ホヒは、脱力系の兄を見て育ったからか、とても生真面目な性格だった。しかし、
ホヒは、脱力系の兄を見て育ったからか、とても生真面目な性格だった。しかし、
母上のためだ ・ ・ ・ ・ 頑張らねばっ!!
と勢い良く高天原を飛び出したものの、すぐに敵意むき出しのデモ隊に飲み込まれてしまう。
天つ神は帰れー!!
帰れー!!
へ?えっ!?ちょ、通してもらえないか?私はオオクニヌシに話しがあって!!
帰れ!帰れ!帰れ!帰れ!帰れ!
うわっ、やめろって!
通してくれっ!!
前にも右にも左にも行けず、ホヒが途方に暮れていると、デモ隊の奥から声がした。
おーい、デモ隊のみなさぁーーん!!!
・・・あの、お気持ちは嬉しいんだけど、アメノホヒさんのこと通してもらえないかな??僕に話があるみたいなんだ。
デモ隊の動きがピタリと止まった。そして隊長らしき人が口を開く。
で ・ ・ ・ でも、オオクニヌシ様、こいつは国を奪おうと ・ ・ ・ ・ ・ ・
どうやらこの声の主がオオクニヌシらしい。想像していたより人の良さそうな声だ。
まぁまぁ。
・ ・ ・ いいから、いいから。
デモ隊が道を開いた。その先に、にっこりしながらこちらを向いている人がいる。
・ ・ ・ あなたが ・ ・ ・ オオクニヌシ ・ ・ ・ ・ ・ ・
噂では、葦原の中つ国の女を根刮ぎ食らっていると聞いていたので、どんなにチャラい肉食野郎かと思いきや、虫も殺せなさそうな優男じゃないか ・ ・ ・ 。
ホヒはホッと肩の力が抜けるのを感じた。
こんにちは。アメノホヒさんですよね。
失礼しました ・ ・ ・ 事情は聞いています。さぁ、どうぞ。まずは宮殿までご案内します。
オオクニヌシはホヒを出雲の宮殿まで案内してくれた。
なんだ。母上が言ってたほど悪い人じゃ無さそうだ。案外あっさり、譲ってくれるかも ・ ・ ・ ・ ・ ・
そんなことを考えながら、宮殿の宴会場に通されると、豪勢な食事が用意されていた。
しかし、なんだか様子が変だ。
席には絶世の美女が何人もおり、次々とたかってくる。
こんにちわぁ、こちらのお席どうぞ~。お隣り失礼しまぁす♪♪
はーい、これ、おしぼりー★てか、ココって何繋がりなんですかぁ??
ねーねー、ホヒさんって、高天原から来てくれたんですよねぇ???すごぉーい!!都会っ子なんですねぇー!!
どこか美味しいご飯屋さん知ってます??
私も一緒に行ってみたぁい♪♪
あ、飲み物頼んでもいいですか?それか、何かボトル入れます??
このシャンパンすごく美味しいんですよぉ〜♪♪一緒に飲みたいなぁ♪♪♪
ホヒは硬直した。
・ ・ ・ ・ ・ ・ てゆうか、このノリ ・ ・ ・
完全にキャバクラじゃないかっ!!
危なっ!見た目に騙されるところだった!!やっぱこの人、噂通りのチャラ男だっ!!!
おっっ!!!オオクニヌシさんっっ!!!
ちょっ!!こっっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ !!!こんなことされては困りますっっ!!!!
美女に群がられ、ホヒは顔が真っ赤だ。
ん??こんなこと??
あ ・ ・ ・ もしかして、ヒメ達のこと??くすくすっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ごめんなさい、日常すぎて気づかなかった。
どんな日常だよっっっ!!!
ホヒは思わずツッコミを入れた。
すると、さっきまでニコニコと笑っていたオオクニヌシが急に影を落としてみせた。
周りの美女たちも静かになって心配そうに覗き込むと、彼は
ごめんね、2人でお話ししてもいい?
と言って、彼女たちに席を外させた。広い部屋が急にガランとする。
な ・ ・ ・ なんだ??何かまずいこと言っちゃったかな ・ ・ ・ ・ ・ ・ 謝った方がいいか?
と、ドキドキしていると、オオクニヌシが先に口を開いた。
先ほどは、ふざけてしまって、すみませんでした。確かに ・ ・ ・ ホヒさんの言うとおりですよね。ほんの少し前まではこんな日常は、ありませんでした。
いや、そんな深刻に取らなくてもよかったのですが ・ ・ ・
なんだか変なスイッチを押してしまったようで、ホヒは萎縮した。
実は、お恥ずかしい話しなんですけど、僕は小さい頃、イジメられていて ・ ・ ・
えっ?まさか。信じられません。
今じゃ葦原の中つ国であなたの右に出る人なんていないじゃないですか。
いやいや。何を隠そう、僕は腹違いの兄に2度も殺されているんです。カムムスビ様がいなければ、とうの昔に死んでました。
そんな ・ ・ ・
ホヒにとっては、予想外の過去だった。てっきり、スサノオの七光りで何の苦労もせずに、富と名声を手に入れたのかと思っていたのだ。
いや、大方そのイメージで間違っては無いんだけど。
オオクニヌシは、話を続けた。
もちろん、最初から全てが上手く行ったわけじゃありません。国づくりのために僕自身の手で、何人も兄を殺めることになってしまったんですから ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。
しかし、そんな兄たちの弔いの為にも、僕はこの国づくりに生涯をかけてきた。
・ ・ ・ ・ ごめんなさい。知りませんでした。なんだか、オオクニヌシさんのこと、勘違いしていたようです。
ただの他力本願なチャラ男なのかと ・ ・ ・
くすくすっ、否定はしません。僕なんかは人を頼らないと何もできないタイプですから。
でも ・ ・ ・ そんな僕と違ってアメノホヒさんは、優れた天つ神だと伺っています。
よかったら ・ ・ ・ ・ ・ ・
オオクニヌシはぐっとホヒに近づいて彼の目を見た。
・ ・ ・ ・ よかったら、国づくりのお手伝いをしていただけないでしょうか?
ホヒは、口を開けたまましばらく固まった。
へっ?いやっ ・ ・ ・ えっ!?
・ ・ いやっ、でも ・ ・ ・ 私は、母から国譲りを頼まれて来たんです ・ ・ ・ ・ ・ ・
ホヒは、テンパって目を逸らした。オオクニヌシは居住まいを正し、真剣な面持ちで頭を下げる。
もちろん、ホヒさんの立場はわかっているつもりです。お話をして、責任感の強い方なのだということも感じました。
でも、そんなホヒさんだからこそ、無理を承知してお願いしているんです。
・ ・ ・ ・ ・ ・ でも ・ ・ ・
僕はこれまで、みんなの血と努力でなんとか国を造って来ましたが、天つ神の方に国を譲れと言われてしまっては、もう何もできない。
そんな ・ ・ ・ ・ ・ ・
しかし、まだ国づくりは終わっていないんです!!こんな中途半端なところで譲ってしまっては、黄泉の国の兄達にも合わす顔が無い。もし、ご協力いただけるなら、生活に必要なものは全てこちらで揃えます。
僕は、この国に住む全ての人を幸せにしたいんです!そのためには、ホヒさんの力が必要なんだっっ!!!
オオクニヌシは深々と頭を下げ、そして考えた。
んーー ・ ・ ・ ・ ・ ・ まじめそうだから、誠実っぽく訴えれば落とせると思うんだけど。
どうだろ。 ・ ・ ・ 最後らへん、ちょっと演技がクサかったかな ・ ・ ・ ・ ・ ・
まぁ、ここまでオオクニヌシの物語を見て来た方であれば分かると思うが、途中からかなり話しを盛っている。彼は、ホヒを出雲側に引き込む気まんまんだった。
そりゃ、オオクニヌシにしたって、ここまで苦労して築き上げてきたものを『くれ』と言われて、『はい、どうぞ』なんて譲る気なんか、毛頭ない。
しかし、国づくりに協力をしてもらっている天つ神に、譲れと言われてしまっては、何もできないことも事実だった。出雲を守るためには、ホヒを口説き落とすほか無いのだ。
そして、オオクニヌシが恐る恐る顔を上げると ・ ・ ・
ホヒは号泣していた。
んあぁ!! ・ ・ ・ 無理だっ!!私にはあなたにこの国を譲れなんて言えないっ!!
ぐじゅっ ・ ・ ・ ・ 私で ・ ・ ・ 私で、お役に立てるなら、喜んでお手伝しましゅっっ!!!
よかった ・ ・ ・ ・ ・ ・ ここまで泣かれるとちょっと罪悪感だけど ・ ・ ・ ま、いっか。
ごめんね、天照大神。
息子さんはもらったよ。
オオクニヌシは、人知れずほくそ笑んだ。
・ ・ ・ そうですか!よかったぁ!!
本当にありがとうございます!!共に良い国を作りましょうね。ホヒさんっ♪♪
こうして、ホヒはちゃっかり出雲に住み着き、オオクニヌシの元で国づくりを手伝うことになった。
前々からこの作品が好きで、懐かしく思いながら再度読み直しているところです。
何度読んでも楽しい作品を生み出してくださった阿礼さんに感謝の気持ちでいっぱいです(*´︶`*)