僕たちの旅にシーラが加わり、
仲間は4人になった。

次に目指すのは第3の試練の洞窟。
まずはラート王国の端にある
シャポリの港町へ向かう。


リパトからシャポリまではかなり距離が
離れているし、いくつも町や村を通過する。
ただ、ラート中央街道を
ひたすら進めばいいだけなので
道に迷うことがないのは幸いだ。

シャポリに着いたらそこから船で海に出て、
フェイ島という小さな島へ。
そこに第3の試練の洞窟があるらしい。



だから第2の試練の洞窟を出発した僕たちは、
まずリパトへ向かって歩いていた。

するとその途中、
不意にミューリエが声をかけてくる。
 
 

ミューリエ

アレス、すまん!

アレス

えっ?
どうしたの、ミューリエ?

ミューリエ

洞窟のそばに
忘れ物をしてしまったようだ。
取りに行ってくる。

タック

…………。

アレス

そうなのっ?
じゃ、すぐに戻ろう。

ミューリエ

いや、私だけでいい。
アレスはリパトの宿で
待っていてくれ。
なるべく早く追いつく。

アレス

でも……。

タック

アレス、
ミューリエの言う通りにしようぜ。
コイツ1人の方が身軽だから、
もしかしたら
オイラたちがリパトへ着く前に
合流できるかもしれない。

アレス

あ……確かにそうかも……。

アレス

ミューリエ、
絶対に追いついてきてよ?
約束だよ?
このままいなくなっちゃうなんて、
僕は嫌だからね?

ミューリエ

あぁ、約束だ! 安心しろ!

アレス

良かった!
じゃ、気をつけてねっ!

シーラ

…………。

 
こうしてミューリエとは一旦別れ、
僕たち3人はリパトへ向かって歩き出した。

ちなみにその約束通り、
リパトに着いた日の夜にミューリエが合流し、
翌日から再び4人で
シャポリを目指したのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
そしてリパトを出て10日後、
ついに僕たちはシャポリへ到着した。

目の前には大きな水たまりがあって、
先が見えないくらい
どこまでもそれが広がっている。
また、何か独特の香りもする。

タックやミューリエの話だと、
これが海らしい。
書物では読んだことがあったけど、
想像していたよりも桁違いに壮大で、
すごく感動的だ。


――なんか興奮が収まらないっ!
 
 

アレス

うわぁ!
僕は生まれて初めて海を見たよ!

シーラ

私もですっ!
故郷の山には湖がありましたけど、
それよりも大きいなんてっ!

アレス

あっ、僕もその気持ち分かるなぁ!

シーラ

アレス様もですかっ?
ですよねぇっ!

アレス

魚っていっぱいいるんだろうねっ?
やっぱり大きいのかな?

シーラ

お城くらいに大きそうですよね!

タック

……おいおい、アレス、シーラ。

 
不意にタックがソワソワしながら、
声をかけてきた。
しきりに周囲を見回しながら、
頬を引きつらせている。


何かあったのかな?
 
 

アレス

ん? どうしたの?

シーラ

タック様?

タック

もう少し落ち着けよ。
みんなが見てるじゃないか。
一緒にいるオイラは恥ずかしいぞ?

ミューリエ

……不本意だが、
私もタックと同意見だ。

アレス

えっ?

 
そう言われて周りをよく観察してみると、
すれ違う人や近くの商店の人たちは
僕たちを見て一様にクスクスと笑っていた。

――しまった!
あんなにはしゃいでいたら、
田舎者丸出しじゃないか。


うぅ、なんかみんなの視線が生暖かい。
テンションが上がりすぎていて、
全然気がつかなかったよ……。
 
 

アレス

あう……。

シーラ

あ……。

 
僕とシーラは赤面しつつ、
小さくなってしまった。

穴があったら入りたいって気分が、
よく分かったような気がする……。
 
 
 
その後、僕たちは宿を見つけ、
この日はゆっくり休むことにした。
船のチケットは明日に手配する予定だ。

なお、夕食は宿の近くにある食堂で、
海で採れたものを中心とした
コース料理を注文。

その時に食べた魚、
肉厚でジューシーで美味しかった。
また食べたいなぁ……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
翌朝、
僕たちはフェイ島行きの
定期旅客船に乗るため、
港にある船舶会社を尋ねた。

カウンターには身なりの整った、
上品そうな男性が座っている。
 
 

ミューリエ

ちと聞きたいのだが?

船舶会社の係員

いらっしゃいませ。
船をご利用ですか?

ミューリエ

あぁ、そうだ。
ここにいる3――
いや、4人で利用したい。

 
ミューリエはタックを横目でチラリと見て、
慌てて人数を修正した。

すると即座にタックは眉をつり上げて
ミューリエを睨み付ける。
 
 

タック

おいっ、コラっ!
お前、いい加減にしろよっ?
いつもいつもオイラを
除け者にしようとしやがって!

アレス

まぁまぁ、タック……。

船舶会社の係員

4名様ですね?
行き先は
どちらでございましょうか?

ミューリエ

フェイ島という場所だ。

船舶会社の係員

っ!?

 
受付の人は行き先を聞いた途端に
顔を曇らせた。

何か様子がおかしいような……。
 
 

船舶会社の係員

申し訳ありません。
現在、隣のソレイユ大陸方面の便は
大量の予約が入っておりまして、
乗船日は未定でございます。
早くとも3か月後、
ましてやフェイ島経由の航路は
全便が休航中で、
再開の見通しは
立っていない状態です。

ミューリエ

どういうことだ?

船舶会社の係員

魔王が復活して以来、
外洋は凶暴な海のモンスターが
出没しております。
ですから、
特殊な対策を取った船1隻しか
使えないのです。
安全な航路も大陸に沿った
迂回路のみで、
往復するにも時間がかかりますし。

タック

確かフェイ島は
ソレイユ大陸方面へ、
海の真ん中を突っ切る短絡航路の
途中にあったんだよな?

船舶会社の係員

えぇ、あの海域は特にモンスターが
多く出没している上、
その航路を通るのに
必要不可欠な道具が
彼らを刺激する音波のようなものを
発しているらしいのです。
ですから確実に襲われてしまいます。

ミューリエ

なるほど、
それで休航しているのか……。

アレス

ほかにフェイ島へ行く船を
運航している会社や漁船なんかは
ありませんか?

船舶会社の係員

状況はどこも同じだと思います。
魔王が倒され、
海が落ち着くのを
待つしかないでしょう。

 
うーん、魔王を倒すためにも
僕たちはフェイ島へ行かなければ
ならないんだけどなぁ……。



仕方なく
僕たちはソレイユ大陸方面の便の予約をして
船舶会社を出た。
このままこちらの大陸にいるわけには
いかないから。

ただ、
その便だとフェイ島へは行けないんだよなぁ。
別の試練の洞窟へ先に行くという手段は
とれるけど、
いつかはその島へ
行かなきゃいけないわけだし。


どうしたらいいんだろう……。
 

 
 
 
次回へ続く……。
 

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