速水の提案で、私達はゲームに対するやり方の意見交換を始めることにした。
慣れた様子で見知らぬ私達を纏めていく速水。

まずは、主義主張の固まっている人から聞きましょう
住吉、どうせ決まっているだろうから、あなたから

真澄

そんなこったろうと思ったけどね……

最初に参戦を言い出した私に振る速水。
流れ的には当然だろうと私は何も言い返さず、決めていた言葉を吐き出す。

真澄

私は自分のことで精一杯で、あんたたちのことまで気を遣う余裕はないわ
それに、早くここから出たいの
ゲームは速攻で終わらせたい
だから私は必要なら誰にだって投票するし、誰とも組まないし、助けないし、庇わないつもり
途中で変わるかもしれないけど、現状況ではそうとしか言えないよ
死にたくないのは皆同じだろうけど、私は自分が大事だから、自分だけを優先する

成程
確認するけど、住吉はゲームに従って円滑に進めていくのね
……その途中で、誰が死のうとも

真澄

そのつもりだよ
一々構ってられないし、そんなんじゃ何時までも続くだけでしょ
長引けば、死人が増えるのは目に見えている
下手に逆らって殺されるくらいなら、黙って従ってるほうが利口
私の生命は奴の手の中だから、反撃も無理
……下手すれば、私が追放されて死ぬ可能性だって十二分に有り得るけど……

自分の死のリスクもしっかり考えてた上で、ね……
分かったわ

速水は私のやり方を聞いて頷き、次に考えの固まっている奴を挙手させる。
手を挙げたのは、あの根暗そうなメガネだった。
木島平とか言ったはず。

俊介

僕は住吉さんと同じです
他の人間のコトなど知ったことではない
僕は僕の流儀で、ゲームクリアを目指します
たとえ何人死のうが、僕には関係ない

私と似たような理由で、他人の死を踏み越えると彼ははっきり明言した。
そこからはもう、誰も手を挙げない。
仕方なく、速水の言うとおり何でもいいから言えということで順番に意見を述べる。

和樹

俺は……一人でも多くが確実にクリアできる方法を探したい
それがどんな方法か、正直見当もつかないし、きっと誰かは死ななきゃいけないんだろうけど……
俺は、そうするつもりでいる

不動がそう言うと、同感と速水は言う。

不動も私と同じ考えなのね
私も一人でも多く助かる術を取りながら進めるつもりよ

私や木島平。
不動や速水のそれに対して、否を唱える奴も当然いる。

優作

俺は全員を助ける方法を見つけたい
死人は出したくないんだ

愛衣

わたしも、門崎先輩と同じです!
誰にも死んで欲しくありません!
どんなことをしてでも、みんなが助かる方法を探します!

あの二人に賛同するように、三人ばかりが肯定した。
その言動に舌打ちをする奴もいる。
速水に意見を述べている最中は横槍を入れるなと言われている。
ここはあくまで意見の交換であり、討論会ではない。
言い争いになるのは目に見えているので、余計な争いを防ぐための処置だ。
頭が良いと認めざるを得ない。
あの速水という女は、かなり厄介だと私は思う。
……願わくば、こちらの陣営であることを祈りたい。
あとは、どうすればいいのか分からないという意見が多数。
私と同じなのは木島平のみ。
冷静に見ているのは速水と不動。

真澄

で……?
そっちで不貞腐れた顔の子と、みつあみの子はどうしたいの?

私が話を振ると、ずっと黙り続けていた二人のうち、不貞腐れた猫のような顔をした女の子――確か文月とかいう女の子は言う。

あや

別に……

どこぞの芸能人のような態度に、不信感が一瞬で高まったのが分かった。
あいつは、的確に、話し合いを放棄している。
もう一人はビクビクしていて、そもそもが何か言えるような精神状態ではなさそうだ。

海音

あ……ええと……その……あたしは……

泣きそうな顔。
こいつも論外。見ればわかる。
戸惑っているに過ぎないと。

全員意見を言ったわね
予想通り、見事にバラけた訳だけど……

残念だけれど、全員の方針が違いすぎる
これは、ゲームマスターの意向通り、私達で争うしかないわね……

本当に残念そうに、彼女はそう告げた。
緊迫した空気が張り詰める。これは、ゴングが鳴ったに等しい。
この瞬間から、道を違えた私達は、それぞれのやり方で、人を殺して、勝ち残る。生き残る。
それしか、もう道はないと周りは判断しただろう。
……私は、生き残るためではない、唯一のイレギュラーな存在として、彼らを追い詰めて、弄んで、最期に裏切ることとしよう。
私は呆れたようにその言葉に反論する。

真澄

むしろこの状況で意見がまとまるほうが不気味よ
速水の上手に纏め上げた手腕は認めるけど、これ以上はもう無理よ
……話し合いは無駄、やることはゲームという殺し合い、それでいいでしょう?
自分に殺人の感触がないことと、免罪符と大義名分がある以上、誰もがきっと容赦しないわ
……逃げる道は死ぬことだけよ

和樹

認めたくないけど……堅実に行くには、それしかねえ

不動も本当に渋々だが、現実に妥協したのか……あるいは諦めたのか。
そう、呟いた。
それでも諦めないと門崎と湯野が言い張る中、木島平がテーブルを殴って彼らを萎縮させた。
ルールでは明確な暴力は禁止されている。
しかし自分がモノに当たること、言葉で恫喝するのはルール上、認められている。
早くも彼はこの状況に適応している

俊介

意思の弱い人や甘っちょろいことを言う人、迷いに迷うような弱者はとっとと死んでください
生きているられるだけ邪魔です
弱肉強食、強い意志を持つ人間だけが、今ここで生きていていいのですよ

優作

お前ッ……!

門崎が怒気を含む声で立ち上がった。
まだ覚悟の決まっていない他のメンツが怯えたように耳を塞ぐ中。
先制攻撃をかましたのは木島平。

俊介

僕にだってねぇ、どうしてもやりたいことの一つや二つはあるっ!
生きて帰れなくては、それすら満足にできやしないッ!
自分一人のつまらない正義感で他人を巻き添えにして偽善者ぶるあんたには理解できないだろうけど、僕はそれに生命をかけて取り組む覚悟があるんだッ!

優作

他人の生命を犠牲にしてまでやることが正しいとでも思っているのか!?
消えないはずの生命の責任をお前がどうやって取るつもりだ!

俊介

責任ッ!?
なぜ自分の生きる為に行なった行為の責任をとらないといけない!?
あんたの言い分はおかしいんだよッ!
自分だけが正しいとでも言いたいようだが、僕はそうは思わないっ!
あんたのそれはただの偽善だっ!

優作

人として当然のことを言っていることの何がおかしいっ!?
この倫理の崩壊した状況だからこそ守るべきものがあるだろうと俺は言っているだけだ!

俊介

ああ、本当にイライラするッ!
その上から目線の言い分が気に入らないんだ!
あんたの自己陶酔にはうんざりしているんだよッ!

……段々、言い争いがヒートアップしてきている。
速水と不動は、黙って行く末を眺めているだけ。
怯えている集団に、我に帰り門崎に加勢するほかのメンツ。
これは木島平が不利。
これで終わればいいが、木島平も引かずに真っ向から対立する。
奴の指摘は確かに間違っていない。
あいつらの甘さが、偽善が、現実で人を殺す可能性を誰が否定できる。
そのツケを受けるのは、戸惑っている彼らに違いない。

真澄

ウザい……

愛衣

うざい!?
うざいってどういうこと住吉先輩ッ!

私がぼそっとこぼした独り言を、湯野が耳聰く拾い上げて、私まで巻き込んだ。
私は捲し立てる湯野をスルーして考える。
もうこの下らない争いを止める術を、思いついた。
いい感じに対立させて、盛り上げる方法を。

真澄

揉めるなら、いっそ殺せば?

俊介

ッ!?

優作

なっ!?

驚く彼らに私は下らないふうを装い、苦笑して指摘。

真澄

だから、殺せば?
気に入らないなら、そうすればいいでしょ?
自分がそういう役職を持っていれば、殺せるじゃん
確率はそう高くないわけだしさ
こんなとこで口で争うよりも、狼が殺すか明日の昼間に追放なりされるんだ
口で言い合って空気最悪にするよりは、白黒ハッキリするよ
あと、もっと言うとうっさいのよあんた達

私はそう言って立ち上がる。
そのまま出口に向かうと、誰かが私に声をかけた。
待て、と。
振り返る私は嫌そうに顔をつくる。

真澄

話し合いは終わったでしょ?
意見交換もした、名乗った
これでもう集まってる理由はないし、あとその二人がすげぇ五月蝿いから私は部屋に行くのよ

ま、マイペースねあなた……

真澄

恨み辛みで殺し合いしたほうがまだいいじゃん
よく考えてみりゃ感情的になったほうが、後々で後悔とかも薄そうだし……
殺したいから殺す、気に入らないから殺す
それだけで意外に頑張れるんじゃないかな
悲しいけどさ、これがこの場所の現実だしね

私はもうここから切り上げる。
必要なことは全部行なった。
対立を煽り、やり方も示唆してみた。
その結果、私が死ぬ確率は大幅に増した。
まあ、初夜に死んだら死んだだ。
元より死ぬことが目的。
早く死んでもそれはそれで共犯者として盛り上がりに貢献しただろう。
今の私に、怖いものはない。

真澄

そんじゃあね、また明日
生きていたら、会いましょ

私は呆然とする彼らを尻目に一人部屋を出た。

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