけでも無い学校だからな――

ソートク

って、聞いているのか?

ゼリィ

うっそ、お前 勇者学校通ってたのかよ!?

ソートク

その通りだが……?

シュー

合格率一ケタ。
進級率ですら40%きるって聞きますけどぉ……?

シュー

それこそ裏口入学を邪推してしまいますぅ……

ソートク

邪推には応えられん。
正式に入学し、正式に卒業したぞ?

パッフ

エリート中のエリート……。
卒業すれば、どこの騎士団からも引っ張りダコと言われる……

パッフ

そして私が落ちた学校……

ソートク

確かに同窓生は、就職先を持て余していたな

シュー

ついでに、ソートクさん……。
今、おいくつですかぁ……?
ご入学時の年齢も聞いても〜?

ソートク

たしか、18だったか……?
入学したのは13だと思ったが

ゼリィ

てことは、現役生で入学!?
そして最短で卒業!?

パッフ

「なんで村人Cの僕が勇者に!?」の宣伝で有名な『勇者塾・三谷学院』に通っていた私が落ちた学校……

ゼリィ

お前、英才教育だったんだなぁ……

シュー

親御さんが厳しかったんですか〜?

ソートク

いや、行こうと思ったのは俺の意思だ

パッフ

あの不死身の聖剣使い、ハロルド騎士団長の御出身……憧れた私が落ちた学校……

ゼリィ

人は見かけによらないんだなぁ

シュー

でもぉ、ソートクさんなら何となくぅ、納得できますね〜

パッフ

強靭な肉体に、不屈の精神……。卒業したものは次世代を担う英雄……

ソートク

卒業校が美少女ハーレム達成の手助けになってくれれば良いと思ったのだがな――

パッフ

私の中で勇者学校のイメージが崩れていく……

ソートク

出身で男を判断するような美少女は美少女にあらず。
それに気付くのが入学前であれば、別の学校を選んでいた

ゼリィ

あくまで選択肢の一つだったのか……

パッフ

私は落ちたのに……

シュー

パッフさん〜。
木と談笑するのもほどほどにぃ〜。
そろそろタニリタ城下町に付くんですからぁ。

パッフ

この際、聞かなかったことにしましょう……

パッフ

でないと、頭が爆ぜかねません……

パッフ

そ、そうですか

シュー

もうそろそろで見えてくる頃と思いますよぉ

ソートク

む……?

パッフ

どうしたのですか勇者殿?

パッフ

勇者学校出身というのは尊敬に値しますが、それと御身の野望は――

ソートク

煙か

パッフ

は?

ソートク

この時期のタニリタ国は、意図的に何かを燃やす行事などを催していたか?

ゼリィ

知らねぇけど……あっても不思議じゃねぇが――。
不穏だと考えた方が良さそうか?

シュー

この距離から見えるんですかぁ……

ソートク

今は、自己強化魔法「遠見」「透視」を使っている……。

ゼリィ

魔法の心得もあったのかよ

ソートク

才覚は無に近い上、ほとんど役に立たないがな

ソートク

これで三日は魔法が使えん。

シュー

精霊さん――

シューの守護精霊

ワレ……見エル……火!!

シューの守護精霊

火事……チガウ……誰カガ……燃ヤシタ

シューの守護精霊

祭リ……チガウ……人……逃ゲテル!!

パッフ

ま、魔物の襲来ですか!?

ゼリィ

おいおい、魔物が『深緑の大地』の真っ昼間に来るかよ

シューの守護精霊

魔物……チガウ……ニオイ……シナイ!!

パッフ

まさか、人の賊ですか!?
勇者殿――!!

ソートク

分かっている!
行くぞ!!
ただ事ではない!!

ゼリィ

だな、誰が相手でもカンケーねぇ!!

パッフ

駆けます!!
皆様に強化魔法「俊足」を!!

シュー

ついでにぃ、「韋駄天」の重ね掛けですよぉ

パッフ

こ、これはシュー殿……。
下位魔法しか出来ずお恥ずかしい……

シュー

いえいえ〜。
一人では重ね掛けは出来ませんからねぇ、助かりますぅ

シュー

精霊さん〜。
追い風頼みますぅ

シューの守護精霊

ガッテン!!
風ヨ……主タチ……運ベ!!

ソートク

凄いな……。
身が軽くなったと紛うぞ

ゼリィ

良いもんだろ?
あの二人の補助魔法

ゼリィ

オレは武働きで応えてやるぜソートク!!

ソートク

頼りにしてるぞヴァルキリー

ソートク

聞えてくるのは、馬の蹄が激しく大地を穿つ音。
助けを求む声、仇なす相手に浴びせる罵詈雑言――

ソートク

そして、美少女の叫び声!!

強化された聴覚が捉えるのは、美少女の懇願。

それを、それだけを頼りにソートクは前進した。

――……

18、 ソートク 出身校は勇者学校

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