お昼時を少し過ぎた食堂の一角。
人はまだ疎らに残っているが、
すぐに誰も居なくなるだろう。

……この2人以外は。

ニケ

……それで、やっぱりどうも打ち解けられていないようなんです。

アステリア

まあ、簡単にはいかんだろうね。

ニケ

でも、このままじゃやっぱり可哀想ですよ。

アステリア

それは私だって思ってるよ。
あ、そうだ。
アンタの友達がしたってあれ。
試してみればいいじゃないか。

ニケ

あの話ですか?
無茶言わないでくださいよ。
あいつらの説得方法は女の子に使えないですよ。

ニケ

でも、近いことは考えてます。
殴るんじゃなくて、守る方向で。

アステリア

ほう?

ニケ

要はですね。
傷つけられても平気だよ、ってことじゃなくて、傷つけられなんかしないよ、って思わせればいいかなって……。

アステリア

アンタが全部防ぐからって?
まあ、確かにぶん殴るよりは平和的な説得方法だね。

ニケ

そうでしょう?
魔力を持ってるって点はそもそも誰も気にしてないわけですし、後はその魔力が誰かを傷つけることはないって証明できれば、彼女も心を開いてくれると思うんですよ。

アステリア

でも、それをどうやって証明するんだ?
アルマの暴走を止めたことは何度もあったけど、あれは全力じゃないんだろ?
アルマの全力でも押さえ込めるって証明しないと、説得力なんて無いよ。

ニケ

そこなんですよねぇ……。

アステリア

アルマに頼んで、本気の力をアンタにぶつけてもらう?
2人の能力テストとか適当なコト言ってさ。

ニケ

いえ、先に説得が成功しないことには、彼女が全力を出してくれることはないでしょう。
ましてや人に向けるなんて無理でしょうね。

アステリア

だろうね。
でも、それじゃあどうするんだ?
私やルーツ、オーゼを入れてもあの子の力には及ばないよ。

ニケ

それなんですが、
実は丁度いい相手を見つけまして。
上位の魔物ってことで、
アルマの力にも引けをとらないかと。

アステリア

ははあ。
アイツを使う気か。
悪くはないけど、アイツは本当に強いよ。
いざって時、私達でも助けられないかもしれないけど、それでもやる気?

ニケ

……それぐらい体張らなきゃ、人なんて助けられないと思うんですよ。

アステリア

言うねえ。
アンタも勇者らしくなってきたじゃないか。

ニケ

でも、実際不安もあるんですよ。
今の俺の力で、あの魔物の攻撃を防ぎきれるのかって……。
それでですね――

アステリア

わざわざ相談相手に私を選んだってことは、そういうことなんだろ?
安心しな。徹底的に鍛えてやるよ。

ニケ

ありがとうございます!

ニケ

まあ、ルーツさんやファイナさんに相談しなかったのは、絶対引き止められるってこともあるんですけどね……。

アステリア

私なら乗ってくるって踏んだわけか。

アステリア

よくわかってるじゃないか。

ニケ

ハハ……。
お手柔らかにお願いしますね……。

アステリア

……まぁ、そうは言っても
アイツは本当に強力だ。
できれば、それは最後の手段にしたい。
一応、他の方法でも心を開いてもらうよう努力しないとね。

ニケ

ふむ。じゃあどうしましょう?

アステリア

一緒に居ればそのうち慣れるんじゃないか?
アルマを呼んできな。
たまにはお茶でもしようじゃないか。

ニケ

そんなんでいいんですか?

アステリア

大事なことだろ。
こういうのは積み重ねが大事さ。
ほら、さっさと行く。

ニケ

はい。

駆けていったニケと入れ替わりに、
ルーツが食堂にやってきた。

アステリア

お、いいところに。

ルーツ

なんだ、お前も居たのか。
今ニケが出て行ったが、2人で何してたんだ?

アステリア

ちょっと作戦会議をね。
今終わったところさ。

ルーツ

はあ?

アステリア

ところで、アンタ暇だろ?
ちょっとそこ座りなよ。

ルーツ

暇で食堂に来るわけねえだろ。
飯食いに来たんだよ俺は。

アステリア

飯ならそこで食えるだろ。
座りなって。

ルーツ

別にいいけどな……ん?
ニケ、もう戻ってきたのか。

ニケ

戻りました。

アルマ

こんにちは、ルーツさん、アステリアさん。

ルーツ

おう、アルマ。
お前も昼飯か?

アステリア

いや、私が呼んだんだよ。
たまにはお茶会でもどうかと思ってさ。

ルーツ

お茶会?
俺は飯を……いや、いいか。

アステリア

わかってるじゃないか。
さ、始めようか――

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