ニケの相談(?)から更に数ヶ月が過ぎた頃。
4人は再び、城外の森へ来ていた。

ルーツ

なんでお前まで来るんだよ?
もう、アルマも大分戦いに慣れてきただろ。

アステリア

いいじゃないか。
たまにはさ。
2人の成長を見たいんだよ。

ニケ

そうですよ。
人数が多いほうが楽しいですしね。

ルーツ

別に俺はいいんだが……。

ニケ

それにしても、
アルマもホント強くなったよね。

アルマ

ありがとうございます。

ルーツ

安定して森の奥まで入ってこられるようになってきたしな。

雑談中にも、魔物たちは襲ってくる。
しかし、あっという間にニケの魔力で八つ裂きになるか、アルマに切り払われるかで消滅していく。

アステリア

いい感じじゃないか。

ルーツ

ああ。
模擬戦闘の進行速度も随分早くなったな。
ほら、見えてきたぞ。

この魔物も、もう見慣れたものとなった。
もはや、進行具合の指標として扱われている。

相変わらず身じろぎひとつしない。

ルーツ

あいつを見かける機会も増えたな。

ニケ

そうですね。

ニケ

ところでアルマ。
いつかプレゼントの話をしたの、覚えてる?

アルマ

え? うん。

ニケ

あの花なんてどう?
結晶化した花。
綺麗じゃない?

アルマ

え……危険ですよ?

ルーツ

やめとけよ。
あいつの足元にあるんだぞ?
下手に刺激したら襲い掛かってくるぞ。

ニケ

平気ですよ。
ねぇ。アステリアさん。

アステリア

ああ。
別に足元通るぐらい平気だろ。

ルーツ

ああ。じゃねーよ。適当な事を言うな。
前回は近づいただけで襲いかかってきたじゃねぇか。

アステリア

それはそれ。
これはこれ。
アイツも前とは性格変わってるんじゃない?

ニケ

そういうわけで、ちょっと取ってきますね!

ルーツ

は? おい、待てって!

追いかけようとしたルーツの手を、アステリアが掴む。

ルーツ

おい、何やってんだ?

アステリアがルーツを抑える間に、
ニケは魔物の元に辿り着いた。

目の前で見ると、ますます大きい。
4, 5mはあるだろうか。
巨大な目が、真っ直ぐニケを見つめている。

ニケはゆっくりと近づき、花に手を伸ばした。

その時……。

魔物が、ゆっくりとその首を起こした。

アルマ

危ない!

ルーツ

!!
おい! 避けろ!

ニケ

!!
うぐっ

ニケが顔を上げるより先に、
鞭のような魔物の首がニケを胴を捉える。

簡単に吹き飛ばされ、ニケは地面に倒れ込んだ。

魔物がその巨体を起こし、
倒れこんだニケに近づいていく。

ルーツ

クソッ!
言わんこっちゃねぇ……!
おい、アステリア行くぞ!

アステリア

……。

ルーツ

おい、離せよ!
早く行くぞ!

アステリア

悪いけど、手を出さないでやってくれ。

ルーツ

はあ?
お前……。

ニケ

危ない危ない。

ニケが何事も無かったように起き上がる。

しかし、何故か逃げようとせずに、
魔物に向かって踏み込んだ。

魔物が振り上げた前足に向かって、両腕を構える。

ルーツ

お前ら……何考えてる?

アステリア

……。

ニケ

俺の壁……破れるものなら破ってみろ!

魔物の攻撃が、ニケの壁に阻まれる。

衝撃が響く。

生身で受ければ、一瞬で潰されるだろう。

ルーツ

はぁ……。
危険だと判断したら助けに入るからな。

アステリア

ああ。
それでいい。

ルーツ

ッチ……。

アルマ

……。

魔物の攻撃は激しさを増すが、ニケも引かない。

ルーツ

壁を維持するってことは、
その分魔力を使うんだろ?

……あいつの壁は、どれぐらいもつんだ?

アステリア

ただ維持するだけならまだまだもつけど、
アイツの攻撃で削られるからわからないね。
まあ、まだいけるさ。

……ルーツが苛立たしく首を振った。
ニケと魔物が戦い始めてから、随分と経つ。
いつニケの魔力が尽きるのか、不安なのだろう。

ニケは随分消耗しているが、魔物も限界のようだ。

ニケ

ハハ……まだ……やるか?

魔物が応えるように、咆哮が響く。
次の瞬間、轟音と共に
魔物の口から青白い光のブレスが放たれる。

光がニケを包み込んだ。

ニケ

ぐっ……これは……!
ま、負けるか……。

壁の光が次第に弱まっていくが、それでも耐えている。

不意に、ブレスの勢いが弱くなった。

同時に、魔物が崩れ落ちる。

ブレスの残光の中から現れたニケは、片膝こそついているものの、最後まで耐え切ることができたらしい。

ニケ

魔力を使い果たしたね。
今のが最後の……一撃だった……わけだ。

壁が消滅し、ニケも崩れ落ちた。

すぐにルーツが駆け寄って、
ニケを抱えて魔物から距離を取る。

魔物は僅かにルーツの方を見たが、
もう追いかける気も無いようだ。

ルーツ

本当に何やってんだよお前ら。
死んじまったらどうすんだよ?

アステリア

大丈夫だろ。
誰が鍛えてやったと思ってるんだ。

ルーツ

は?

ニケ

まあ、
無事だったんだからいいじゃないですか。

ニケ

はい、アルマ。

ニケが取り出したのは、結晶の花だった。
魔物に吹き飛ばされる直前、拾っていたらしい。

アルマ

ど、どうして?
どうして、そんなにボロボロになってまで、この花を私に……。

ニケ

……。
君に喜んでもらいたいから……っていう体だったんだけど、実際はちょっと違うかな……。

アステリア

……。

アステリア

おい、ルーツ。
行くよ。

ルーツ

は?
何処にだよ。

アステリア

アイツだ。
弱ってる今なら倒せそうだと思わないか?

ルーツ

何言ってんだよ。
ニケがこんな状態なのに、2人を置いて離れるつもりか?

アステリア

ああ、そうだよ。
2人っきりでね。置いていくのさ。

ルーツ

……まぁ、いい。
次からは黙ってすんなよ。

アステリア

言ったら止めてただろ。

ルーツ

あたりめーだ。

ニケ

プレゼントは本当にただのプレゼントだよ。
ただ、わざわざこの花に手を出したのは、あの魔物を挑発するためかな。

アルマ

挑発って、どうしてそんなこと……。

ニケ

そりゃ、あいつに俺を攻撃させるためかな。
それで、見てて欲しかったんだよ。君に。
俺の力は強力な魔物にも負けないぐらい、強いって事をさ。

アルマ

……。

ニケ

君が座学や訓練の時以外に他人と居るところは見たことがない。
俺たちと一緒に居る時も、いつも一歩引いてた。

ニケ

……君は、誰かと関わるのが怖いんだろ?
自分の力が相手にどう思われるのか、自分の力が相手を傷つけてしまわないか、そんなことばかり考えちゃってさ。

アルマ

そ、それは――

ニケ

アルマ。
俺も同じだよ。
俺も悩んでた。
この力のせいで、誰かと関わるのが怖くて、誰とも関わらないよう皆を避けてた。

アルマ

……!

ニケ

でも、どんなに逃げても、しつこくついてきたやつらが居たんだよ。
以前ちょっと話した、あの2人だよ。

ニケ

それでも避けてたら、
ついに友達が怒っちゃってさ。
突然ぶん殴られて、言われたんだ。
あの時の2人の言葉は今でも覚えてるよ。

ニケ

「そんなに私達を傷つけるのが怖いですか?」
「これで貸し1ずつ。お前の力が暴走しようが、1回はおあいこだ。これで安心だろ?」
「その時は、また殴ってあげますよ」

ニケ

笑っちゃうだろ。
2人とも、ほんと言ってることめちゃくちゃだよ。
そういう話じゃないってのに。

ニケ

……でも、嬉しかったよ。
俺がこんな力を持っていても2人は気にしないってことを、2人なりに伝えてくれたんだから。

ニケ

だから、同じ悩みを持ってた君を、同じように助けてあげたいと思った。

ニケ

まあ、流石に君をぶん殴るわけにはいかないけどね。
俺の専門は守ることだしさ。

ニケ

だから、俺は守ることで君を助ける。
俺の力があれば、君の力が暴走したって安全だろ?
実際、何度も防いできたんだし。

アルマ

……うん……。

ニケ

だからさ、俺たちの事は信じてよ。
ここには、君の力を恐れる人なんて居ないし、君の力で傷つけられる人も居ない。

君の力が周りに受け入れられてるってわかれば、君も、自分の力を受け入れられると思うよ。

アルマ

うん。

そうだ、アルマ。
君が最初にこの城に来た時にした話、覚えてる?

話?

俺と、友達になってよって話。

うん。

でもさ、やっぱり一線引かれてたと思うんだ。
まだ君は自分の力を気にしてたから。
でも、もう平気だろ?
だから改めて、俺と友達になってよ。

うん……こちらこそ、
よろしくお願いします。

よっし!
今度こそ本当に約束だよ。

今度こそ本当に俺たち

友達だ。

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