私達は一方的にゲームマスターにあれこれ言われて、最後に告げられた。

ゲームマスター

それじゃ、役職を決定させてもらうよ
自分のブレスレットを見るといい

言われたとおり、各々ブレスレットの液晶画面を見る。
そこには何かのシンボルが浮かんでいた。
私のは……ナイフ? だろうか。

ゲームマスター

今、そこに浮かんでいるのが其々の役職になるんだ
わからないだろうから、説明するよ

まず、シンボルが何も浮かばないのが村人。
虫眼鏡のシンボルは探偵。
弓矢のシンボルが狩人。
楯のシンボルが警備兵。
爪のシンボルが狼。
ナイフのシンボルが殺人犯。
銃のアイコンがテロリスト。
眼鏡のシンボルが内通者。
携帯電話のシンボルがストーカー。
王冠のシンボルが村長。
以上だそうだ。

真澄

私は……ああ、殺人犯か……

奴は言ったとおり、私に有利な役職を与えた。
自分の意思だけで人を殺せ、盛り上がりをできる役職。
つまりは殺人犯が適任ということか。
役職は内訳は、村人が6、狼4。
そこに探偵が3、狩人と警備兵は一人。
殺人犯もテロリストも内通者も一人。
村長とストーカーも一人。合計、20人。
この時点で、はっきりしたことがある。
私は確認するように問うた。

真澄

最小なら探偵3人を殺せばいいのよね、ゲームマスター
それなら、最短三日もかからずに終わる

私がゲームマスターに問うと、周囲の目線が集まる。
この質問を投げたのは理由がある。
その視線を素早く見る。確認も込めて、反応を伺いたい。
その視線の色によって、どういう役職なのか推測する材料になる。
今しかないチャンスだ。
私が探偵を最短で殺すと言うと、一部の人間が私から目を逸らした。
7、11、20の三人だ。成程、目を逸らして睨まれることから逃げた。
分かりやすい逃げ方だ。
奴らの可能性もある、と覚えておくことにする。

ゲームマスター

うん?
別に探偵だけじゃなくて、好きなだけ殺していいよ?
ゲームルールに乗っ取っていくと、それが一番早いだけで村人の全滅でも狼の全滅でもどれでもいいわけだし?

真澄

挑発してるなら時間の無駄よ
言ったでしょう、こっから早く脱出したいって
なら最短目指して殺すだけよ
死にたくないそれが正解でしょ

私の言葉に、私はすぐにクリアを目指していると周りにアピールする。
あくまで私一人がグレーで、だが。

真澄

私は、人殺しをしたいわけじゃない
……自分の為に、他人を捨てるだけ
喜んでいるとでも思った?

ゲームマスター

へぇ? 違うのか?

真澄

違うわよッ!
ここから出たら、あんたを真っ先に殺す!
絶対に殺すッ!

噛み付くように、ゲームマスターに怒鳴る私。
これで、本当に全てを敵に回した。
多分、初夜に狙われる可能性も出てきただろう。
悪い意味で目立つ自覚はある。これでいい。
狼でない以上、狙いが分からず言動が危険なグレーは刈り取るべきだ。
私ならまっ先にそういう奴を狙う。

真澄

説明は終わったんでしょ?
なら、とっとと消えなさいゲームマスター……
私の生命を遊びに使った代償は、あんたの生命で払ってもらう

ゲームマスター

やれやれ、おっかないね……
じゃあ、生活ルールも言ったし、ゲームルールも言った
あとは好きにしていいよ
そうそう、常時監視してるのを忘れないでねー
無理やり脱出しようとかしたら殺すんでよろしくー

私の唸るような声に、彼は笑いながら通信を切った。
残された私達は、妙な静けさの中、佇む。
奴の話によれば、私達には夜、個室が与えられている。
あとは基本、ルール違反しなければ時間帯をどこで過ごそうが自由だ。
一日に一回、昼間のお昼にここに集まり、誰を追放するか……要するに吊るかを相談して、投票しなければいけない。
それを守りさえすれば、ゲームは粛々と進んでいくだろう。
夜の部は、きっと何か別にまた説明でもするだろうし。
素人の狼が動ける訳もないので茶々を入れつつ進めると見た。
今日のところはまだ、昼間は始まらないのでやることがない。
部屋の鍵はもう開けられているし、出ようと思えば多分いける。
……でも、誰も動かない。
みんな、周囲を伺っている。
ここで出ていこうとすれば、それは議論の破棄。
悪いを通り越して、まっ先に死ぬ。
村人には吊られて、狼には殺される。
安易な事は誰もしない。
どういう動きをするか、見定めようとしているのだろう。
こんな状況だ、そうするのが正しい。

真澄

で?
あんた達、黙って牽制し合ってどうしたいわけ?
そうやって周り見たって、初対面同士なんだから、分かることなんてないでしょ?
情報戦すらまだ始まってないのよ?

私は投げやりにソファーに座って、気怠い感じで彼らに話しかける。
多少、頭を冷やした風を装いながら。

真澄

まぁ、目を付けられた私は嫌でも知られたけどね……
ゲームマスターも言ってたけど、私は棺桶に片足突っ込んでる半死人なのは事実よ
下手に情報は与えなくなかったのに……余計なことしてくれるし……

私はそれでも虚勢で周りに威嚇をする。
知られた以上は、同情的な視線が混ざり始めているのが分かった。
明らかな憐憫がそこにはある。
どうやら、私の言動の理由は納得してもらえたようだ。

そんな中、挙手して発言をする意思を見せた者が出た。
あの涼し気な表情の黒髪少女だった。

問われる前に礼儀として名乗っておくわ
私は速水凛、17歳よ

黒髪の彼女――速水凛と名乗った彼女は、私を見て言いにくそうに聞いてきた。

それで……ええと……18番
聞き辛いことなのだけれど……
貴方の病気は、本当に治らないの?

何事かと思ったら、そんなことか。
私は速水の顔を見て、だるそうに言う。

真澄

私は住吉真澄よ、13番……じゃない、速水だっけ
質問に答えると、私の病気は医者がとっくにサジを投げてる
出来るのは進行を気休め程度に抑制するぐらいかな
あと一年もしないで死ぬのは確実だってさ

軽く自己紹介をして、これ以上敵意を出さないように、投げやりに素の態度で言う。
そう、これに関しては偽る必要はない。

真澄

どうせ死ぬわ……
足掻いても……縋っても……

そう……
治らない難病……事情は大体察したわ

真澄

そりゃどうも……
で? あんたは何?
私のかわりに死んでくれるわけ?

私の言葉を、彼女は冷静に否定した。

悪いけど、そういうつもりはないわ
ただ……自棄になるのは理解したし、必要なら殺すという気持ちも否定はしないわ
でも、先程の言動はあまりに理性的じゃない

真澄

健康体のあんたに何がわかるのよ? 
……理性なんて保てると思うわけ? 
明日死ぬかもしれない恐怖を、ずっと味わってる人間が?
……巫山戯たこと抜かしてんじゃないわよ、あんた何様?
上から目線で下の人間を見つめて指摘してそんなに楽しい? 
よかったね、優越感に浸れる相手を見つけて

私の行動に自棄のような気配でも感じたのだろう。
警告のような感じで私に告げる。
反撃のように食いつくと、直ぐ様速水は詫びを入れた。

……ごめんなさい、失言だったわ

真澄

謝んなら、最初から聞かないでよ……
余計、惨めになるでしょ……

すんなり謝罪され、苛立ちを感じたが私はあえて沈んだ様子で流した。
……自分が入ってはいけない部分に入ったらすぐに謝る奴は、大抵指摘する前に理解して口にしている。
先んじて謝る言葉を考えてあるからすぐに出るのだ。
それが、ムカつく。

真澄

まあ……いいわ
あんた達も、軽くでも自己紹介くらいしておく?
これから殺し合いをする人間の名前なんて知りたくない奴はそれでもいいよ?
その代わり、狙われる確率は上がると思ったほうがいいけど

住吉、だったわね
あなた、余計な挑発は痛々しいからやめておくべきよ
それは兎も角、私と彼女は名乗ったわ
ほかの人も、名前くらいは明かすべきだと思うけど?
……それとも、名前を知ると後で罪悪感が出るから名乗らない?
他人なら殺せるけど、名前を知ると顔見知りになるから、いや?

速水はそう言って一瞥する。
意外にこいつは冷静に物事を見ている。
もう、理想を捨てて現実的に今の状況を見ているフシがあった。

真澄

他人だから楽に殺せるとか、甘い考えはやめたほうがいいよ
腹をくくってもどうせ後悔するのは変わらないんだからさ
どの道、死人が出なきゃ私達はここから出られない

住吉の言うとおり
ここまでだいそれたことをしておいて、ドッキリとかで済むなんて楽観的に思わないで
これは、確実にデスゲームなのよ

私も自棄と称した割に、考えは賛同するようだ。
速水と私の態度に三者三様の態度をしながら彼らは名乗る。

俊介

僕は木島平俊介と言います
年は18、高校三年です

あや

文月、あや
15で、高一……

海音

小田……海音……です
ええと、17歳、高校二年です……

愛衣

わたしは湯野愛衣
16の高校一年生
よろしくね

優作

門崎優作という
18の受験生だ

和樹

俺は不動和樹
15歳、高校一年生だ

各々名乗る。
やはり高校生だけだった。
私と年代の近い彼らは、名乗るが有効的空気は見せない。

真澄

自己紹介は終わったし、どうする?

私が誰となく問うと、速水が切り出した。

それぞれの考えを聞きましょう
ゲームが始まる前だから丁度良いわ

彼女の言い出しにより、私達のそれぞれの考えを、打ち明けることにした。

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