思えば数奇な運命だったと思う――
勇者は魔王に呪いをかけられ、
その死にやすさ故に同じ道を何度も繰り返し歩むことになった
だがしかし、
ただ一つ、その不遇を不遇のものとしなかったのは
勇者の不撓不屈の精神があったからこそ
何度死んで同じ道をやり直そうが挫けない、
まったく気にもしないその性格が導いた今、
勇者は魔王の城を目の前にしているのだった
思えば数奇な運命だったと思う――
勇者は魔王に呪いをかけられ、
その死にやすさ故に同じ道を何度も繰り返し歩むことになった
だがしかし、
ただ一つ、その不遇を不遇のものとしなかったのは
勇者の不撓不屈の精神があったからこそ
何度死んで同じ道をやり直そうが挫けない、
まったく気にもしないその性格が導いた今、
勇者は魔王の城を目の前にしているのだった
とうとう来たか…
思えば長い道のりだったが、またこの景色を拝めるとはな…
どうだ!
俺は一度も死なずに魔王のもとまでたどり着いてみせたぞ!
あああ…勇者よついにやり遂げましたね
そのお姿、ボクの目には立派に映っています!
おい…まて…
感動しているところ私は言うがな、
お前が死なないよう面倒みてやったのは誰だと思っている…!
勇者と魔獣の子が手を取り合って喜んでいるところに
鎧もボロボロになって変わり果てた姿になった将校が顔を出してきた
歩いて躓いて頭を打つどころか、
魔物の出現に驚いたり、足を挫いたくらいで死にかけるのはおかしいだろう!
死にやすいにも程がある!!
しかも、その度に庇った私が坂から転げ落ちたり、魔物に襲われたりしたじゃないか!
勇者の死にやすさは、
打たれ弱さでもあるんです
ふざけている…!
――すると突然、
魔王の城の前に集った勇者たちの目の前に、
黒く渦巻く異空間が口を開けて現れた
なんだ!?
何かが来る、気をつけろ!
勇者が皆に注意を促した途端、渦の中から何者かが姿を現す
現れたのは魔王の手下である、魔物の女だった
ジャジャジャ~ン!
城にたどり着けただけで~
喜べると思ったら大間違いなんだから~!
くそっ!
また現れたか!
でも~やっと来てくれたのに追い返すわけにもいかないし
魔王サマは勇者に会いたがっているわけだから~
さっさと行って魔王サマに会うことを許してあげるんだから~!
なに…!
魔物の女が道をあけ、先に進むよう勇者に言う
勇者は一瞬戸惑ったが、城の中には倒すべき相手がいることと、ブックマーカーの少女がいることを思い出し、
魔物の女に敵意が無いことを確かめつつ警戒しながらも、先に進むため駆けだした
よし!中に入るぞ!
おっと~!
なにっ⁉
わあ!勇者ぁ!
どうした…⁉
しかし、勇者が魔物の女を追い越したところで、
勇者の後に続こうとしていた将校と魔獣の子は足止めをくらってしまう
二人の行く先を邪魔した魔物の女は、彼らと勇者との間に立ちはだかった
この先は勇者以外は通さないんだから~
魔王サマと勇者の逢瀬を邪魔する奴は、このアチシが相手するよ~!
あわわわわ…
くそっ!
勇者!ここは構わず先に行け!
ブックマーカーは中にいるはずだ!
ここまで死ななかったんだ!
たとえ一人でも、ブックマーカーに会うまで死ぬんじゃないぞ!
そしてブックマーカーを…
我が王を、皆を救い出してくれ!
将校…!
おう!まかせろ!
将校の言葉に背中を押され、
魔物の女と対峙する二人の姿を一瞥すると、
勇者は振り返ることなく魔王の城へと向かって行った――
複雑な城の中を駆け巡り
勇者は導かれるように目的の場へと進んでいく
もう一度、あの決戦の場へ
そして、
魔王がいる広間へと勇者はついにたどり着いた
魔王は一人で勇者を待ち構えていた
ふふふふ…
勇者よやっとここまで来たか
我は…我はどれほど待ったことか!
ああ、来てやったぜ魔王め
まったく迷惑な呪いなんかかけてくれたから、面倒ばっかかかっただろーが
だがいま、お前を倒し
この呪いを解いてもらう!
随分と苦労したか…
だが、それは我の思惑通り…
お前は呪いのためもう一度我に挑むことになった
そしていくらでも相手してやるため
我の退屈しのぎのために
再び始まりの地へ送り返してやろう!
魔王が言うと、二人は向かい合って構える
しかし、勇者は一度、剣を引きさげた
……おい、
ブックマーカーはどうした
どこかに閉じ込めている
あの娘は、この戦いには邪魔だからな
いくぞ!
魔王は有無をいわさず攻撃を仕掛けてきた
それに勇者も応戦する
ブックマーカーの少女の姿が見えずとも、
このどこかにいることに違いはない
死ぬに死ねない勇者は、
確実に魔王を倒すその意志で、次第に剣で魔王を追いつめていった
おおおおおおお‼
その動き…!
以前の勇者とまったく違う
…面白い!楽しいぞ!
だが我は一度や二度の戦いで倒されるつもりはない!また眠るものか!
もったいないが
ここで簡単にやられて心折れるお前の姿が見たい
返り討ちにしてやろう!
呪文を唱えた魔王の魔法攻撃が、勇者に向かって放たれる!
ぐああぁ!
魔王の一撃は勇者を遠くに飛ばした
まともにくらった勇者は広間を転がっていく
これで勇者は死んだ
そう思った――しかし、
勇者の姿が消えない…⁉
奴は確かにいまので死んだはず
ぐっ……
いや、確かにいま勇者は消えかけた
しかし再び現れた…
まさか…!
勇者さんの気配…すぐそばにいること、
私にはわかります
あなたは私に言った通り、
魔王を倒しにここまで来てくれました
なら今度は、私が約束を守り、
勇者さんを助ける番です‼
ブックマーカー…!
どこからか届いた彼女の声に勇者は確信する
そこかぁ‼
そして勇者は、魔王に向かって攻撃しにかかった
剣を振り上げ狙いを定める
しかし、切り裂いたのは魔王ではなく、
魔王が立つその頭上の空間だった
――ガッシャアアアン‼
と割れる音が鳴り響き、口を開いた空間から黒い霧が現れると、
中からブックマーカーの少女が吐き出された
ブックマーカー‼
間一髪、落ちてきた少女を受け止めると
勇者は魔王からブックマーカーの少女を取り戻す
勇者さん、
ありがとうございます!
これで俺の勝機は見えた
覚悟しろ魔王!
くっ…!
ブックマーカーを取り戻し、<ブックマーク>の力を再び手にいれたか
ならば呪いでその力を打ち消すまでだ
<ブックマーク>の消滅の呪いを再びその身に受けるがいい!
ぐわあ!
呪文を唱えた魔王の攻撃魔法が勇者を襲う!
そうはさせません!
魔王の呪いに直撃した勇者は消滅しかけたが、
少女の<ブックマーク>が発動し、勇者はその場に再び姿を現わす
何度呪いをかけようが、私が勇者さんの<ブックマーク>を担います!
勇者さん!あの時の約束です!
私は何度勇者さんの<ブックマーク>を消されようと、何度だって<ブックマーク>をし直します!
だから沢山死んでも気にしないで、
死んで、死んで…死にまくって!魔王を倒すために突っ込み続けてください!
それは魔王の呪いと、少女の<ブックマーク>の力の応酬だった
くらええ!
勇者は魔王を倒そうと挑み、
わ、我はやられるものか!
魔王は勇者にかけられた<ブックマーク>の力を消そうと呪いを放つ
<ブックマーク>です!
しかし、またすぐに少女が<ブックマーク>を発動し、
死んだ勇者はまたすぐに復活して魔王に挑む
それを何度繰り返しただろうか
いつしか魔王と勇者の距離は縮まっていき、勇者の剣が再び魔王へと届こうとしている
呪いを放つごとに近づいてくる勇者に
魔王は焦りを隠せなくなってきていた
こ、こんなはずでは…
いくぜ魔王!
さ、させぬ!
呪いで跳ね返してくれる!
勇者さん!
<ブックマーク>!
魔王と少女の力が相打って爆発する
魔王の目の前に粉塵が巻き起こり、勇者の姿が消えたのに、
またこの中から復活した勇者が飛びかかってくると、警戒して魔王は防御の態勢をとった
…魔王さん、
私、実は嘘をつきました
私はさっき、
<ブックマーク>を行っていません
何だと…!?
勇者さん、さあいまです!
少女の合図の声に、魔王は辺りを見回した
目の前の粉塵から出てこないのだとしたら、一体勇者はどこから――
その時、背後から勇者の声がした
魔王…
悪いが俺は、もうあの森に戻るつもりはない…
遊びも終わりだ
これで決着をつける!
勇者の剣が閃いて、魔王に重い一撃を与えた!
それをくらった魔王は広間に倒れ伏せる
そしてそのまま立ち上がる気配もない
勇者はついに、魔王を打倒したのだった
ぐ…う
まさか…我がやられるとは…
ついに、
ついに魔王を倒したぞ
やりましたね!勇者さん!
すると、魔王と少女が喜んでいるところに、遅れて将校と魔獣の子がやってくる声がした
勇者!無事か!
勇者ー!ブックマーカー!
大丈夫ですかー!
きゅう~
二人が倒したであろう魔物の女も、目を回して捕らえられている
勇者は、もう魔王が立ちあがる気配もないと確認すると
倒れ伏せるその場へと近づいて行った
勇者に倒された魔王は、再び深い眠りにつこうとしているのか
その姿は霧となって消えかけていた
お前をいたぶって遊んでやるつもりが
まさか我の方がやられてしまうとは…
つまらぬ…
また眠ってしまうのも…
再び目覚めた世界が平和でいることもすべてつまらぬ…
そう虚空を見つめてぼやく魔王に、勇者は言った
魔王、またお前が目覚めようが
俺が何度でも受けて立つ
お前の思い通りにはさせないからな
その言葉に、魔王はどこか嬉しそうに
楽しげに笑いながら言うのだった
そうか…
再び目覚めた世界にお前が待っているのなら、しばしの眠りも退屈ではない
そのまま待っていろ、勇者よ
また我が遊んでやるからな
最後に言い残すと、魔王は眠りにつき
姿は完全な霧となって消えていった――……
こうして勇者は魔王を打倒すことができ、
捕らわれていた各地のブックマーカーたちや国王は解放され、王国は再び平和と平穏を取り戻し
彼らの旅に幕はおりたのだった――