第6話「矢中三春、Lv1よ」








丘ですよー

えーどこに連れられるんですかー?

なんかドキドキワクワクっす!


 ぞろぞろと目隠しをされて、
 連れられてゆく丘ちゃんを横目に……。

 レッスン室で、わたしは思わず頭を抱えていた。

全国ランキング28731位って。
なんですかぁー!

だってだいたい、28731組もいなかったじゃないですか、あの会場!

他の参加者はどこにいたんですか!
ミステリーですよ!
ホラーですよ!

芦原っち荒れてるにゃー

ぎゃあぎゃあうるさいなあもう

す、すみません……。
も、だって……


 納得できない……。
 そう思って顔をしかめるわたし。

だって28731組ってことは、
約28万人のアイドルが、
グループを組んでいるって、
ことじゃないですか……

28万人って、
北海道函館市の人口とほぼ一緒ですよ……。
そんなにアイドルを目指しているんですか?
わたし、函館市の一住人と、
一緒ってことですか?

またわけわかんないこと……

大丈夫にゃ、芦原っち
ダブリもたっぷりいるから、
種類はそうでもないにゃ!

それはなんかすっごくやですけど!


 はー、と大きなため息をつく。

これじゃあトップアイドルなんて、
夢のまた夢ですねえ

あんた、そんなの目指していたの?

一応……

アイドルはRばっかりで、
スキルMAXはおろか、
レベルMAXすらいないのに、
それはさすがに無茶ってものにゃー

うう


 美也さんの冷静すぎるツッコミに、
 がっかりと肩を落とす。

 そっかあ、無茶なのかあ……。

じゃあせめて、
まずは一万位以内ぐらいを目標に、
がんばります……

無理ね

無理にゃー

そんなぁ!


 背後では丘ちゃんの悲鳴が響いていた。

アバーッ!

サヨナラ!

オタッシャデー!


 いつもと変わらない、日常。

 ですが、
 そんな穏やかな日常のひとつの風景は……。

破られようとしていたのです。











 って、そうそう。

 そういえば宿題があるんでした。
『個性』についても考えないといけないんです。

トップアイドルもいいけど、
まずは生き延びないとねー……


 といっても、わたしができるのって笑顔ぐらいだし。
 個性って言ってもなあ……。

 前途多難です。
 はー、どーしよー。

 部屋でのんびりキャラの方向性を考えていると、
 突然、矢中さんに話しかけられました。

ねえ、愛子

あっ、はい……。あっ、はい!?

今、なんか下の名前を、
呼んでもらったような……。

愛子、きょうこれから暇?

えっ、な、なんですか?
って、なんで裸なんですか!?


 きょうの矢中さん、なんだかすごく優しげです。

矢中さんと言えば、前回のLIVE。
――そして、わたしの初めてのLIVE。

センターで踊っていた彼女の姿はとってもキラキラしていました。
たまたまセンターになれただけよ、って言ってましたけど。

――とってもかっこよかったんです。


 はなびさんも、猫宮さんも、
 矢中さんについてはすごく認めているみたい。

 そんな矢中さんが色っぽい顔をしていると、
 すごくドキドキします。

ねえ、愛子。ちょっとレッスンしない?

え、えっ?

どうかしら、……ねえ?

いや、あのでも、夜も遅いですし

一緒に……ふたりっきりの、夜のレッスンよ

ええええええ!?


 な、なんでしょう、この展開は。

 唐突に降ってきた誘惑に、
 わたしのラブコメメーターが耐えられません!

あっ、わ、わかった、
や、矢中さん酔っているんでしょー!

そう思う?

ほら、だって、息がお酒臭くて……

どうかしら……? ほら


 顔、顔近い!
 近い!

 てか、全然お酒臭くない!
 矢中さんしらふだ!

だ、だめですよそんな、
わたしたちアイドルなのに!
人に夢を与える職業なのに、
こんなことしてちゃ……!

あら、今はアイドルでも、
色気が求められる時代だわ

確かに!


 だめだ、矢中さんに口じゃ勝てない!
 わたしはあっという間に壁際に追い詰められました。

私のこと、嫌い?

そ、そんなわけないじゃないですかあ……


 矢中さんは右も左もわからなかったわたしに、
 アイドルのイロハを教えてくれた先輩だ。

 憧れであり、とっても優しくて、
 踊っている姿はすごくかっこいい。

 そんな矢中さんにこんな風に迫られて……。
 あまつさえ、壁ドンなんてされちゃって!

 そんなの、そんなの、わたしもう……。
 ……って、なんで抵抗としているんだっけ。

ほら、ふたりで夜のレッスン、
始めましょう……?

ああん、矢中先輩……

ふふ、可愛い仔猫ちゃんね。
三春と呼んでもいいのよ

み、三春さんー……!


 と、そのとき!

 と、部屋のドアが開いたのだ!
 

待ちなさい、矢中三春! そこまでよ!

なんと、三春先輩がふたりも!


 いったいどういうからくりなんだー!

 そ、そんなことより!

ふたりの三春先輩がわたしを取り合って!

……

やめなさい、芦原さん
そういう事実はないわ

はい、ごめんなさい


 とても気持ちよく勘違いを、
 しようとしていたわたしに向けて。

 おそらく本物の三春先輩が、
 冷たく言い放ったのです。
















 矢中三春(R)

 Lv 1 / 30
 親愛度 0 /100

 特技:クール&コール
 効果:全体の防御力を10%up

 東京生まれの東京育ち。
 冷静だが、落ち込みやすい。
 ナイーブな心を持つ、21才。





ネタバレ:
次回、矢中さんは餌になりまっす!

第6話 「矢中三春、Lv1よ」

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