荷馬車に揺られること数十分。
この不規則な振動にも慣れてきた頃
荷馬車が不意に止まった。

ルーツ

お、着いたかな。

ルーツが呟くのと同時に、
荷馬車のドアが開かれ、男が顔を出す。

ルーツさん。
着きました。

ルーツ

おう、お疲れ。

ルーツ

それじゃ降りるぜ。

ニケ

はーい。

城からも、街からも離れた場所。
遠くに、街の壁が見える。

ルーツ達一行は、戦闘訓練のため城外に来ていた。

ルーツ

――今日は簡単な戦闘訓練をやりに行く。
ニケはもう何度かやってるな。
アルマは初めてだから不安もあるかもしれないが、この付近には強い魔物なんてそう居ないから安心しろ。

実際に戦ってみたほうが、自分の向き不向きとか分かりやすいしな――

アステリア

あー、しんどかった。

ルーツ

情けねえな。
大した距離じゃないだろ。

アステリア

窮屈なところは嫌いなんだよ。

ニケ

ところで、
なんでアステリアさんが居るんですか?
普段は来てないですよね。

アステリア

アルマはまだ戦闘に慣れてないからね。
もしもの事があったら困るだろ。
護衛みたいなもんだ。

アルマ

……。

ニケ

なるほど。
それは確かにそうですね。

アステリア

まあ、こんなところじゃそんな心配もないと思うけどね……っと。

アステリア

早速出てきたね。
コイツはこの付近でも一番の雑魚だから、
怖がらなくていいよ。

ルーツ

それじゃニケ。
倒してみろ。

ニケ

はい。

ニケは剣を構えると、3人の前に出た。
魔物と対峙し、ジリジリと距離を詰める。

ある程度距離を詰めたところで、
魔物がニケに飛びかかった。

ニケ

よっ。

魔物が手に持った斧でニケに斬りかかるが、
ニケは軽やかにあしらっていく。

ニケ

ここだ!

魔物が大振りの攻撃をしてきたところを、
咄嗟に身を引いて避ける。

空振りした魔物はそのままバランスを崩してしまった。

すかさず、ニケの蹴りが魔物を捉える。

吹き飛んだ魔物が、木に打ち付けられた。

距離を取ったニケが何やら構えると、
ニケの背後に無数の光が現れた。
ファイナの教室で見たような、水色の光だ。

ニケ

これで終わりだ!

その合図とともに、背後の光が魔物めがけて飛散した。
魔物は全身を串刺しにされたかと思うと、
霧のように消えてしまった。

ニケ

こんなもんですね。

ルーツ

まあ、これぐらいは余裕か。
魔力を使った戦いにも慣れてきたようだし、いい調子なんじゃないか。

ニケ

ありがとうございます。

アステリア

でも今の、わざわざ魔力使う必要無かったんじゃないか?
相手に振り抜かせた後叩き斬って終わりだろう。

ニケ

ちょっとカッコつけたくて。

アステリア

そうかい。

ルーツ

魔族と戦うことになれば、
魔力を使った戦いは避けられない。

例え雑魚相手だろうが、
その戦い方に慣れておくのは重要だ。

確かに、雑魚相手に今みたいな大技を使うのは大袈裟かもしれんがな。

ニケ

まぁいいじゃないですか。

ルーツ

お前がいいなら別にいいんだが。
調子乗って魔力枯渇させねーようにな。

ニケ

それはわかってますよ。

ルーツ

ならいい。

ルーツ

それじゃアルマ。
しばらくニケに戦ってもらうから、
お前もよく見ておくんだぞ。
いずれはニケと並んで戦うんだからな。

アルマ

はい。

ルーツ

それと、魔物は生き物に似ている姿をしているやつも多いから、戦うときにためらいがちになるものは多い。
が、今見たように本質的にはただの魔力の塊だ。
生き物とは似て非なるものだから、
気にせずやれ。

アルマ

わかりました……。

ルーツ

それじゃ、軽く魔物の相手をしながら進んでみるか。

ニケ

ふぅ……。
大分進んできましたね。

ルーツ

今日は調子がいいな。
まだまだ余裕そうじゃないか。

アステリア

余程良いところ見せたいんだろうね。

ニケ

はい。

ルーツ

少しは隠せよ。

ニケ

ハハ……ん?

少し薄暗い森の一角に、巨大な影が見えた。
象にも似たその魔物は、何をするでもなく
ただうずくまっている

ニケ

な、なんですか……あれ……。

アルマ

……。

ルーツ

あー。あいつか。

アステリア

懐かしいな。
すっかり忘れてたよ。

ニケ

なんでそんな冷静なんですか。

アステリア

あいつの足元を見てみな。

ニケ

足元?

魔物の足元にはいくつかの花が咲いているが、
そのどれもが結晶のように硬質化している。

ルーツ

ずっと前からここに居るんだよ、あいつ。
あいつの魔力で周囲の環境が変わっちまうほど長い間な。

実は結構上位の魔物みたいでな。
街の近くに居られちゃ困るってんで、以前俺たちで討伐隊を組んだんだが、返り討ちにあって以降は放置状態だ。

一応城から監視だけはしてるから、動きがあれば知らせは来る。

ニケ

そ、そんなに強いんですか?

アステリア

まあ、あの頃は私達も未熟だったからね。
再戦してみるかい?

ルーツ

そりゃあの頃と比べりゃ随分成長はしたがなぁ。
オーゼが居たって勝てなかったんだぞ。

ニケ

オ、オーゼさんまで負けたんですか!

アステリア

以前はね。
今はわからないよ。

ルーツ

実際、このままにしておくわけにはいかないな。
また頃合を見て討伐するか。

アステリア

んだね。

ニケ

その時は俺も戦いますよ。

アステリア

そりゃいいな。
アンタの壁がコイツにも通用するか見ものだよ。

ルーツ

相手は上位の魔物だからな。
その力はアステリアの比じゃねーぞ。

アステリア

何で私を引き合いに出すんだよ。

ルーツ

っと……ちょっと話しすぎたな。
そろそろ引き上げるか。

アステリア

また荷馬車か……。

ルーツ

嫌なら歩いて帰るか?

アステリア

それも悪くないね。

ニケ

冗談でしょ……ん?

森を抜けてすぐの場所に
来た時に見たものと同種の魔物が立っていた。

魔物は4人の姿を見つけると、
斧を振り上げて襲いかかろうとした。

アステリア

ふむ。
ちょうどいいね。

魔物が斧を振り上げるや否や
懐に飛び込んだアステリアの蹴りが魔物を捉える。
さらに蹴る直前に斧を奪い取ってみせた。

アステリア

これでよし。
アルマ。ちょっとこいつと戦ってみな。

アルマ

えっ……?

ルーツ

武器取り上げてんなら大丈夫だな。
アルマ。ちょっとやってみるか。

アルマ

わ、わかりました。

アルマが剣を構え、魔物を見つめる。
魔物はよろよろと起き上がり、アルマを睨みつけた。

アルマ

……。

飛びかかってきた魔物に応戦する。

ニケのように軽くあしらえはしないが、
それなりに受け流せているようだった。

ルーツ

お、いい調子だな。

暫くは防戦一方だったアルマだったが、
ついに斬撃が魔物に命中する。

元々アステリアの攻撃を受けていた魔物は
その一撃で崩れ落ちた。

アルマ

あ、や、やりました!

思わず3人に振り返るアルマに、アステリアが叫ぶ。

アステリア

気をつけろ!
完全に消滅させるまでは油断をするな!

アルマ

え?

アルマはすぐに向き直ったが、少し遅かった。
飛びかかった魔物が、アルマの眼と鼻の先に迫る。

アルマ

……っ!

咄嗟に振り上げた剣から、閃光が溢れ出す。

閃光は稲妻のように激しくなり、
辺り一帯を切り裂いた。

ニケ

危ない!

ニケの創りだした壁が、閃光を防ぐ。
閃光は次第に勢いを失い、消えた。

ニケの力で4人は無事だったが、
閃光の中心に居た魔物は塵も残さず消滅した。

アステリア

お、おお。
なんて破壊力だよ。
アンタ達、雑魚相手に気合入れ過ぎじゃないか?

アルマ

い、いえ。
こんな、つもりじゃ……。

ルーツ

うーむ。
説明が足りなかったな。すまん。
魔物は完全に消滅させるまでは何度でも起き上がってくるんだよ。

ルーツ

まあ、結果的に魔力を使った戦いの練習にもなったんだし、終わりよければって事で。
それじゃ、帰ろうぜ。

アルマ

は、はい……。

ニケ

……。

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